その107 持って帰ってよ!
とりあえず木に吊るされたバス子がどういう目にあったのかは想像に任せることにして、陽も暮れ始めたので町へ戻ることになった。だけど、気になる点はまだ残っている。
「えっと、サブナックさん達はどうするの? アガレスって人に報告を?」
するとロープでぐるぐる巻きにされたバス子がぴょんぴょん飛び跳ねながら僕のところへとやってきて喋り出す。
「ああ、この件はレオスさん次第という部分がありますねえ。どうです? わたし達を元の世界へ返すため、序列一位の復活を手伝って貰えませんか?」
「うーん……」
そういわれて僕は腕組みをして考える。確かに世界の混乱をおさめるにはそれが最善だけど、その序列一位の人が『元の世界に帰りたい』と思っているかどうかはまた別の話だ。
大魔王は一度倒したので復活して悪だくみをしようとしても僕が止められるけど、バス子の上司の強さは未知数なので、もしこの世界を手にしようと考えて、僕が倒せないような強さだったら協力するのは憚られる。となると、今は保留するしかないかな。
「とりあえず少し待ってもらっていい?」
「早い方とアガレスさん達に無茶させない口実ができるのでできれば急ぎでお願いしたいです」
「わかった。大魔王の復活までには返事をするよ。彼の知っていることを聞いておきたい」
バス子は情けない姿のまま、キリっとした顔で頷くと、今度はサブナックさん達へ向き直って指示を出す。器用だなあ。
「では、サブナックさん達は申し訳ありませんがアガレスさんのところへ戻ってください。わたしが復活の手がかりを見つけたと伝えておけば収穫としては上出来でしょう」
「承知したぜ。アスモデウスは一緒に戻らないのか? そっちの方が説得しやすいだろうに」
「わたしは大魔王様の復活を見届ける必要がありますのでね」
「アタシ達は、帰れれば何でもいいわぁ……この世界が嫌いって訳じゃないけどさ。とりあえずレオス君だっけ? ご協力よろしくぅ」
「考慮しておくよ。もう行くの?」
すると優男のオリアスが手を広げて口を開いた。
「ああ。俺達は元々、そこにいる冥王のリベンジで連れて来られただけだかんな。町で息抜きしたと思えばまあいいけど」
そう言って町まで戻り、三人はチェックアウトを済ませる。慌ただしかったけど、バス子が仲間ならこれでちょっかいをかけてこなくなるはずなので結果良しとしておこう。三人は宿から出てくると、町の出口に向かって歩き出す。ん? 待てよ、さっきから三人っておかしくないか?
「バイバイ」
「じゃあな……って、お前はこっちだろうが!?」
そうだ!? 冥王! ナチュラルに僕達の中に紛れているから全然気づかなかった!
「そうだよ、冥王も帰らないといけないんじゃないの?」
「いい」
「いいって……これ以上増えたら出番が減るんでできれば帰ってくれませんかねえ?」
バス子が冥王に指を突きつけてせちがらい話をしている……すると冥王はバス子に向かって切り返す。
「お前が帰れ」
「にゅわんだとぉ!? おにょれ! このアスモデウス様にそんな口を聞いてタダで済むとは思わないことですね!」
バス子は眉間をピクピクさせながら槍を取り出し、冥王に向かって威嚇をはじめた。その様子を見ていたサブナックさん達三人が、
「あ、じゃあ俺達はこれで……」
「冥王! 別に帰ってこなくていいからね!」
「レオス君、任せたわぁ!」
「あ、ちょっと! 連れてきたのはあんた達でしょ、責任もって連れて帰りなさいよ!」
「さっきも言ったろ! そいつのリベンジで駆り出されたってな! そいつが残るなら俺達には関係ねぇ、あばよ!」
「逃げましたよ!?」
ルビアの叫びを無視して、三人の悪魔たちはすたこらと町を出て行ってしまい、そして――
「”怒涛のカオスクラッシャァァァァァ”!」
「《ダークシックル》」
バス子と冥王の戦いが始まった! こんな町中でやらかされたら建物の修繕費とかで一気にお金が無くなっていまう!?
「落ち着いて二人とも! <ウォーターフロウ>」
ザッパァァン!
