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カッタ村のオルファ

 「おい! オレが先にやるってクジで決めただろ!」


 オレの股を広げた男は、覆いかぶさってきた男に怒鳴った。


 覆いかぶさってきた男は、てっきりオレの胸を口で(もてあそ)ぶのかと思っていたが、乗っかったまま微動だに動かない。


 「オレが先だ! どけ!」


 声を荒げる男が、動かない男を手でどかせる。


 その瞬間、その手首が宙に舞った。


 「!?」


 「手ぇぇぇぇ!?」


 手首がポトリと地面に落ちる。男は腰を抜かし、わめき声をあげる。そして、自分の右手を拾ってくっつけようとあたふたする。


 一瞬、なにか閃光がはしった気がする。


 背後から剣を持った男が現れた。


 「強姦は死刑だ。だがもう利き手で狩りはできまい。それを罰とせよ。それとも、お前の股の“利き手”も狩ってやろうか?」


 金髪の青年だった。ご多分にもれずイケメンだ。


 「この場から去れ」


 まるで、映画のような登場シーンだ。“白馬の王子さま”っていうのはこういうことなんだな。


 男は混乱しながら、半ケツを見せながら去って行った。


 なんと“王子さま”は、倒れている男の右手も切り落とした。わけわからず起きあがった男も、混乱しながらどこかへ去っていった。


 力でレイプしようとする男に、同情心なんて生まれなかった。


 “王子さま”は、オレの下半身を隠すように、布製のマントをかけてくれた。


 ザ・RPGの主人公みたいで、相場はどこぞの国の王子といったところか。でも、この布製のマントや出で立ちからすると、貴族系ではないとわかる。

[199359915/1620942071.jpg]

 彼の野営地に連れていってくれた。すぐそこの川岸だった。彼の馬が水浴びをしていた。白馬ではなかった。


 「助けてくれて、ありがとう……」


 沸かしてくれたミルクを手に、オレは礼を言った。


 「ちょうどここから、騒がしい声が聞こえてね。気になって行ったら、あなたが襲われていたんだ」


 オレはついさっきまで、36歳のおっさんだ。それが、美女になってレイプされそうなところに、イケメンに救われるとは。


 ありえない物語に、おかしくて吹き出しそうになった。


 「? 大丈夫かい?」


 「あ……。だ、大丈夫……」


 オレは女だ。だから、女にならなくては。女の言葉づかいをしなくては。


 ……なんて思ったが、それはムリだ。オレは男だ。さっきのレイプでも、死ぬほどの屈辱だった。


 性同一性障害っていうのは、こんな感じなんだろうか。もしそうなら、“女は女らしく”とか“男は男らしく”とか、できないものはできない。それを強要されるとなると、これは自分を自分で殺すことになる。つらいな……。


 やりたくないことはやりたくない。美女として生きると言ったけれど、“男勝りキャラ”で通すことにした。


 「わたしはカッタ村のオルファ。あなたはの名前は?」


 きれいな金髪が、風にゆらいでいた。雰囲気もキラキラしている。


 「わたしは……。……ビアンカ。ビアンカ……です」


 とっさに出た名前がビアンカだ。国民的RPGの5作目で、オレは“フローラ”ではなく“ビアンカ”を選んだのを思い出した。


 「ビアンカ……。いい名前だね」


 彼はケトルで自分のコップにミルクを注いだ。


 「ビアンカ、そんな格好をしてひとりであるいていたら、襲ってくださいと言ってるようなものだよ。魔族よりも、人間のほうが悪人は多い」


 “魔族”。


 この言葉を聞いて、興奮した。ほんとうにRPGの世界なんだな。


 「ちょっと転んでしまって服がやぶれて……。それで、街に行って、服をなんとかしようと思って」


 「よし、わかった。ビアンカ、わたしもリリカランに向かうところだ。いっしょに行こう。ここで出会ったのも、なにかの縁だ。それに、元の格好であるかないほうがいい。そのマントを貸しておくよ」


 あの街の名はリリカラン……。半券の裏に書かれた地名ではなかった。


 「いますぐ出発すれば、夕方には着くだろう」


 彼はたき火の火を消し、馬のサドルバッグに荷物を積みはじめた。

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