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その135 壮絶な罠



 「店員さん、あなたが値をつけるとしたらどれくらいになる?」


 あたしはテイマーショップの店員さんへ声をかけると、彼はビクッと体を揺らし、慌てて口を開く。


 「え、ええー!? そ、そうですねえ……ドラゴンの卵なんて流通しないですから正直、白金貨百枚でつけても怒られない代物ですよ……よく持って来れましたね、と言いたいくらいです」


 「なるほど……。ねえ、あんた、捕まるのは嫌?」


 まあそんなものだろうなと、あたしの考えていたくらいの金額が提示されたのでそのまま誘拐犯に目を向けて尋ねてみる。すると、誘拐犯はなぜか得意気に鼻を鳴らして話し始める。


 「当然でしょう。ワタシという存在を牢獄に閉じ込めておくなど、世界にとって損失です! さあ、早くロープを解きな――へぶるわ!?」


 「あーあ」


 アニスが呆れた声を出し、誘拐犯は床とおでこをぶつける羽目になった。それはもちろんイラっとしたあたしが後頭部を殴りつけたからである。


 「余計なことは言わなくていいの。で、どう?」


 「……突き出しは勘弁してください……」


 「わかったわ。なら、このドラゴンの卵をあたしが白金貨二十五枚で買う。店員さんの見立てより相当低いけど、代わりにこのまま見逃してあげる。この条件なら解放してあげるわ」


 「ルビアさん!?」


 さっさとギルドに突き出して卵を回収すればいいじゃない、と目が訴えているクロウ。まあ、その通りなんだけど、レオスやあたし達から逃れている状況と、ドラゴンの巣から帰ってくる能力から察するに、恐らく脱獄も容易なのではないかと考えている。そうなると、お金がないこいつはまたどこかでつまらない悪事を働くだろう。

 それなら、それなりの大金を渡してやったほうが被害は少ないはずと思ってのことである。


 「……」


 「四分の一まで下がったのは不満?」


 黙り込んだ誘拐犯が目を閉じたので、声をかけると、目をゆっくりと開いてあたしへ言う。


 「交渉成立です! その卵は今からルビア様の物です」


 と、あたしの前に片膝をついて、忠誠を誓うような格好で手を差し出してきた。


 「あ、あれ!? ロープが解けてる!?」


 「本当、何なのあんた? ……はい、白金貨二十五枚よ。数えなさい」


 「ひい、ふう、みい……問題ありませんね! では、ワタシめはこれで!」


 スッと扉の前に移動し、片手を上げてウインクする誘拐犯。そして、扉を開けた瞬間振り向かずに呟く。


 「ちなみに……お腹を空かせていた子供というのは真っ赤な嘘です!」


 「こいつ……!」


 クロウが殴りかかろうと前に出ると、


 「しかし、その卵は本当にアースドラゴンの巣から持ってきたものですからご安心を。このお金で今度こそ事業を……! アディオスー!」


 「あ、待て!」


 あと一歩というところでクロウの手をするりと躱し、誘拐犯は去っていく。


 「あはは、逃げられちゃったね」


 「ま、お金に困っていたのは本当みたいだし、あれで大人しくなるといいけど」


 おかしな男だったけど、一応、義理というものは持っているようなのであの言葉は本当だと思う。クロウは納得いっていない様子で、毒づきながらあたし達のところへ戻ってくる。


 「くそ……! でも、本当にドラゴンの卵なのかな? どうやって孵化させればいいんだろう」


 「店員さん、どうなの?」


 「は!? え、えっと……この図鑑によると、アースドラゴンの卵も他の動物と同じで温めればいいみたいですね。ただ、人肌よりも温度は高いみたいです」


 「なるほどね。チェイシャもいるし、これはレオスと合流してから考えようかしらね。さすがに大きいから荷台かレオスのバッグに入れて欲しいわ。騒がせたわね、なにか買っていくわ」


 あたしがそういうと、店員は、


 「いえ、珍しいものを見せていただいたので結構ですよ! それより、孵化したら見せに来てくれると嬉しいです! ドラゴンのテイムはテイマーの憧れですからね」


 その時は必ずとあたしは約束して、クロウとアニスと共にテイマーショップを後にする。卵は木々を拾う時に使う、背負い籠の中に入れてあたしが宿まで持って帰った。


 「……レオスがいないのをこれほど残念だと思うときがくるなんて……」


 「あはは……」


 「ま、まあ、卵を背負っていたら流石に……」


 宿でチェックインする際に、卵をまじまじと見られながらひそひそされていたのだった……。こういうのはレオスの役目なのに!



