第二話
南に街道を歩くと雪が消えた。良かった……と思いきや行くと騒がしい一団が居る。
「ラディアだ、ラディアが起きてるぞ~!」
「おいおい、ラディアってなんだ?」
馬に乗るロインが聞く。ロインはようやく馬に乗る術を身に着けたばかりだ。
「お前、ベルダーシュなのに知らないのかよ!!」
通行人が喚く。
「消される<ラディア>んだよ!!」
(消される……。もしや?)
「ベルダーシュの居ない村なんて終わりだ。俺たちは他所の村に逃げる!!」
そう言って一団は街道を後にした。
(消される……もしかして……!)
コミギ村にたどり着いた。
なんと村人全員が樹に磔にされたベルダーシュを囲んでいる!!
「お前がこの村に疫病を流行らせたんだ!!」
村人がベルダーシュへ石を投げる。
「悪魔の使いめ!!」
さらに別の村人がたいまつを持ってきた。
「妖術師に死を!!」
なんと酋長がベルダーシュを火あぶりの刑にしようとしているではないか!!
「やめろーーーーー!」
そういってロインは馬を降りて次々魔法を唱える。
電撃魔法が村人の周りに次々炸裂する。
「新手だ~!」
村人が逃げていく。
「お前、仲間を呼んだな!! この妖術師め!!」
酋長は自宅に逃げた。
「覚えてろ!!」
そう言って人々は家に逃げ込んだ。
「何で俺を助ける?」
ロインはその言葉にびくっとし磔にされた者を見上げた。
「何で……だと!?」
その言葉にさらにロインは怒りを覚えた。
「お前が妖術でこの村に病気を持ち込んだのかよ!!」
「違う。違うが言っても無駄だ」
ロインは魔法でロープを切る。
「この国はな、少しでも違う事とするとベルダーシュは消される運命にあるんだ。お前はそれを覚悟でベルダーシュになったんだろ!?」
――違う
「異端会にかけられたら十中八九アウトだ」
(異端会? 何だそれは?)
「異端会の名前はだから『ラディア』、俺たちの存在を浄化された炎で消す儀式なんだよ」
――違う
「今なんて言った?」
「……違う」
相手は聞き取れなかった。
「『違う』って言ったんだよ!!」
(くだらない……ばからしい)
「病魔? そんなものは薬飲めば治るし、たいていの原因は不衛生が原因なんだよ!!」
「……そんな正論が通じたら多数のベルダーシュは殺されない」
(じゃあその正論を通じさせてやる)
「お前の名前は?」
「カズヤだ」
「じゃあ一緒に来ないか? ついでに病魔を治す旅にも出ないか? ……もうここに居ても殺されるだけだろ」
「そんな簡単に……」
「だから、他所の村で衛生状況を良くして、薬となるハーブも普及しようぜ? そうすれば風の噂でこの村にも広まるさ。妖術師狩りは間違っていると」
(しまった名前の紹介がまだだったな)
「おっと、俺の名はロイン。よろしく」
「ロイン……」
「ロイン、俺も同じく男から性別を変更したベルダーシュだ。よろしく」
(カズヤはまんま男の子だな。「ベルダーシュ」と言われなければ分からない)
「本当にいいのか」
「間違ってることを間違ってると言って何が悪い!」
(!!)
「いいだろう。一度死んだ人生だ。お前と旅をしようではないか!」
ロインが乗る馬の横にもう一人のベルダーシュが歩く。
「おっと、忘れ物だ」
カズヤが仮面を取りに行く。カズヤの仮面は梟であった。カズヤは梟の仮面を袋に仕舞う。
◆◇◆◇
二人が後にした後……闇色の鴉の仮面の男がこの村に降り立った。
「そんなに病が好きなら病を授けよう」
そう言って呪文を唱えると緑色の煙が充満する。
闇色の鴉の仮面の男は仮面の内側にある口元に薬を浸した布を当てる。
呻き苦しむ村人たち。
そして酋長の家に闇色の鴉の仮面の男は入って行った。
「『ラディア』を行う者に、死を」
そういって電撃魔法を浴びせる。
動けなくなったところで小瓶を懐から取り出し無理やり酋長に飲ませる。
酋長はやがて血を吐き倒れた。
「安心するがよい。毒霧が引いた後、この村は我々のアジトとして活用する」
服は血だらけだがおかまいなしだ。
「くくく、ふふふ」
酋長の家にくぐもった笑いが響いた。
闇色の鴉の仮面の男は闇の業火の魔法を唱えた。村が炎に覆われる。
そして闇色の鴉の仮面の男は炎の中で病に苦しむ少女を見つけた。闇色の鴉の仮面の男は眠りの呪文で少女を眠らせた。
闇色の鴉の仮面の男は二の腕で少女を掬い、少女を地面に置くと呪文を唱えた。すると石が勝手に動くような動き方ををし、やがてそれは祭壇となった。闇色の鴉の仮面の男はもう一回二の腕で少女を掬い自分が作り上げた祭壇に少女を置いた。
そして呪文を唱え最後に闇の業火で少女を葬った……。
闇色の鴉の仮面の男は手を仰ぎながら、こういった。
「神よ……贄をお受け取りください」
すると、炎に包まれた亡骸から闇の珠が次々飛び出し闇色の鴉の仮面の男の体に吸い込まれていくではないか!
「ふふふ、くくく」
闇色の鴉の仮面の男は燃え行く村でいつまでも笑い続けた。やがて……雪が舞い降りるが焔が雪を溶かしていた。