表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

溶け合う時間(2)

 




 ぱっと体を起こして叶江は足をソファから下ろした。花実の真正面を向き目をまっすぐ見て詰問した。

「何が。はっきりしなさいよ」

「大丈夫なの?どんどん話が進んじゃってるけど本当にいいの?」

 叶江は目を大きく見開いて、意外にも面白そうな顔をした。

「何よ、あんたやめるつもりなの?一丁前に」

「違う違う。でも、こんなぼくで本当にいいのかなって…」

「ばか!ブタ!」


 叶江は起こした体をこちらへまともに向けて、手をソファの両脇についた。スカートがはね、スプリングががきしむ。

「私はね、はっきりしてるから。頭のてっぺんから足の先まで。断るってなったら誰が何と言おうとことわります!」

 勢いに飲まれて(いつもそうだったが)花実の体には緊張が走り、小太りの肩から上半身はぎゅっと縮こまっていた。

「家のことなんか知ったこっちゃないから。関係ないって放り出しちゃえる」

 鋭い叶江の言葉を反芻するのがやっとで、頭の中で必死で何度か繰り返すうちに緊張がとけていった。


「いい、わかった?」

 言いたいことを言いたいだけ言ってしまうと叶江はまたカウチ風ソファに横座りになった。パンプスはすべて脱ぎ捨てて、両足をソファに上げている。

 断るなら断ると言った彼女にわずかな迷いも見られず、花実はそばに走り寄ると思わず手を握った。

 叶江は振り放しもせず偉そうにつんとして手を握られるままにしている。

「ありがとう、ありがとう!大好きだよ、かなえちゃん。一生大事にする。何でも言うこと聞くから」

「当たり前!」

 ぴしゃっと跳ね返るように返事が返る。

「私はどんな王子様でも相手に出来るって言われていたんですからね」


 どこからともなくカラカラと乾いた音がして、叶江の声にそっくりな、でももっとおっとりとした優しいトーンの声が降り注いできた。

 ──とっても仲良かったんだよ、おじさんとおばさん。いつだったかお父さんがおじさんに聞いてたんだよ。

「叶江のどこがいいの?」

「わがままなところがないから」

「はっ?わがままのかたまりでしょ?あいつがわがままじゃなかったら何なの?」

「あはは」

「あははって」

「女の人って、僕はこわいんだ。陰口言うし意地悪だし、お遊戯の時だれにも手をつないでもらえなかった。でもかなえちゃんはブタブタ言うけどずっと普通に接してくれたよ」


 小さかった真亜子は遊びながら何の気なしにそんな父とおじの会話に耳を傾けていた。

 思うにきっと同じブタ野郎でも、花実おじさんには咲菜の彼にあるような、堂々と自己表現出来るような自己主張はまるでなく、どこまでも内気で外に出るのをきらった。


「女の子ってみんな、自分のわがままを棚にあげて人のわがままを非難するんだ。そう思ってた。だけどかなえちゃんはほかの人のわがままのことなんて言わないんだよ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