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その138 逆転と撤退


 目論み通り、あたしはメディナを呼び寄せることができた。魔聖の基本能力は魔法なので、冥王の力である魔法吸収は完全な天敵と言って差し支えない。

 何を考えているかわからない顔をしているメディナだけど、仲間に対しての思いやりは厚いと感じるわね。


 「ごめん、食事中だった?」


 あたしが声をかけると、高速で咀嚼して口を開くメディナ。


 「そう。レオスは多分、明日には到着する」


 「トマトソースがついてますよ」


 「ん」


 アニスに口の周りを拭いてもらい、目を細める。きれいになったところで首を傾げながら尋ねてくる。


 「これはお仕事?」


 「まあね。あっちの銀髪と、こっちのおばさん。それとあの悪そうな顔をしたやつを捕まえる羽目になってね」


 「わかった。手伝う。レオスのところへ戻らないと」


 メディナがそう言って頷くと、ルキルが冷や汗をかきながらあたしとメディアを交互に見て言う。


 「ふ、ふふふ。どうやったのかわからないけど、仲間のようね? 拳聖よりもさらに貧乳だし、わたくしの敵ではないわね」


 「あんた――」


 まだ言うか、と思い何か言い返そうかとしたが、先にメディナが呟いた。


 「乳が自慢みたいだけど、モノには限度がある。若いころはそれでいいかもしれないが、年を取ってくると垂れるし、見苦しくなってくる。それに自分の好きな男が大きい乳が嫌いだったらどうする? 私達を貧乳と言ったが、レオスはこれくらいが大好きだ。だいたい――」


 メディナの長台詞が炸裂した! 味方ながら虚ろな目でそんなことを口走るので若干怖い。ここにバス子がいたらもっとひどいことになっていたに違いない。


 そして当然そんなことを言われて黙っているはずもなく。肩を震わせ、顔を真っ赤にしたルキルが大声で叫んだ。


 「言わせておけば……! わたくしはまだ二十七歳よ! それにレオスって誰だ! 《エクスプロージョン》!」


 「無駄」


 「任せるわ! あたしはキラールを!」


 「……!? 魔法が消える……! さっきのは偶然じゃない!? こいつ一体何者!」


 無表情だが、動きは速いメディナが魔法を吸収しながら突撃したので、あたしはキラールへと迫る。


 「く、聖職の魔法を打ち消すなど……これでは勝ち目など無いではないか! モラクス! 私を守れ! 予言が正しければここで私が捕まるはずがない!」


 モラクスは逆方向で騎士やネックスと戦っており、聞こえていない。予言だかなんだか知らないけど、ここできっちりカタをつけさせてもらうわ。


 「残念だけど、メディナがおばさんに負けることはまずないわ。ここで終わりよ!」


 「おのれぇぇぇ!」


 味方は期待できないと悟ったキラールは、腰の剣を抜いて向かってきた。貴族の教育というやつだろうか? 剣筋は悪くないけど、レオバールやアレンに比べれば児戯に等しい動きだ。

 

 「それ!」


 振り下ろした剣を止めることは難しい。剣を持った手の方へ回り込むと、盛大に空振り。返す剣をやろうとしても、刃の届く範囲にあたしはいない。

 

 膝の関節に蹴りを入れると、メキッと嫌な音を立ててキラールの顔が苦悶の表情になり、間髪入れずに手首を取って地面に叩きつけた。


 「ぐあ……!?」


 「クロウ!」


 「は、はい!」


 あたしの叫びでクロウがロープを持って走ってきてくれた。即座にお縄にし、あたしはモラクスの方へと向かう。

 

 「その前にメディナは!」


 冥王が負けるはずはないけど、一応様子を見ると――



 「ぶくぶくぶく……」


 「あれ?」


 メディナに右手を握られて、ルキルは泡を吹いて膝から崩れ落ちていた。メディナの後ろでアニスが頭の上で両手を交差させていた。


 「ルキルさんの上級魔法をことごとき吸収し、為すすべが無くなった彼女の手を掴んだ瞬間終了……! す、凄いですメディナさん……!」


 「吸収までに時間がかかった。結構魔力を持っていた」


 解説ありがとうアニス! 心置きなくあたしはモラクスへ肉薄する!


 「そこの銀髪、覚悟!」


 「ぬお!?」


 後頭部に飛び蹴りがヒットし、モラクスがバランスを崩したたらを踏む。そこへネックスのレイピアが右肩に刺さる。


 「痛っ!? なんと! ルキルがやられたというのか!?」


 「次はあんたの番だってことよ!」


 右、左、足払いと連携を仕掛けるが、きっちり回避するモラクス。意外と身体能力が高い!


