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その2 凱旋しました

 


 ――ということがあったのだ。



 それにしてもまいった……


 まさか記憶だけじゃなくて力も戻るなんて……まあ、死ぬところだったから運がいいと言えばそうなんだけど、この後のことを考えると胃が痛い……アレンのことだから大丈夫だと思うけど――


 「う……いてて……」


 「あ、あれ、あたし生きてる……」

 

 さて、気絶したふりをしている僕の後ろで勇者アレンと拳聖ルビアが目を覚ましたようで、声が聞こえてくる。


 「おいレオバール、生きてるか?」


 「くっ……あの攻撃を受けて生きているとは信じられん……流石はエリィの防御魔法は優秀だな」


 「ん……ハッ!? 大魔王は! エスカラーチは!?」


 剣聖レオバールの言葉で復活した賢聖エリィがガバッと起き、ロッドを持ってきょろきょろとするが、アレンが肩を竦めて口を開く。


 え? なんでそんなことまで分かるって? 僕の魔法"スワローアイ"で目を瞑っていても上空から見えるんだよ。


 エリィの肩を叩いてアレンが笑いながら言う。


 「安心しろ、エリィ! 大魔王は……俺が倒した! 光の剣が刺さっているところを見ろ」


 「あれは……大魔王が首から下げていたアクセサリー……! じゃああの灰はエスカラーチ……」


 「ああ、お前のホーリウォールが防いでくれたおかげで剣を突きたてることができたんだ!」


 うわあ言い切るなあ……白目向いて死にかけてたくせにさ。でもそう思っていてくれた方が僕としてはありがたい。まさか商人の僕が倒したなんて知られたらどうなるか分かったもんじゃないからね。だけど、エリィが――


 「……え? わたしのホーリーウォールは完全に破られていましたよね……アレンも吹き飛んでいませんでした……? それに大魔王の攻撃をレオス君が庇ってくれたような……」


 「んなわけないだろ! ルビアの拳とレオバールの剣! で、お前の防御魔法に俺の攻撃で大魔王は倒れたんだ。こいつがそんな力を持っている訳ねぇだろ? おら、起きろ!」 

 


 ゴン!


 「痛っ!?」


 ブーツの先には鉄板が入っているから蹴られたらとても痛い。容赦なく蹴りを入れてくれたおかげで僕は慌てて起き上がる。


 「レオス君!? アレン、酷いですよ! 普通に生活していたレオス君を無理矢理連れて来たのに、まだそんなことを」

 

 「容量が無制限のカバンが使えそうだったからな。本人しか使えないって制約が無ければカバンだけで良かったんだ」

 

 そうそう、僕が仕入れをしている時に見られて半ば拉致……というより父さんのせいで僕は勇者パーティに組み込まれることになったんだよね……大してダメージはないけど、さも痛そうに上半身を起こす。


 「いてて……ああ、いいんだエリィ。僕が大して役に立ってないのは事実だしね。それよりおめでとう、これで僕も家に帰れるよ」


 「おう! 感謝しろよ! お前ももう用済みだ。祝賀パーティが終わったらさっさと帰るんだな!」


 こいつは……!


 ふう……アレンは口が悪いんだけど、言い方が不自由なだけで意外と考えていたりする。ちゃんと庇ってくれたりするので、口調よりは幾分性格は悪くない――


 「それにしてもレオスはホントにカバン以外は役に立たなかったなぁ! 良かったな、勇者パーティで大魔王を倒すとき横に居ましたって言えてよ! さ、帰って報告だ!」


 ――はずだ……


 「レオス君、大丈夫ですか?」

 

 僕が目を細めてアレンを見ていると、エリィが声をかけてくれたので応答する。


 「あ、うん。大丈夫だよ。レオバールの顔が怖くなるから、あんまり近づかないでほしいかな」

 

