1977 昭和52年の百貨店
otonarikaminari(@tororon98534128)さんに
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コンクリートの階段にヒールの音が突き刺さる。
トントン、トントンと軽快な音がして、階段を小走りに駆け上がっていたその女性は少し止まってかかとに触れた。
それだけでもう人が振り返る。踊り場の男の子とすれちがった年配の女性二人連れがぐるっと体までねじって凝視した。
短めにセットされた黒い髪が乱れるのを気にもせずに彼女がかけて上がるその商業ビルは、昭和五十年のその頃『百貨店』と呼ばれていた。
二十歳を過ぎて間もないだろう。愛嬌のある生意気そうな顔と切れ長というには優しすぎる黒目、それだけでも人目を引かずにはおかないが、それだけではなかった。
白いスカートはふんわりと階段半分ほども広がっていた。花が空中をすべるように階段をふわふわ動いていく。
きりっと緑色の幅広のベルトを締めあげて、これでもかと細く絞った腰から膨らんだワンピース、ノースリーブからのぞくほっそりした白い腕…。
わあ、すごい。今のすごいね。ニュールックって奴じゃない?ディオールの。あんなのはじめて見た。日本人が着て似合う人なんている?
細い眉がぎゅっと額で寄る。リップをはっきりきかせた唇から、辛辣な言葉が飛び出した。
「ブタのせいで!」
他人の視線など気にもしない。慣れているようだった。
「遅くなっちゃったじゃない。何でもやることおそいのよ」