第十五話
メイがミルとともにやって来た。
「じゃあ、私はこれで失礼します」
ミルは闇の渦を巻き消えていった。夫婦、子ともに酋長の最後を見ることが出来たのである。
「ロイン、ロインなのか」
「はい」
「その子は……」
「レインになります」
「大きくなったのお。もう何歳だ」
「十二歳になります」
「今何しておるのじゃ」
「食を探す旅の最中です」
「食?」
「息子はベルダーシュではなく職人を選びました」
「大陸中のうまい料理を探しては自分のものにするという旅です」
「それは大変だな」
「とうもろこしパンの中に餡を入れる料理が最近流行ってるぞ」
「菓子パンって奴だな」
「ああ、わしも自然に帰ったらいいもの食いたいわい」
そういうとこと切れた。
「酋長……」
「酋長!!」
◆◇◆◇
「酋長のアドバイスを無駄にするんじゃないぞ」
「うん」
「いつものとうもろこしのパン粉に……」
「熱して」
「パンになったら」
「あんこを入れるのか」
「これは枝豆」
「枝豆を潰して」
「入れると……」
「うまい……」
「うまいぞ……」
「どうだ? ほかの村人も」
「そうそう、この味」
「ウラキ酋長、よかったな」
「ウラキ酋長、喜んでるよ」
「新しい酋長は選挙で選ぶんだ」
「即日で選ぶんだよ」
四十人ほどの村で即日で投票が行われ、ミサミが決まった。
新酋長が元酋長の亡骸を村の中心部で燃やす。ベルダーシュのスミトが葬儀を仕切る。
「幸せにな」
「風になれ」
「我々は風から生まれ、風に帰るのだ」
レインにとって重要人物の葬儀は初の葬儀となった。
ウラキ酋長、享年六三歳。かなり長生きしたほうである。