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その52 表



 ――どこかにあるという神樹イグドラシル。


 アレン達と旅をしている時に、その存在は知っていたけど結局どこにあるのか分からなかった。もっとも、大魔王討伐で必要なものという訳でもなく、全世界をくまなく旅したわけでも無いので僕達が知らないだけの可能性がある。

 男の出したその神樹でできているという杖も驚いたけど、それよりも驚いたのはスヴェン公国の公王ディケンブリオス様がオークションに参加していたという事実だ。

 大魔王討伐の旅の途中で僕はこの国には立ち寄っていないけど、歳は29と先代から受け継いでそれほど時間が経ってないって話だった。


 「そ、それでは公王様が落札です! お、恐れ多いです!」


 「気にしなくていいよ。私もここではただの顧客の一人にすぎない。フフ、他の買い付けにきて中々面白いものを手に入れたな」


 「ええ、神樹の杖とは縁起がいいですな」


 執事風の男と席に戻っていく公王様。お客さんは静かに、そして驚きながら背中を見ていた。でもなんだろうこの違和感は……初めて見たのに、何となく公王様の目が冷たいような気がした。


 とまあ、そんな大物が出てくるサプライズはあったけどその後は先ほどと同じように賑やかな状態で進行。



 「魔法で動き掃除や旅のお供に最適なハニワの魔道具、金貨五枚からどうだ!」


 「~♪」


 「姐さん、あのハニワ買いましょう!」


 「要らないでしょ、結構大所帯よあたし達」


 

 「このローブ、サラマンダーの鱗と火食い鳥の羽を織り込んだ傑作品ですわよ! 金貨十枚からどうざます!」


 「ベルにあのローブをプレゼントしますね」


 「ええ!? エ、エリィ、お金は大丈夫なの……?」



 

 「金貨四十三枚! おっし、エメラルドの指輪ゲットぉ! これを結婚指輪にするわ」


 「えっへっへ、姐さん相手が居ないのに見栄を張って……ぶへ!?」


 「あんたのブラジャーよりは現実的よ?」


 「言いましたねこのおっぱいおばけ! げひゃひゃひゃ、下剋上の時は今! ……げふ!?」


 「激震拳……成敗……!」


 遠いから何を話しているのか分からないけど、じゃれ合っているのが見え、エリィ達もいくつか買っていたので楽しんでいたようだ。神樹の杖を越えるアイテムは出てこなかったけど、骨とう品や絵画など、武器防具以外も出ていたのは中々興味深く、僕の財力では買えないまでも、見ているだけでも楽しかった。


 「ダイヤの腕輪とミスリルの短剣はまた路銀が怪しくなったら売るかな。」


 そう思いカバンを見ると、アレンの装備一式と聖杯が目に付く。


 「鎧は店に飾るのもアレだし、どっかで売ってもいいかなあ……ルビア達に相談してみよう……」


 思い出さないようそっとカバンを閉じると、司会者が大声で終了の挨拶を告げているところだった。


 「では、今回のオークションはこれまでです! また来月お会いしましょう!」


 大きな拍手が起こり、しばらくしてお客さんがぞろぞろと出ていく。公王様は……いつの間にかいなくなっていたようだ。エリィ達も移動を始めたので僕も参加者側の控室へと戻るため、席を立って移動を始めた。すると、控室で声をかけられた。


 「お、昨日の柔らかい肉を焼いた奴じゃねぇか」


 「あ、こんにちは」


 赤いつんつん頭のお兄さんだ。腕組みをして壁を背もたれにして片手を上げて僕に近づいてきたので、挨拶をする。


 「今日はオークションですか?」


 「いんや、誰かから聞いたかもしれんけど俺は見回りだ。荒事とかは珍しくねぇからな。稼げたか?」


 「ええ、おかげさまで」


 お兄さんは笑いながら僕の肩を叩いて言う。


 「そうかそうか、そいつは何よりだ! またあの柔らかい肉を食いに行くぜ。今度は持ち帰りもできると嬉しい」


 「分かりました! ちなみにあれはハンバーグというんです」

 

 「ハンバーグだな、覚えたぜ。仕事中だからまたな」


 きょろきょろしながらお兄さんは歩き出す。誰か探して居るのかな? 


