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勇者パーティ追放された転生悪役令嬢が魔王を倒す話

作者: 真紀奈

転生悪役令嬢の朝は早い。


「好きで始めた仕事ですから」

そう、令嬢は語る。


「毎朝100本の罵倒素振り、スチルがキマるポーズや角度の研究。魔法や剣術に至るまで、日々の鍛練は欠かせません」


―もう辞めようと思った事は?

「一度もありませんわ。これは主人公と同時期に玄州侯爵家に才を持って生まれたわたくしに定められた運命だと思っておりますの」


ーその、『主人公』というのは?

「市井の商家の娘にして希少な光の魔法力を持ち、特例で魔法学院に入学を許され、学年次席で卒業した張扇に他なりません。抜きん出た実力に比して地味すぎる無個性な外見、間違いなく乙女ゲー主人公ですわ」


ー魔法学院時代はどのような活動を?

「最初は手探りでの悪役令嬢活動でしたわね。

侍女に出自や動向を探らせましたが後ろ暗い事は何もなく、風聞を立てる方向性は早々に頓挫しましたわ。事実無根の中傷のような、侯爵家の恥となる事はできませんもの。

彼女は殿方と交流もせず勉学に励むばかりでしたので、わたくしが彼女を打ち負かす場は自然とそこに限定されましたわ。

座学も魔法実技も剣術も、全ての分野で一度も後塵を拝する事はなく、成績発表のたびに日々鍛えた罵倒をお見舞いしてさしあげました」


ーそれが『学院始まって以来の最高成績』『全試験の二番手』の伝説につながったのですね。

 学院卒業後は勇者様のパーティに所属されて魔王討伐に向かいましたが、最初から考えていた進路なのでしょうか?

「皇家に任命された勇者が魔王討伐の旅に出るという話を聞いて、これに同行しなければ学院パートだけのキャラとしてフェードアウトしてしまうと思い、慌ててお父様にお願いしましたの。でも主人公が勇者パーティに参加しないとは思いませんでしたわ……」


ー魔法省の研究者として内定していた張扇さんが、突然魔王討伐の旅に参加する可能性はほとんど無かったと思いますが?

「条件はわたくしも同じですわ。勇者を初めとして3名も攻略対象がいましたので、確実に主人公も参加すると思っていたのですが……来なかったという事は既に魔法省にいる陳博士の個別ルートに入っていたのでしょうね」


ー今回勇者パーティを中途離脱するという急展開は、一体どういう経緯で?

「一重にわたくしが悪いのですわ。主人公が来ていないという事は、わたくしが何をしても画面に立ち絵も写らず文字だけで処理されるという事。

今になって思えば魔王討伐に全く身が入らず、勇者の指示通りの行動をするばかりで自主性が無かったと思いますわ。

決定的だったのは魔人族の村に勝手に防御障壁を張った事件ですわね。

事前の偵察でその村には戦闘員がいないと分かった上で、愚か者の騎士団長令息が『将来の禍根を絶つ』とか宣って爆炎魔法を打ち込もうとしたのですわ。

そんな事をしては戦後に『人道に対する罪』で断罪されてしまうと思い、咄嗟に防御障壁を張りました。

勇者はわたくしを擁護してくださいましたが、他の方々は魔王への憎しみで耳を貸してくださいませんでしたわ……。確かに魔王は魔人族の出身ですが、魔王軍の大半は人語を解さない魔物ですし、魔人族だけでなく人族の幹部もいるというのに、本当に愚かですわね。

あと、罵倒の鍛練の成果が彼ら相手にも時々発揮されてしまったせいでもあるかもしれませんわ。

元々やる気もございませんし、捨て台詞を残して皇都へ戻ってきたのです」


ー魔法省への就職は蹴ってしまった上に一年で勇者パーティも辞めてしまった訳ですが、この後はどうするおつもりですか?

