2019 令和元年の女子会(1)
店は賑わっていた。
黒服の少女が足早に店内に入ると、テーブル席はほとんどが埋まっている。
こんな奥深く探しても迷うような場所に、誘導の看板も出ていないのにどうして?と疑問に思うほど混んでいる。ざわめく人の声があちらで高まりこちらで静まりとめどなく続いていた。軽快なジャズが流れ、壁にはウォーホルが飾ってある。
ほとんどが女性客だった。
一つのテーブルで手を振る姿があった。
「久しぶり~」
「きゃ~さきなちゃん」
立ち上がって手を伸ばした大きめのパーカーにタイトスカートの子、咲菜は友人にぎゅっと抱き付こうとしたがはっと体を離した。
「まあこちゃん、それってまさか喪服?」
真亜子が体を離すと、茶色い髪がふわふわっと真っ白な頬に乱れかかる。眼が大きくてちょっと垂れ下がっていた。
「うん、三回忌だったんだあ」
口調もゆっくりしている。外見はまったくの少女だが、連れの二人は顔立ちも学生らしさがそろそろ抜ける頃特有の大人っぽさがあった。
咲菜はあっと口に手を当てた。
「叶江おばさん!もうそんなになる?」
Tシャツにデニムを着た子が横から口を出した。
「ああ綺麗な人。でももう、かなりの年よね?え、亡くなってた?」
真亜子は首を振った。
「おじさん。三回忌はおじさんのだよ」
昔は百貨店だったこのビルも、時の流れに従い直営店はすべて閉鎖、単なるテナントビルと成り果てている。
袋小路の果てにあるこのカフェはひっそりと残っていた。
ここはカフェと言っても窓もなければテラス席もカウンターもない。このビルは四方を別の商業ビルに囲まれていた。店は曲がりくねったビルの片隅に完全に隠れている。
店員はいつも心持ちそっけなく事務的で、客は覚えられているという圧力を感じることなく、コイバナに暴露話に陰口に夢中になれた。