僕の水魔法が、争っているバス子と冥王に覆いかぶさり、あっという間に飲み込む。
「ちべたい!?」
「あー」
大きな波に逆らえずそのまま二人は町の外へと流されていくのだった。惜しい、サブナック達はすでに出た後だったか……
「ふう……なんとか惨劇は免れたね」
「地面はかなりびしょぬれだけどね……」
<大雑把じゃのう……わらわはまた眠るぞ……>
◆ ◇ ◆
「へくち」
「あら、かわいいくしゃみ。はい、暖かいコーヒーですよ」
「助かる」
とりあえず無力化した二人を回収して宿へ戻り、部屋で一息ついたところである。ちなみにバス子と冥王は服を脱がされ、毛布にくるまっていた。
「それで、冥王はこれからどうするの? というかお父様の配下がなんで悪魔たちと一緒なのよ」
「む、大魔王様の娘。これには訳がある」
「いってごらんなさい」
「勇者に倒された私は虫の息だった。そこへあいつらがやってきて私を治療した」
「うん」
「終わり」
「全然わからないよ!? どうして助けたとかそういうのはないの?」
あまりにも淡白な冥王に驚愕していると何かを思い出したのか「あ」と口を開けて続ける。
「『魔力を回収するのにちょうどいい人材だ。大魔王も倒された今、君も行くところがあるまい? どうだろう我々の手助けをしてくれまいか?』と言われた」
「凄く饒舌ですね。声まで変えて……誰かの真似ですかね?」
「多分、アガレスさんですねえ。冥王さんは大魔王様が倒された後目覚めたんですか?」
「そう。イチゴ大福3個くれたし、行くところもないから一緒にいた」
「3個も……!? ま、まあ、魔力吸収できる能力は貴重ですからねえ」
ずいぶんイチゴ大福人気なんだな……というか別世界から来たんだからバス子がイチゴ大福を知っていたのは納得できる。というかバス子達のイチゴ大福の価値ってどれくらいなんだろうか……ちょっと食べたくなってきちゃったよ。
「なら帰れるじゃないの」
「いい。私はレオスと一緒にいると決めた」
「……どうしてですか?」
何を考えているか分からない目だけど、声色は真剣だった。エリィが尋ねると冥王は一度目を閉じてから言う。
「運命を感じた」
「合格!」
「やった」
ぐっと握りこぶしを作る冥王はちょっと可愛いと思ってしまったけど、色々おかしいだろと僕は立ち上がって叫ぶ。
「何が!? ねえ冥王、冗談だよね? 僕の何がいいか分からないけど君と付き合うこととかないよ? それにエリィ、合格ってなんなのさ!」
「レオス君。恋する女の子を止める手段はないんですよ?」
「いいこと言ったつもりだろうけど、分かってるの? もし誰かと結婚するとなったら誰か一人だけだよ? ライバルを増やしたらエリィを選ばなくなるかもしれないのに」
「大丈夫ですよ?」
「大丈夫じゃないよ? ラーヴァ国もそうだけど、だいたい重婚は認められてないからね?」
すると今度はベルゼラが得意気に言ってくる。
「大丈夫よ、レオスさん。あなたはお父様の後を継ぐ次期大魔王。自分の国なら多妻でいい国にすればいいだけ!」
「ええー……」
「それはいいな」
冥王は乗り気だ。『賢』聖なのに僕のことになるとまったく賢くないエリィ……がっくり項垂れているとルビアが僕の肩に手を置いてため息を吐く。
「ま、諦めるしかないわ。それか先に結婚してエリィに思い知らせるかね」
「ルビア……」
唯一ちゃんとしているルビアにそう言われて少し安心する。みんなが無茶をしようとしたとき、きっとルビアは止めてくれるに違いない。
結局、冥王という旅の仲間が増えるという事態は変わらないので、改めて挨拶をすることにした。
「それじゃあよろしく頼むよ冥王」
「お前達は特別だ。名前で呼んでいい」
「名前、あるの?」
「私はメディナ。冥王メディナだ」
「うん。よろしく」
握手をすると、少しだけ口の端が笑ったように見えた。戦力としては期待できるし、大魔王の配下だったなら復活の際に役に立つかな?
◆ ◇ ◆
「大所帯になってきましたねえ……姐さん?」
「レオスが成長すれば、あの姿になる……先に手に入れておくべきか……でも、成長しきったところで……ああ、でもあたしはそのころ28歳だわ……それはちょっと遅すぎる……大魔王になるならみんな一緒に……?」
「あ、レオスさん詰んでますよこれ」
はい、一人増えましたよー(棒)
書くのが大変になる……バス子を殺しておけばよかった……
いつも読んでいただきありがとうございます!
【あとがき劇場】
『女の子ばかり……』
これはほら、転ニワシリーズだからね
『ああ、そういう……』




