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前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います  作者: 八神 凪
第五章:スヴェン公国都市

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その73 目まぐるしく動く



 「ウッドゴーレムが現れた? で、どうなったのです?」


 「はい。町に突然現れたウッドゴーレムは冒険者達の手によって即座に討伐。その中には大魔王を倒した剣聖レオバール殿が居たそうです」


 「あの男か……」


 報告に来た騎士に目を向け、執務室で作業をしていたセーレが呟く。


 「あの男、小僧を倒せなかったのだろうか? それとも倒してここに来たのか? 一つ聞くが私の言った小僧達は町に来ているか?」


 「拳聖や賢聖は最初に追い返した以後は姿を見ていないそうです。城壁も目を皿のようにして見ていますが空を飛んでくるというようなことも無いとのことでした」


 自分の操り人形にした騎士も、そうでない騎士にも口を酸っぱくしてレオス達の特徴を伝えていたので町で見かければすぐに分かる。特に報告が上がってこないのであれば諦めたか、足踏みしていると考えるセーレ。


 「そうですか。油断はできませんから引き続き警戒を。とは言っても門は厳重ですし、まったく別人に変装するか性別でも変えない限り中へ入ることは不可能ですがね! ふははは!」


 「そうですね」


 セーレがまたしても説明臭いセリフを吐き、騎士が適当に返事をする。


 「……操り人形は面白くありませんね……それよりウッドゴーレムはどこから現れたのだ? ギルドの連中がだいそれたことをするとは思えません」


 「目撃者によると、広場近くに突然現れたそうです」


 「術者を探しなさい。目的も気になりますが、魔力の高さが気になりますね。他には?」


 「時計塔がウッドゴーレムにより崩れました」


 「なるほど……って、超一大事!? 時計塔はどうなっていますか!?」


 「一応、ウッドゴーレムを片づけ始め、時計塔には入らないよう騎士達が目を光らせています」


 面白くないが仕事はきっちりする騎士の報告に、セーレは椅子から立ち上がる。


 「時計塔へ行きます。公王様を例の場所へお連れしてください」


 「は」


 騎士が下がり、見送った後にセーレも部屋を出て廊下を歩き出す。


 「……計画が遂行する直前でこの騒ぎ……怪しいですね」




 ◆ ◇ ◆



 「ふぇっくしょん!!」


 「わあ!? 大丈夫ですかソレイユちゃん。はいハンカチ」


 「ふあ……ありがとう。誰かが噂しているのかな……それにしてもこんな場所があったなんてね――」


 時計塔に入った僕達は上に向かって進む……のではなく、なんと地下に潜っていた。ウッドゴーレムが時計塔に倒れこんだ時に一階の壁はおろか床も崩していて判明したのだ。

 ひんやりとした通路はまだ作っている最中なのか、通路の形はしているけどあちこちが掘っただけという感じででこぼこしている。以前作った火の魔石を灯りにして奥へと進む。

 ちなみに迷路みたいになっていてそれなりに広いことを付け加えておくね。


 そんな中をエリィと並んで歩き、前方ではルビアとフェイがイチャイチャしていた。


 「誰がイチャイチャしてるのよ!」


 「ひい!? 心の声が聞こえてるの!?」


 「何かそんな目をしているなって感じたのよ。もういいでしょ、離して」


 「おっと、こりゃ残念。せめて名前を教えてよ? 俺は名乗ったろう?」


 「……ルビィよ」


 「私はエリザベスと言います」


 「僕はソレイユです。さっきのは何ですか? ギルドマスターの横を素通りできた、というか姿消えましたよね?」


 「んー? まあまあ、いいじゃないそういうのは。ルビィにエリザベスちゃんにソレイユちゃんね! いやあみんな可愛いねえ。しかし、最近作り始めたって感じだなあ。時計塔に来たがっていたのはこのせい?」


 フェイが自分のことは言わず、なぜか僕を見て訪ねてくる。


 「そうだ……そうですね。封鎖されているから気になっていたんですけど、まさかこんなものがあるなんですってね、おほほほ……」


 「? 変な喋り方だね?」


 「あー! ソレイユちゃんは人見知りをするので、フェイさんを見て緊張しているんですよ、ほら、フェイさんイケメンですし」


 エリィが僕をフォローすると、フェイが口笛を吹いて口を開く。


 「イケメンだなんて嬉しいね。君もそう思う?」


 「あたし、もう軽薄そうなヤツはダメなの。それより、どこに繋がっているのかしら?」


 アレンのことがあるからルビアはフェイに嫌悪感を示しながら僕達のところにやってくる。確かにかっこいいけど少し胡散臭いなと僕も思いましてよ? あれ?


 するとフェイが笑いながら一人で前に出る。


 「ははは、嫌われたかな? さて、この通路、どうやら城に向かっているみたいだけど進むかい?」


 「城へ……?」


 どうしてそんなことが分かるのか……益々胡散臭いと訝しむ僕と、横に立つエリィは目を細めてフェイを見ていると、ルビアが口を開く。


 「城へ続いているなら好都合ね。危ないからあなたは戻りなさい」


 「おいおい、女の子ばかりを残して戻れるわけないだろ?」


 「そういうのはいいから――」


 カツ……カツ……


 「二人とも静かに……! <クリエイトアース>」


 「どうしたんですか?」


 「足音が聞こえた。壁に穴を作ったからこの中に入って」


 「分かったわ」


 「助かります!」


 僕はクリエイトアースで壁に四人分の窪みを作り、一人ずつ押し込む。僕も火の魔石を慌てて消して窪みに入る。通常なら鉢合わせるところだけど、まさか壁に埋まっているとは思うまい。さらに暗闇なので気づかれないと思う。


 そんなことを考えていると足跡が大きくなり、声が聞こえてくる。


 「流石にここは大丈夫だろう?」


 「セーレ様のお達しだ、文句を言うな。それにさっきの衝撃で地下牢が壊れて奴隷が逃げたらどうする。それこそ大目玉だぞ」


 「まあな……それにしても公王様はどうしちまったんだか……奴隷を集めるなんてこと嫌っていたのになあ」


 「国のため、とは言っていたがな。セーレ様が来てからだな、ああなったのは……」


 「フラっとやってきて謁見したと思ったら宰相だろ? 怪しさ大爆発だよな」


 「まあセーレ様のおかげで町の開発は進むようになったんだけどな」


 「もう半年は経つか、奴隷も意味があるんだろうな」


 カツ……カツ……


 二人の騎士がランタンを掲げて目の前を通り過ぎながらそんな会話をしていた。そこでエリィが嬉々として飛び出す。


 「いいことを聞けましたね、シロップちゃんもそこにいるかもしれません、急ぎましょう!」


 「おっと、奴隷を探して居たの? シロップちゃんって可愛い?」


 「見てのお楽しみよ。とても可愛いわ」


 「そりゃ楽しみだ」


 「……」


 「ソレイユちゃん?」


 「ん? あ、ああ、何でもないよ。行こうか」


 「はい!」


 エリィに手を引かれ歩き出す。騎士たちは見つけたら奇襲をかければいいかなどと思いながら、同時に別のことを考えていた。


 「(セーレは半年も前から潜り込んでいた? 大魔王が内部から亡ぼそうとしたと考えれば有りうるけど、なんだろう、この違和感は)」


 そして――


 

次回はレオバールからお送りしますね!(誰も喜ばない)


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『そろそろセーレの目的が?』


かなあ。100話目くらいを目途に考えていたけど、ちょっと早くなりそう


「俺の出番だな!」


『え? 誰?』


ああ、良く知っている他人だよ


「ひでぇ!?」

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