 「目に見えていればこれくらいはいけるのだよ! ぐあああ!?」


 「こっちにもいるぞ? みんなかかれ!」


 どうも、目の前敵以外には集中力を欠くようで、背後からの攻撃は気に留めないらしい。だけど、その理由が、


 「離れろ! ええい、キラールが捕まってしまってはこの国でできることはもうないではないか……!」


 「何をする気だったのかしらね……!」


 「ふふふ、それは……ぐあ!?」


 あたしの蹴りを避け、冒険者に斬られるモラクス。タフだなと思っていると、メディナも駆けつけてきた。


 「こいつ。バスと同じ感じがする。多分、悪魔」


 「なんですって!?」


 唐突にメディナがそんなことを言うので、驚いて手が止まるあたし。そこをチャンスと見たか、モラクスがなにかを放つ。


 「秘儀! ”マッドストーム”!」


 「うわあああ!?」


 「ん」


 ネックスたちが吹き飛ばされたが、あたしはメディナが庇ってくれたので問題なし。魔力でできた風圧ってところかしら?


 「俺を悪魔と認識できているとは……どういうことかね? バスとはなんだ?」


 「バスはバス子」


 「いや、それじゃわからないわよ……。バス子は……確か、アスモデウス、だっけ? あたし達の仲間にいるのよ」


 「そう」


 コクリと頷くメディア。あんた名前忘れてたでしょ、絶対……。すると、モラクスが片目を細めて問いかけてくる。


 「アスモデウスか。久しぶりに聞いたな。彼女は元気に貧乳かね?」


 「うん。相変わらず小さい。私達はバスを知っているし、お前達はバアルを復活させようとしていることも知っている」


 「……ほう」


 黄泉の丘で何かを掴んだのかしら? メディナは続けてモラクスへ言う。


 「あなたたちをこの世界へ呼び寄せた人物の正体を私達は黄泉の丘で聞いた。バスはそれを伝えるため、アガレス達の元へと戻った」


 「アガレス殿も知っているか。呼び寄せたのはアスル公国の国王では無かったか?」


 「あっている。でも、違う。国王に妙なことを吹き込んだ旅の男がいたらしい。戦争に勝つための方法として召喚をさせた」


 戦争を幇助するための助言……? 旅の男……? それってさっき……


 「……なるほど。少しは面白そうな話のようだ。だが、興味ないな。アスモデウスあたりなら『旅の男を見つけてやる』と意気込みそうだが、俺は別の方法を考えている。戦争は上等だと思ったが、この状況では無理そうだ」


 「大人しく捕まりなさい。人死にが出ていない今なら無給で町のボランティアを二十四時間一か月で許してあげるわ」


 「結構過酷じゃないかね!? ……ルキルもやられたいま、ここに用は無い! お暇させてもらおう! ”引手の絹糸”」


 「あ!」


 「アニス!?」


 背後で声がしたので慌てて振り返ると、縛られていたルキルが宙に浮き、引き寄せられるようにモラクスの手の中へ。アニスじゃなくて良かった……! 


 だけど、


 「アディオス、皆の衆! もう会うこともないだろうね! 《エクスプロージョン》」


 「逃がすか!」


 「このモラクスを甘く見てもらっては困るよ?」


 「ルビア」


 壁に大穴を開け逃げようとするモラクス。掴みかかろうと手を伸ばした瞬間、メディナに引っ張られる。


 直後、今しがたあたしの頭があったところに巨大な腕が通り過ぎた。


 ブオン……!


 「あんた……!」


 モラクスの右腕が筋肉隆々のアンバランスな太さをした腕へ変化していた。涼しい顔でモラクスはあたしに言う。


 「俺の本気の拳を避けたか。当たれば吹き飛んでいただろうに残念だよ?」


 トン、とこちらを向いたまま外に躍り出るモラクス。慌てて近づくも、すでに姿は見えなくなっていた。


 「バス子の仲間なら大人しく捕まりなさいっての……!」


 「仕方がない。多分、この先恐らくどこかで会うことになる」


 「何かわかったのね? ……とりあえず、この場を収拾することが先、か」


 唖然としたまま固まっているネックスや騎士、倒れたキラールと、頭の痛いことが揃っているなとあたしはこめかみを押さえていると、待機していたという各地の冒険者が謁見の間へ入ってきた。

一件落着……?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『穏健派と過激派の話がここにきてって感じ』


まあ、これはのちに収束するけど、モラクスは今の悪魔達の関係性がわかってもらえるような一発屋だね


『一発屋……使い捨て……』


そこまでは言ってないよ!?

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