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前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います  作者: 八神 凪
第五章:スヴェン公国都市

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その75 地下での出来事

 


 「さて、と。居てくれよシロップ……」


 騎士たちの後を追う僕達は迷うことなく先へと進む。


 この二人が奴隷を捕まえているところまで行くというなら好都合だ。恐らく逆サイドへ歩いて行けばお城のどこかへ辿り着くのではと思っていたので壁に印をつけながら向かっていたりもする。


 足音から判断するとそれほど離れていないということもあり僕達は無言で歩く。騎士二人のぼやきを聞きながら。


 「それにしても公王様とセーレ様の側近は給料がいいんだろ? いいよなあ」


 「一応、俺も試験を受けたけどダメだったな。セーレ様の息がかかたやつが多い気がしないか?」


 「それも処世術ってやつだろう? 上にうまく取り入るのも仕事ってことだ。まあ、あいつらちょっと怖いけどな」


 「やっぱエリートになると違うのかね。次の試験は頑張るか」


 「そのためには目の前の仕事をこなさないとだな。さて、大丈夫かね……」


 角を曲がったところでスラリと剣を抜く二人。もし地下牢が壊れていたら反逆の可能性を見越してのことだろう。だけど二人の心配は杞憂に終わった。


 「……異常なし、か。肝が増えるぜ……」


 「肝が冷える、な? ま、ウッドゴーレムが時計塔を少し壊したくらいで影響があるとは思えないからな。心配しすぎなんだよセーレ様は。戻って報告しようぜ」


 二人が踵を返して元来た道を戻ろうとしたその時、二人はぎくりと足を止める。なぜなら――


 「案内ご苦労様。そんな軽い気持ちだから下っ端のままだと思うんだけどね」


 僕達は道を塞ぎ、声をかけたからだ。二人は一瞬慄いたけど、すぐに構えて喋りかけてきた。


 「お、お前等どっから!? というか何者だ!? いつからついて来ていた!?」


 「お約束をありがとう。でもとりあえずそう聞く前に制圧した方が良かったんじゃない? <スリープポリン>」


 僕が魔法を使うと、甘い香りが騎士二人に絡みつく。


 「こ、これは……うう、眠気が……」


 「モブい……」


 あっという間に二人は眠りに誘われ地面に倒れこむと、すかさずルビアが手を縛り上げていた。


 「あっという間ですね。流石はソレイユちゃん!」


 「ありがとう。それより、シロップだ。牢屋を探そう」


 「そうね。フェイ、あんたは分からないだろうからこいつらを見張っていてくれない?」


 「おお、大事な仕事を任せてくれるなんていいじゃない。惚れちゃった?」


 「んなわけないでしょう? というか何もしないなら帰ってもいいんだけど?」


 「そりゃないぜ」


 ルビアも僕とエリィのところまで駆けてきて、鉄格子の中を調べる。


 「シロップ……シロップ、いないかい?」


 「シロップちゃん、いたら返事をしてくださいー」


 「ねえ、フェンリルウルフの子供を知らない?」


 「……あんた達、何者だ? もし奴隷を解放しようとしているならやめておけ。わしらは正当に売買が成立した者ばかりじゃから下手に解放などすると罰せられるぞ」


 一応忠告したからな、と、ルビアが声をかけたおじさんが寝転がる。見れば他の人たちも諦めたかのようにじっと僕達を見ていたり興味が無さそうにため息を吐いたりしていた。


 「そんな……」


 「このおじさんの言うことも分かるからそっとしておこう。借金とかそういうののカタなら仕方ないし、逃げ出した奴隷が辿る末路はだいたい決まっているしね。でも、シロップは誘拐されて売られたんだからそれに当てはまらない」


 「ふん。お嬢ちゃんは口が回るな。だいたいあっておる。どちらにせよここには狼の子供などおらんわ」


 「そうですか。ありがとうございました」


 僕がお礼を言うと、手を振りながら背中を向けた。ここに居ないとなると、やはり城に居るということか……幸いというかエリィとルビアだけなら城に潜入してセーレのところまで行くのもアリかな。そう思っていると、ルビアが腰に手を当てて僕達に言う。


 「折角ここまで来たわけだし、こうなったらセーレのところまで行くわよ」


 「でも、見つかったらえらいことになりますよ? 夜まで待つとかどうですか?」


 「とりあえずさっきソレイユが使った眠り魔法で片っ端から眠らせればいいじゃない」


 「雑!? まあ不意打ちならほとんど効くけどさ。どちらにせよ最悪セーレを倒せばいいし、レジナさんやバス子に引っ掻き回されるよりはいいかなって」


 「ああ、そういうことですか」


 何となく察してくれたエリィが苦笑し、僕達は歩き出す。待っていたフェイが気づき、声をかけてくる。


 「よお、収穫無し? で、戻るのかい?」


 「城へ潜入することにしたわ。ここからは本当に危ないからあんただけ戻りなさい」


 すると口笛を吹いてからルビアの肩に手を回しつつウインクをした。


 「そういうことなら俺も行くって! 入る時に姿が消えたの見たろ? 役に立つぜ?」


 「……何が目的なのよ?」


 「別にー? お前さんが可愛い、それだけだぜ? 危険な目に合わせられないし」


 「ば、ばっかじゃない!? 行きましょ二人とも! 付き合っていられないわ。絶対付いてこないでよね!」


 「あ、ルビィ!」


 エリィの手を引っ張ってずんずんと歩いていくルビアを追い、フェイも笑いながら結局ついてくる。ルビアに一目ぼれしたって言っても随分な気がする。セーレの手の者だと仮定して泳がせているんだけど、尻尾を出す気配が無い……本当に何者?


 最後尾を歩くフェイをチラリと見ながら元の道へ引き返していき、二人の騎士が歩いてきた道へと足を運ぶ僕達。

 そこからは割とすぐに鉄製の重い扉を発見することができたのだけど……


 「鍵がかかっている……さっきの二人が持っていたのかな? うーん、戻るしかないか……」


 「一緒に戻りますよ」


 「ううん。魔法で一気に戻ってくるから――」


 と、エリィと話している横で、フェイがカチャカチャと鍵を回し始めた。


 「これでよし、と♪」


 カチャン、という小気味いい音が響き重い扉が開く。


 「鍵、奪ってきたの?」


 「そういうことさ。な、役に立ったろう?」


 「たまたまじゃない。でもありがと。行くわよ二人とも」


 あくまでもフェイは頭数に入れないルビアに苦笑しつつ、さらに進むと不意に部屋の中へと入っていた。


 「あ、あれ?」


 ルビアが困惑していると、エリィが呟く。


 「……偽装魔法みたいですね。こっちから見れば壁ですけど、ほら」


 スッとエリィの手が壁に吸い込まれるように消えると、ルビアがなるほどと頷き、興味深々で壁に手を突っ込んでいた。

 さて、それはともかくここからが本番だね。早いところセーレを締め上げて女装を解かなくっちゃ!

諸事情でちょっと短めです……


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『奴隷も様々だもんねえ』


勝手に開放するとお互い良くないってのがよくわかりますね


『これも商品の一つ……怖い怖い』


女神はいくらで売れるかなあ


『何を企んでいるのかしらね!?』

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