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その160 みんなのために


 「ピュー」


 「シッ! 静かにしてくれよ? 見つかったら面倒なことになる」


 ――主に母さんに、と僕は胸中で付け加えて懐で首を傾げるテッラを窘める。あの偽医者、ティモリアが僕に飲ませた薬の症状で一瞬昏倒してしまった。

 だけど、数十分後に目が覚めた時は全身の傷が消え、痛みもまったくない状態だった。エリィ達の救出、そしてメディナを故郷へ返すという目的ができた今、病室で寝ている場合ではないと夜中に行動を開始した。


 前述通り、母さんが家へ帰ると言ったならそれは確実に行使される。特に悪神の力が使えない僕はあっという間に拘束されて軟禁生活を強いられるに違いない。正直なところ、アレンに借金の返済を持ちかけられて僕が旅立つ時、母さんがその場にいたらアレンは死んでいたかもしれない。


 「ふう……魔法にずっと頼ってきたから、使えないとやっぱり厳しいね……。せめて飛べれば窓から抜け出せるんだけど」


 一通り使ってみたけど、僕が使えるのはこの世界の魔法、それも初級のみだけなんとか出せることがわかった。無いよりはマシ……そう思うことにし、現在僕は命を終えてしまったメディナを担いで馬車へと向かっている。


 「そういえばクロウ達はどうなったんだろう。無事に逃げられたならいいんだけど……。おっと……」


 見回りの騎士を抜け、かなりの時間をかけたけど僕は何とか城の厩舎に止めていた馬車へ辿り着く。


 「ぶるるる……」


 「ひひーん……」


 ヴァリアンとエレガンスの二頭が僕を見て寂しげに鳴く。エリィ達が居ないことに寂しいのか、背中のメディナのことなのかそれはわからない。だけど、今はこの二頭の力が必要なので鬣を撫でながら話しかける。


 「心配をかけたね……。悪いけど、エリィ達を助けるために走ってもらうよ」


 「ぶるる!」


 「ひひん!」


 「うわわ!? 声が大きいよ! ……とりあえず町を出よう」


 馬車は大きいので、流石に出口は衛兵に見つかる。そこは騒がず冷静に、


 「おや、こんな時間にどこへ行かれるのです?」


 「ちょっと隣町に行く用事が出来たんですけど、今から出ないと間に合わないんです。いいですか?」


 「ええ、出て行く分には構いませんけど……」


 「ありがと! それじゃ! あとごめんなさい!」


 そう言って僕は何とか城を出ることができた。ごめんなさい、はきっと母さんにシメられるであろうことを先に謝っただけである。


 「ゆっくり……町を出るまでは……」


 深夜なので音を立てず、何とか町の外へ出ることができた。


 「ふう……第一関門突破ってところかな……。メディナ、僕を見守っていてくれ」


 荷台に寝かせているメディナは布団をかぶせているが、差し込む月の光を受けて顔はまだ生きているかのような雰囲気を出していた。

 少し泣きそうになりながら僕は頬を叩いて馬を走らせる。アスル公国まではここから急いでも馬の脚で三週間。せめてレビテーションが使えればと唇を噛むが、無いものねだりはしても仕方がない……

 

 そして出発から三日ほどしたころ、僕は準備をせずに町を出たことを悔やむ事態が起こる。と、言ってもこれはいつか起こりうることだったんだけど、


 ぐおおおおお!


 「たあああ!」


 ザシュ!


 「はあ……はあ……。次はこっちか……! 《ファイア》!」


 ぎゃおぉぉぉ!?


 「何とか、倒したか……はあ……はあ……。ま、魔物数が多くないか……? これもアマルティアの仕業?」


 街道を走っているのにやたらと魔物に襲われるのだ。今までなら魔法で一蹴できたけど、今は初級魔法と持ってきたセブン・デイズだけ。剣だけでは集団で襲ってくる狼のような魔物は苦しい。僕だけならいいけど、二頭の馬を守らないといけないからだ。


 「……行こう」


 息を整えて他に魔物の気配がないことを悟ると、僕は御者台に乗り馬達の鞭を振るう。


 「ぶるる……」


 「ひひん……」


 二頭の疲労も濃い。だけど、メディナも時間が経てば腐敗が進む。なるべく、急がないと……


 そう思っていた僕は焦っていたのだろう。もうすぐ休憩できる町へ辿り着くという時、僕は急に現れた熊型の魔物に襲われ馬達を危険に晒してしまった。


 「ピュー!!」


 グルゥゥゥゥ……!


