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その118 トゥーンの村



 <土曜の日>


 ――アイムに案内された村の入口で休んだ次の日、僕達はアイムにお礼を言うため村の中を歩いていた。畑や家畜の厩舎がそれなりにあるため、村というほど狭くないのが驚きだったりする。林の中から結構奥まったところにのどかな村が広がっていると言えば伝わるだろうか。

 寝足りないのであくびをしながら朝霧の中を歩いていると、バス子が呆れたような口調で、腰に手を当てながら回り込んでくる。


 「また女の子をナンパしたんですか? レオスさんも凝りませんねえ。そろそろお嬢様とエリィさんに刺されますよ? あ、姐さんもか」


 「僕から声をかけたわけじゃ……いや、誰だって先に言ったのは僕だからそうなるのかな……? それにどうしてルビアが出てくるの?」


 バス子の理不尽な発言に混乱しつつ、村を歩く。村人は気さくな人ばかりで、顔を見るたび声をかけてくれる。そうこうしているうちに、ようやくアイムを発見できた。


 「やあ、昨晩はどうもありがとう」


 「あ、おはよう! よく眠れた? そっちのど……女の子達も! いやあ、やっぱり都の人たちは美人さんが多いね。とりあえず親父に会って行ってくれよ!」


 そう言ってアイムは『村長の家』と書かれた看板のある家へと入っていく。わかりやすいけど、書かなくてもいいんじゃないかなあ。



 「ようこそトゥーン村へ。わしが村長のゴルです。娘の夜狩りに出くわしたとか? 粗相をいたしませんでしたかね?」


 「親父!?」


 人の好い顔をしたおじさんがアイムの頭をポカリとやりながら自己紹介をしてくれた。なるほど、村長の娘なら旅人である身元不明の僕達を招き入れてもある程度は不問になるってところかな。村人が挨拶をしてくれるのは村長の娘の客人だからというのもありそうだ。


 「夜分すみませんでした。僕は一応このパーティのリーダーであるレオスと言います。で――」


 「エリィです」


 「ベルゼラと申します」


 「あ、バス子でいいですよ」


 「メディナ」


 エリィ達もそれぞれ自己紹介すると、ゴルさんはうんうんと頷き、握手を求めてくる。


 「いいですなあ。若い子ばかりで羨ましい! わしももう少し若ければ……」


 スカン!


 「ぐあ……!?」


 「若かったら何をする気かしらねえ……? あっと、お見苦しいところを見せましたね。私はアイネ。村長の妻ですよ。ゆっくりしていってくださいね」


 「……痛っ」


 「どうしたのエリィ?」


 エリィが一瞬頭を押さえて呻いたので、心配になって耳打ちする。


 「何でもありません、頭がチクってしたんですけど、もう大丈夫です!」


 ほんの一瞬だったから大丈夫かな? 気圧の変化とかで頭が痛くなることもあるしね。安心していると、村長さんが話を続けてきた。

 

 「それで、レオスさん達はどこへ行かれるおつもりか?」


 「えっと、この先にある『黄泉の丘』ってところへ」


 「ほう『夜見の丘』ですか。確かに、きれいなお嬢さん達と行くにはいいかもしれませんなあ。その名の通り、月夜の夜に丘から見える景色は絶景ですよ」


 ん? その名の通り……? ゴルさんの言葉に違和感を感じたけど、挟む間もなくどんどん話してくる。


 「やはりここに村を作ったのは良かったです! あなた方のように冒険者や旅人が立ち寄ってくつろげるような村を目指しています」


 「いいですね、そういうの! 地図には載っていませんでしたけど、できたばかりなんですか?」


 「そうそう、まだ三か月くらいなもんさ。王都にも、ギルドにも開村したことは告げているから、地図や案内もその内できると思うよ! じゃなきゃ、ネーレさんの宿屋が商売あがったりだもん」


 やれやれといった感じのアイムがおかしくて、僕達は笑う。うん、こういう穏やかな村は是非発展していってほしいよね。


 それはともかく、今は黄泉の丘へ急がないと。奥さんであるアイネさんの淹れてくれたお茶を飲んでから、笑顔でお礼を言う。


 「それでは、僕達はそろそろ出発しますね。休ませてくれてありがとうございました! また機会があれば他の仲間と一緒にまた来ます」


 「あれ!? もう行っちゃうの!? 都の話は……?」


 「ごめんなさい。少し急いでいるので、もう行かないといけないの」


 ベルゼラが申し訳ないと言った感じで返すと、アイムは不満そうに口を尖らせるも、それ以上何も言っては来なかった。


 「……それじゃあ、見送る」


 「わしも行こう。お客さん第一号だったからな! はっはっは!」


 ゴルさんがすねる娘の背中をバンバン叩いているのを馬車のところまで再び歩いていると、慌てて走ってくる村人がゴルさんへ叫ぶ。


 「そ、村長……! 賊だ、賊が出た! 入口で男連中が止めている!」


 「何!?」


 「レオス君、私達も行きましょう」


 緊迫するワードが飛び出し、僕達は入口へ走る。村の周りは杭のような高さ10メートルくらいの丸太を何本も組んで外壁にしているので容易に乗り越えることは難しい。確かに入るなら正面からだけど、相当な自信がないとできない。