 「? どうしてレオバールさんが出て来るんです?」


 出会った時は僧侶だったエリィ。


 彼女は道中で賢聖になった。本当は当時の賢聖様を連れて行く予定だったんだけど、もうお婆さんで大魔王との戦いには耐えられないだろうと、素質があったエリィが選ばれたのだ。

 

 僕の一つ前に仲間になったらしいんだけど、性格はいいし、容姿もかわいいから、レオバールが熱を上げている。ちなみに僕と同じ年の16歳。だけど、彼女はレオバールのアプローチには一切気付かず、ただの商人である僕をいつも心配していて、その度に僕はレオバールに睨まれていたりする。


 「……」


 やっぱり無言で見てくるレオバール(21歳)の目が怖い。そこへ拳聖ルビア(18歳)がやってくる。


 「あはははは! まあ僧侶だったから一般人を心配するのは仕方ないよね。レオスもよく耐えた! 死ななきゃ安いもんだって! あんたの根性はあたしが知ってるよ。さ、行こう」

 

 ちなみに剣聖と拳聖、そして賢聖は世界に一人だけ貰える称号で、その道を極めた者だけが名乗ることができる。レオバールとルビアが歳若いのはそれぞれ旅立つ前に先代から受け継いだからだ。


 「立てますか?」


 「ありがとう」


 「行くぞお前等ー!」


 エリィの手を借りて立ち上がると、アレンが大魔王のアクセサリーを拾い上げて魔王の間を出て行くところだった。


 「待ってくださいよー」


 「はあ、やっと帰れる……」


 僕がそう呟いたその時、


 ゾクリ……


 「……?」


 背中に視線を感じ、振り返る。そこには大魔王の遺灰と服だけしかなかった。


 「気のせいかな? 力を取り戻して敏感になりすぎてたりして……」

 

 「置いていくぞーレオスー」


 「はいはい今行きますよっと!」




  ◆ ◇ ◆



 <ノワール城>



 「勇者アレンよ、よくぞ大魔王を倒してくれた」


 大魔王城を出てから数日後。僕たちはノワール城まで戻ってきた。


 この世界の国はいくつかに分かれているんだけど、なぜノワール城なのか? それは光の剣を抜いた勇者アレンの故郷で、ノワール城がある国がここ"エイゲート"だからだ。光の剣は何故か持ち主が死ぬと元の場所に戻るのだと言い、戻ったのを確認すると抜ける者を探すというわけだ。


 「楽勝でした」


 嘘つけ! 僕が心の中でツッコミを入れていると、国王は頷いて指を鳴らす。


 「うむ。流石は勇者だな。では、褒美を取らせよう」


 死んだのを確認しないの!? 何かこう遺品とか倒した証とか欲しがらない普通? これじゃいつまでたっても詐欺が無くならない訳だ……仕方なく僕は進言する。


 「その前に国王、大魔王を倒した証をアレンが持っております。それをお納めくださいますでしょうか? ほら、アレン出して」


 「お、おお……何かお前態度でかくね? いつもびくびくしてたのに……これです」


 口を尖らせて僕を睨むが、用は済んだので目を合わさずしれっとした顔でやり過ごす。


 「なるほど、確かに倒した証は必要だったな。……そなた、強そうには見えぬが、お主の職業はなんだ? 賢聖はいるから魔法聖か?」

 

 国王の横に立っていた王子らしき男が感心したように頷き、僕の職業を聞いてくる。旅立ってから仲間になっている僕は国王達には知られていないから仕方がないけど――


 「商人です」


 「は?」


 「私の職業です。私は三つ先の国"ラーヴァ”の商人の子、レオスと申します」


 「しょ、商人が大魔王との戦いに……」



 王子が目を見開いて驚いていると、周りもざわざわと騒ぎ始める。


 あれ? 何か失敗した……?

さてさてどうなることやら……


いつも読んでいただきありがとうございます!


【後書き劇場】


『寒い……』


真面目に寒波がやばくなってきた……


『ワイン……ワインを所望するわ……』


その意気やよし。

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