 「ひひーん!?」


 「うわ!? 一直線に馬へ行くのか! ”アクアレディエイション”!」


 ビュル……!


 咄嗟に放ったセブン・デイズから水の蛇が熊を襲う。しかし以前使った時よりも細く、威力はそれほど無さそうだった。


 グルォォォ!


 「それでも僕に標的が移った……! こい!」


 馬がやられてしまうとメディナを運ぶ手段が無くなる。ここは倒しきるしかない……!


 そう思っていると、別の方向から怯んだ馬の下へ走るもう一頭の熊が見えた! マズイ、ここからじゃ間に合わない……!


 「ヴァリアン! エレガンス! 逃げるんだ! うわ!?」


 ガキン!


 「ぶる!?」


 「ひひん……」


 疲れが溜まっているのか、二頭はよろよろと荷台を引き始める。これでは逃げきれない万事休すか……!


 だけど、その時――


 グオォ!?


 「おらぁぁぁぁ! 見つけたぞデッドリーベア! しかも二体だ、報酬二倍だぜぇ!」


 「そっちは頼むぞ。私は彼の手助けをする」


 近くの森から、ふたりの男が踊り出てきた。ひとりは馬達に迫っていた熊を殴りつけたのだ!


 「手助けしよう」


 「あ、ありがとうございます……! 馬達が大丈夫ならこれくらいは!」


 長い髪をした男が片刃の剣を熊の背中へ斬りつけながら僕に言い、怯んだ隙に受けていた爪を弾いて胴体を切り裂いた。

 

 「いい腕だな、一気に倒そう」


 言うが早いか、長髪の男があっという間に両腕を切り裂いたので、僕は眉間をめがけてセブン・デイズを突き刺す。


 グルゥゥゥ……


 ドサリ、と大きな音を立てて熊は絶命て血の海を作る。


 「もう一頭は!?」


 「はっはあ! これで終わりだ、見つける方が苦労したぜまったくよう!」


 「ええ!?」


 見れば茶色の短髪男は熊の首に腕を巻き付け、腕を捻るところだった。


 ゴキン!


 グル……!?


 ドシャ……


 こちらも大きな地響きと共に変な方向に首を曲げて絶命した。だらりと開けられた口からは伸びた舌と、よだれが出ていた。


 「すみません! ありがとうございます。馬がやられたらどうしようかと思ってました」


 「ぎゃはははは! 気にすんな坊主! 運が良かったって思っとけ! カゲト、解体できるか?」


 「二頭は予想外だ。バラせるが運ぶのは少々厳しいな」


 「しかたねぇな……。もったいねぇが……」


 短髪の男が舌打ちをしながら残念そうに言う。冒険者だろうか? 助けてもらったお礼はしないといけないかな。


 「あの、僕はこの先にある町に行くんですけどお二人もそこなら乗りますか? 荷台に素材は乗ります」


 「お、マジか!? そいつは助かるぜ! 頼む!」


 「あ、はい。それじゃ――」


 と、案内しようとしたところでメディナのことを思い出す。


 「……ちょっとだけ待ってもらえますか?」


 「おう!」


 僕はいそいそとメディナを御者台の近くへ移動させ、布団を頭まで被せる。


 「ごめんよ。少しだけ我慢してくれ」


 その後、すぐにふたりを載せて移動を始める。すると短髪男が荷台から御者台へ顔を出し尋ねてきた。


 「……この布団で寝ている、いや、違うな。遺体か? ……なんか訳アリのようだなあ? 良かったら聞かせてくれねぇか? 俺はガクってんだ」


 するともう一人の長髪が鼻を鳴らしながら不機嫌そうに言う。


 「また厄介ごとに首を突っ込むつもりなのか? カンザキ領の領主様。俺はカゲト。生き別れの妹を探して旅をしている冒険者だ」


 「領主様が冒険者、ですか?」


 「馬鹿!? 勝手に人の自己紹介するんじゃねぇよ! ま、まあ、そういうこった。いいんだよ、俺には優秀な子供が居るからあいつらに任せておけば! それよりお前は!」


 「僕はレオスと言います。信じてもらえるかは分かりませんが――」


 信じてもらえるとは思っていない。だけど、心細い僕はメディナの件を話すことにした。

他人のSORANIです。


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『こいつら……』


知らない人です。

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