 

 駆けつけると、いかにもガラの悪い男達が武器を手ににやにやと笑っているのが見えた。地面には斬られた村人が数人うめき声を上げていて、他の村人は槍や斧などを手に、入り口から進めないように取り囲んでいる。


 「エリィ!」


 「はい! 《キュアヒーリング》」


 ザっと、僕は村人たちを庇うように立ち、エリィが回復魔法を使って癒す。


 「なんだお前達は!」


 「ゴルさん、危ないから下がってください」


 興奮した状態のゴルさんを僕が手で制していると、ごろつきの間を縫って、一人の男が姿を現した。歳は……五十歳前半って感じで、片目に大きな傷跡がある。ボスらしき男が口を開いた。


 「いやいや、済まないな。まさかまた村があるとは思わなくて……つい襲っちまった! ひゃはは! ちと訳アリで逃亡中なんだがちょっと匿ってくれねぇか? 女もいっぱいいるみたいだしよ。痛い目に合いたくはないだろ」


 「こいつ……! 親父、言ってやれよ!」


 エリィ達やアイムを見て勝手なことを言う男に怒りを覚える僕。それはみんなも同じで、相手を睨みつけながらゴルさんの言葉を待った。


 「断る! 匿ってほしいだと? どうせロクな理由じゃないだろうが。いきなり斬りかかるようなヤツらなぞ村に入れるのも胸糞悪いわ! 《フレイム》!」


 ボン! と、ボスらしき男の足元で炎の魔法が炸裂し、怯む男達。ゴルさん魔法使いだったんだ。


 「チッ、魔法使いか……お前等、行くぞ」


 「いいんですか、ボス」


 やっぱりボスだった。


 「構わねぇ」


 約20数人の男達はぞろぞろと朝霧の中へ消えていく。もしあいつらに魔法使いがいなければ村を占拠するにはごろつきでは厳しい。

 村の男の人も、こういう状況を想定しているので荒事には強そうだ。斬られた人は多分、不意打ちを受けたんだと思う。


 「まったく、折角の客人にケチがつく。皆に夜狩りはしばらく止めにするように伝えてくれ、王都のギルドに討伐の依頼を出そう」


 「わかりました。すぐに手配しましょう」


 屈強な角刈りの男性が頭を下げて走って行く。それを見送っていると、ゴルさんが笑いながら僕達へ向き直る。


 「いやはや、申し訳ありませんな! 出発に水を差したようで」


 「いえ。でも大丈夫ですか? これでも僕達は冒険者です。応援が来るまで滞在しましょうか?」


 「そうだね――」


 僕の提案にアイムは乗り気だったけど、ゴルさんは首を振って笑う。


 「いえいえ、お急ぎなのでしょう? あれくらいなら我々で何とかします! これくらいでへこたれていては村の存続などできませんからな」


 「そうですか……?」


 ゴルさんは大丈夫と念押しをしてくれ、アイムはやはり不満そうだった。悪い気もするけど、僕達には目的があるので、馬車を走らせ村を出発した。


 「……ちょっと心配ですね」


 「まあ、村は強盗に野盗に魔物などなどをいかに駆除していくかが肝ですからねえ。村長さんが魔法を使えるだけでもかなり違うと思いますよ?」


 「そうね。自分たちでできるというのだから水を差すのは悪いわよね。……それにしても、霧が凄いわね。レオスさん、道大丈夫?」


 「うん。アイムに丘の方角を教えてもらったから、大丈夫。地図の方向に進んでいるよ。夜だったら危ないけどね」


 少し霧が出ているけど、時間が経てば消えると思う。雨が降るような感じでも無かったからね。


 「……」


 しかし――



 「あ、あれ……?」


 「どうしたんですか? ……え」


 丘に向かって走っていたはず……なのに、目の前には先ほど出発した村の入口が、見えていた。

おや、ミステリー……?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『軽いホラーね。洋館とかあれば完ぺきだったのに、村とはねえ。ハッ!』


何を偉そうに……


『偉いのよ! あ、ちょっと止めなさい!? 眉毛をマジックで繋げないで!?』

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