 気にはなったけど、とりあえずエリィ達を待たせてはいけないと思い直し、僕は入口へと向かう。別れた通路まで戻ると、みんなすでに待っていた。


 「レオス君、こっちですこっち!」


 「ごめん、お待たせ。あれ、ベルゼラその恰好……」


 「あ、そうでした! これ私がプレゼントしたんです。これから旅をするとなるとあの服じゃ汚れたりして勿体ないですし」


 「に、似合いますか?」


 そう上目遣いで聞いてくるベルゼラは、髪に合わせたのか、アクアマリンの宝石がついたロッドに、それとは対照的な紅蓮のローブという火耐性の高い赤を基調としたローブを羽織っていた。下もドレスから冒険者が着るような服に着替えていた。


 「うん、とても似合うね! 髪が青いから、赤が凄く映えるよ。エリィのマントも可愛いし」


 「あ、ありがとうございます!」


 「えへへ」


 そう言って顔を赤らめる二人は素直に可愛いと思った。


 「天然のタラシって怖いですね、姐さん」


 「レオスは下心が無いからいいのよ。まあ、無さすぎて二人にはかわいそうな気もするけど」


 「タラシって……バス子は何も買ってないとして、ルビアは指輪だっけ?」


 「まあね、深い緑色が気になってさ。いい男が現れたらこれを結婚指輪にするのよ!」


 ふん、と鼻息を荒くしてルビアが言い、続けてバス子が口を開く。


 「何も買ってないとは心外な!」


 「じゃあ何か買ったの? パンツは高かったでしょ?」


 「すみません見栄を張りました」


 あっさりと90度の角度で頭を下げるバス子にプライドとかそういうのは無かった。


 「素直なのはいいことだけど早かったね……」


 するとエリィが困った顔で笑いながら、


 「何だかんだでもう夕方ですよ。ちょっと早いけどご飯にしませんか?」


 と、時間が結構経っていることを告げてくれた。


 「あ、本当だ! うーん、肉屋さんに行きたかったけど、朝早くでいいか」


 「仕方ないからバス子はあたしが奢ってあげるわ」


 「姐さん……!」


 どうでもいい感動の場面を無視して、僕達はレストランへ。それなりに儲けも出たし、プチ宴会のようにお酒も頼んでいい気分になったので僕達。


 「はらほろ……」


 「あ、ベルはお酒弱いんですね。でもお酒だけに『ベル、もっと』うふふふふふ」


 「エリィ、そろそろやめた方が……」


 「レオス君……」


 「ん?」


 「再会してからお祝いをしてなかったんですからのみましょうー」


 「いやいや、その予定は勝手にエリィ達に作られたものだし、別れてから二週間くらいなんだけどさ」


 「げひゃひゃ! 酒もってこーい!」


 「あのお子様がお酒はちょっと……」


 「んだとー! あたしは大人だー!」


 うーむ、バス子の説得力の無さはさておき、何となく予想はしていたけどこうなったか。頭を掻いていると、ルビアが笑いながらくいっとグラスを傾けて言う。


 「まあたまにはいいじゃない。アレン達と旅をしている時より楽しいわよ? あのクソ野郎、宿に入るたび迫ってきやがって……」


 「はは……」


 まあ他のお客さんに迷惑をかけていないのが幸いかと思い料理を食べ進め、ベルゼラが寝入ってしまったあたりでルビアと頷き合いお会計を済ませる。


 エリィは僕が、ベルゼラはルビアが背負い、バス子は眠そうな顔をしながら僕の頭を掴んでふよふよと浮いていた。


 「エリィって結構ベルゼラに構うよね。何でだろ」


 「恋敵ではあるけど、背丈も似てるし歳も近いから友達ができてうれしいのよ。レオス、あんたもそうだけど12歳で大魔王討伐の旅は色々失うものも大きかったってことよ」


 ましてエリィは孤児だったしね、と付け加えてスタスタと歩いていくルビアは何となくエリィのお姉さんに見えた。なるほど、友達か。


 「吐く……これは吐いてしまう……」


 「僕の頭の上で不穏なことを言うのは止めてくれない!? あ、集会場だ」


 ちょうど帰り道にある集会場が目に入り、僕は一瞬足を止める。またお宝ができたら参加したい、そう思い再び歩き出そうとしたところで――


 「――ん」


 「ん? 今何か声が……」


 「どうしたの?」


 「いや、動物の鳴き声が聞こえたような……」


 「――ゅん……」


 気のせいじゃない、か細い犬の鳴き声が聞こえてきた。


 「待って、ルビア! ちょっとこっちに行っていいかな?」


 「? いいけど……」


 僕は声が聞こえてくる方へ慎重に歩く。声は集会場の方から聞こえてきていて、塀と集会所の間をゆっくりと進む。


 「きゅーん……」


 夜静かなので気づいたけど、昼間なら気づかなかったかもしれない本当に小さい声が近くなってきた。


 そして――

ほろ酔い気分で出会うのは果たして?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『楽しい時間はここまでってことかしら? サブタイも不穏だし』


どうかな? でも話が進むのは間違いないね。


『それにしても……』


も?


『私にもワインとチーズを……!』


 そればっかりだなお前!? え、自分で生み出せないの、女神だし。


『くっ……』


血の涙を流すほどか……



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