「そうですわね……主人公がいる魔法省に直接関与するのは難しいですし……。もう一度本編に出演する方法をじっくり考えてみますわ」


ー質問は以上となります。お時間をいただきありがとうございました。

「いえ、わたくしも今は鍛練くらいしかする事がありませんから構いませんわ。ごきげんよう」



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★



 という訳で、当面の目標を失ってしまい暇なので脳内インタビューで現状を整理するわたくし。

 ああ、申し遅れましたわね。皇国建国時に北方に封じられて以来続く由緒正しき玄州侯・周家の一人娘、周凛ですの。

 幼少の頃に前世を思い出し、魔法学院に入って乙女ゲーの世界に転生した事を自覚する、よくある悪役令嬢ですわ。才色兼備、文武両道の完璧な悪役令嬢ですが、原作を知らないため行動が行き当たりばったりになりがちなのが玉に瑕。


 さて、本当にこれからどうしましょうか?

 来年の募集で魔法省に入って主人公の後輩になるなんて論外ですし。

 ストーリーに華々しく再登場する良い方法は……。


「お嬢様、お茶の時間でございます」

あら、もうそんな時間。


「ねえ冥々、あの小娘は今頃どうしているかしら」

一人で考え続けても進展しませんので、お茶を飲みながら気分転換に侍女と話をしましょう。


「張扇さんでしたら家でおとなしくしているようです。皇都も度々魔王軍の空襲に晒されて、通信機越しの在宅勤務が主流になっていますから」

 そうでした。わたくしが魔王討伐に出発する頃にテレワークの話は聞きましたわ。

 よく考えれば、舞台の魔法省で在宅勤務が一年も続いていては、ストーリーがまともに進んでいるとは思えませんわね。

 もしかするとこの一年魔王軍と戦ってきたわたくしの旅が、原作では「諸事情により途中でパーティ追放され帰還した」の一行で片付けられている可能性があるのではなくて?

 これは、パーティがギスギスしていてもやる気を出して魔王討伐まで力を貸していた方が良かったかもしれません。


「魔王討伐を急ぐ必要があるわね……」

「ええ、それなのにお嬢様を手放した勇者様の見識を疑ってしまいそうです」

 とは言っても、わたくし一人の為に他のメンバーを追放する事など戦力的にできる筈がないので、事ここに至っての最良の選択ではあったのですが。


 魔王が倒れればメインストーリーが再開するという事だけ考えれば、いっそ私だけで魔王を倒してしまえば良いのではないかしら。

 これまでの情報から察するに、魔王は人間を遥かに超越した怪物などではなく、魔物を操る事に長けた魔人族の大魔法使い。

 魔人族の体の構造は、皮膚の色や角の有無、心臓の位置くらいしか人族と変わった所はありません。呼吸ができなければ生きられないのですわ。

 ならば……密閉して酸素を無くせば魔王城に入らなくても倒せるという事。勇者パーティはわたくしが抜ける頃には、各地にいる魔王軍幹部を倒して魔王城の結界を弱めるツアーの最中でした。


 密閉するには魔王城の結界自体を利用して……酸素を消費するには何かを燃焼させて……魔王城の結界は魔物なら素通りできるから……いけますわね。

 魔王城の結界をわたくしの魔法で敢えて強化して、空気すらも通さない結界で覆った後、魔物に火を付けて魔王城に逃げ込ませるのを繰り返せば、魔王は死にます。たぶんこれが一番早いと思います。

 最近弱まってきた結界が突然超強化されて魔王軍は歓喜に沸くでしょうし、徐々に息がしづらくなる魔王城の様子に気付いたとしても、酸素の概念も発見されていないこの世界で見破れる者はいませんわ。


ちょうどお茶を飲み終えてわたくしは言います。

「冥々、遠出の準備をなさい。魔王城に行きますわよ」

「かしこまりました、お嬢様」


「では、行きましょうか」

「行きましょう」

「行きましょう」

そういうことになった。

なお、別にこの世界は乙女ゲーの世界とかではないし原作とかも存在しないもよう

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