 ◆ ◇ ◆



 ――そして、あれから二日。思ったよりも早く、謁見のアポが取れたと宿に連絡が来た。あたし達は朝から準備を整え、ギルドへと向かっていた。


 「うう、謁見なんて初めてだから緊張するね……」


 「あまり気負わなくていいって。基本的にギルドの連中が全部やってくれるから、あたし達は片膝ついてあくびでもしていれば大丈夫よ」


 「うん、あくびはダメだと思うよ、おねえちゃん……。でも、これで白金貨十枚はいれば卵代が少し回収できるね」


 アニスがあたしの背にある卵を撫でながら嬉しそうに笑う。謁見に卵はまずいんじゃないか、と思うかもしれないけど、あの誘拐犯があたし達のいない間に盗みにきてもおかしくないのでこれは正しいと思う。


 「まだお金はあるし、無くなったら稼ぐわよ。レオスのお店を手伝ってもいいしね」


 「そういえばレオスって商人なんですよね。強いのに」


 「あの子、強い理由があってさ。それもあまりいい方向で強くなっていないから力を使いたく無さそうなのよ。だから商人をやっているわ。実家も商売をやっているのもあるみたいだけど」


 「ふうん。強いのはいいことだと思うけどなあ」


 「人によってはそれがいいとは限らないのよ。あ、馬車が待っているわね」


 アニスが不思議そうにレオスのことを言っていると、ギルドマスターのネックスがこちらに気付き手を振ってきた。


 「やあ、おはよう。……なんだ、その卵は?」


 「気にしないで。ちょっと盗まれたら困るやつなのよ」


 「……ま、まあ、いいか。拳聖なら許される、か? では乗ってくれ、すぐに出発する」


 そう言われて馬車に乗り込むと、すでに冒険者らしき者が数人、腰掛けていた。空いている場所へ座り、ほどなくして出発。


 「……」


 ……今から出すのは嘆願書みたいなもの。それはいい。だけど、それにしては装備がしっかりしすぎている気がする。雰囲気も重い。キラールという国王の従弟はそれほどまでに難しい男なのだろうかと、あたしは訝しむ。


 そう考えていても馬車の足が遅くなることはなく、城へ到着する。馬車から降りるとすぐに謁見の間へ通された。


 「面を上げよ」


 「はっ」


 ずらりと並んだ騎士と宰相の中、あたし達はキラールの言葉で顔を上げた。王冠は載せていないが、なるほど、ツリ目がちな瞳に、への字に曲げた口は野心がありそうな顔立ちをしていると感じた。


 「それで、今日は書状を持ってきたと聞いておるが?」


 「はい。お時間をとっていただき、誠に恐縮です。こちらを……」


 あたしが持ってきた書状を、ネックスが前へ出てキラールへと渡す。封蝋を開けようと手にしたところで、ネックスが口を開く。


 「して、キラール様。ハイラル国の情勢はご存じで?」


 「む? ……当然だ。病に倒れた国王に代わり、私が方面へ指示を出しているのだからな。それがどうした?」


 「いえ……」


 ネックスはそれだけ言って一歩下がると、キラールは玉座へ座り書状を読み出す。


 「な……な……!?」


 「? どうしたんだろう……」


 書状を読むキラールの顔が赤くなっていくのを見てクロウが首を傾げていると、キラールは玉座から立ち上がり、書状を床に叩きつけた。……嫌な予感……!


 「な、なんだこの内容は! 貴族が不満を持っているだと? 新しいことをすれば、税を使うし、資材や人も動く。そんなことは当然だ。それと貴族同士の見合いなど、よくあることではないか! こんなくだらないことのために私と謁見したのか! 貴族たちも直接言ってくればいいではないか。貴族の小間使いとはギルドも地に落ちたものよ! 気分が悪い、これで終わりだ!」


 怒りを露わにして去って行こうとするキラールの背に、ネックスが立ち上がり声をかける。


 「新しいこと、ねえ? もうちょっと上手くやればバレなかったと思うのですがね。キラール様、あなたは各領地、特に国境付近の領地に、街の拡張と言いつつ、兵站用の施設を作っていますね?」


 ギクリ、と肩が震え立ち止まるキラール。ネックスは話を続ける。


 「見合い話は、自分の息がかかった者を領地に送り込むため。税は施設を作るため。証拠、見ますか?」


 「……ぐぬ……!? この国を豊かにするには領地拡大が必要だ……! そのために――」


 「戦争をすると? 大魔王が倒された今こそ、手を取り合って魔物に荒らされた復旧をすべきでしょうが!」


 「疲弊しているからこそ戦争ができるのだろうが! ええい、こやつらをひっ捕らえろ! 殺しても構わん!」


 「し、しかし……」


 「私の言葉は国王と同義ぞ! やれ!」


 マズイ……!


 「クロウ、アニス、逃げるわよ!」


 「え? え?」


 しかし、あたしの判断より早く、ネックスの口が動いていた。


 「ここにいる、卵を背負った方は、大魔王を倒した拳聖ルビア様だ。騎士ごときが勝てるかな? それと外にも各町のギルドマスターと冒険者を集めている。俺達が戻ってこなかったら乗り込んでくるぞ?」


 「な、なに……!? 聖職が加担するというのか……!?」


 やられた……!


 ネックスたちの狙いは最初からあたしを『本当の抑止力にする』つもりだったのだ。一緒についてきて、ここで抵抗すればギルドに加担していると同義になってしまう。かと言って捕まるわけにもいかない。


 キラールのやろうとしていることは確かに許されないけど、こんなだまし討ちみたいに参加させられるなんて……! 

というわけで再開します!


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『おっと、シリアス展開?』


折り返したからね

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