奔流(2)
真亜子が袖を引っ張った。
「ねーれいらちゃん、連絡をブロックってどうしたらできるの?わかんない」
「どれどれ」
二人で真亜子の携帯を覗き込む。
──律です。最近どうしてる?たまには連絡欲しいんだけど。今度一緒に遊びに行かない?
れいらは「あー」と言っただけで、黙って何も言わずにブロックしてさらに削除するやり方を教えてくれた。
「まだ諦めてないんだ」
「しつこくて…」
真亜子はほっとしたように携帯を閉じた。
トイレで個室に入る前に咲菜は鏡の前で立ち止まった。
手のひらを開いて、また閉じてみた。震えが走っている。しゃがみ込んでしまいそうだ。
何の衝動だろう?どうしてこんなにわたし、震えているのかな?
あれ?おかしいな。
どうしたんだろう、わたし。
今こんなに、突然どきどきしてる。
さっきまで咲菜が感じていたわだかまり、抵抗はいったい、何だったのだろう?彼の容姿に対する人の目なんて、大して気にしてやしなかった。
ただ友達に、それも自分の中で大きな位置を占める大切な二人に彼を認めてもらった。
安堵、それとも衝撃か、まだ体をこうして震わせている。
彼のことを打ち明けるのにあれほどためらったのは、二人の反応が怖かったからだろう。
れいらはいつも厳しかった。その言葉は鞭打つように小石を投げつけられるように咲菜の顔に当たっていて、不愉快でもあり悲しくもあった。
だがどこかで、本当だと感じてはいなかっただろうか?
咲菜は携帯を開いて、律くんの連絡先を表示した。
ブロック。履歴削除。リストから削除。
れいらの言うこと、その厳しさ、律くんに対する辛辣さの理由を咲菜は知っていた。知って知らないふりをしていた。
友達が未熟な自分をそのまま受け入れてくれないことに不満を抱きながらも、これまで離れずそばにいたのは、否定できない真実をれいらが体のなかに持っていたからだ。
頑張って。
好きなんでしょ。恋っていいよね。
振り向いてくれるよ、いつかきっと…。
耳ざわりの良い言葉は上滑りにするすると表層を流れて消えていく。雨として肌をつたう冷たい触感さえない!
そうなると咲菜は急に寂しくなってれいらと真亜子にメッセージを送る。
鏡をのぞくと目のふちは赤く、瞳がどこか狂ったような輝きを帯びている。
最後のたががはずれた。
堰を切って自由になったと喜び流れ出る奔流が胸からはじかれてあふれる。
会いたい。
わたしのちびブタくん。
もうめいっぱい彼を愛していいのだ。