4人の兄弟
カレフと少女は、目も会わせずにクレハドールの後ろを歩いていた。どうやら少女はこれから向かう家の妹らしいのだ。カレフと少女はまるで孤高の狼ののようだった。深く鑑賞はしないし、クレハドールとの関係性も一切いわなかったし聞かなかった。クレハドールもまるで喧嘩をしているような2人を見て何もいわなかった。
少女の家は、広い緑の目立つ丘の上にあった。都からも離れていて、つく頃にはすっかり夜になっていた。この家は、酪農を生業としているようだ。牛の小屋がいくつもある。
「グリーダ、ミゲル、フォル。私だ。」
戸を叩いてクレハドールはそう言った。戸がゆっくりと開く。中からカレフよりも少し年上に見える金髪のショートカットの綺麗な女性が出て来た。一見、ほっそりとした体つきだが、服から覗かせる腕はがっしりとしている。
「ああ。クレハドールさん・・・ちょうど良かった。ジータが・・・。」
女性がそう言ったが、直ぐに少女を見ると、安心した顔を見せた。そして、次にカレフを見る。
「ああ、この子はカレフ。事情があって・・・暫く置いといてくれないか?。」
クレハドールはカレフの肩に手を置いてそう言った。
「まあ、ここでは何だから、中に入って・・・。」
と、女性は中へ進める。カレフ達3人は、中へ入ってレインコートをとった。さっきまでレインコートのフードに隠れていた少女の姿がはっきりと見える。黒髪の少し癖のある髪の毛だった。それに、青い瞳。吸い込まれそうな程透き通った汚れの知らない瞳だった。
「ミゲルとフォルは寝ていますよ。ミゲルなら起きてくると思いますが。」
そう言いながら、女性は席に座るようカレフ達を促した。
「カレフ・・・君?・・・だっけ。」
女性は台所へ行き、水か何やらを沸かし始めた。カレフは頷いた。
「ミルクで大丈夫?。」
女性は微笑むとそう言った。沸かしているのはミルクのようだ。
「はい。大丈夫です。」
カレフはそう言った。女性はコップを出そうと食器棚を開けた。木で出来た簡素なコップを2つだして振り返る。
「ジータも飲む?。」
女性はそう言った。少女・・・ジータはさっきまでとは違って微笑むと、頷いて女性の方へと向かった。カレフは、母と妹の思い出に浸って台所で作業する2人を見ていた。
暫く経って2人は戻ってきた。コップを持って此方にくる。ジータと女性はカレフとクレハドールの向かい側の席に座った。
「私はグリーダ。宜しく。」
取り敢えず、とでもいう感じに女性、グリーダは言った。
「ジータ・・・。」
ジータもそう言った。素っ気ないが、どこか照れ隠しのようにも見える。
「カレフです。宜しくお願いします。」
カレフは社交辞令とでも云わんばかりに微笑んだ。暫く沈黙が続いた。
「男手がたりなかったからちょうどいいよ。カレフ君。宜しくね。」
グリーダは、カレフの気まずい感情を読みとってか、そう言った。
「ああ。それは良かった。俺も止まっていっていいか?。」
クレハドールはニッと笑ってそう言った。
「もちろん。」
グリーダはそう言う。ジータは特に興味はないようで、ホットミルクの水面を息で吹いて冷ましている。
「ん・・・っだようるせえなあ。」
目を擦って梯子を降りてきた男がそう呟いた。上半身裸で、鍛え抜かれた筋肉が丸見えだった。ウェーブのかかった黒髪を掻きあげるその姿はまさに男前。もしも王族にいたら時の人となること間違いない。
「ミゲル・・・。」
グリーダがそう言って男に近づいた。兄妹とはいえ似ても似つかない彼らはただの夫婦に見える。
「グリーダ・・・。おはよ。」
男はそう言って大きな欠伸をした。
「おはよ。ミゲル。この子は新しい姉弟のカレフ。仲良くしてね。」
柔らかい表情だった。さっきよりもずっと。まるで恋をしているかのよう。カレフは並んでいる3人を見てふと思ったグリーダだけ髪色が違う。
「ここの家、ちょっと特殊でな。グリーダだけ血が繋がってないんだ。」
カレフの横でクレハドールがそう言った。カレフはミルクを飲みながら笑い合う3人を見ていた。
∞*∞
「ん・・・。」
カレフは目を覚ました。うっすらと目を開ける。腰が痛い。久しぶりに寝るベッドは体に堪えたようだ。カレフは暫くぼうっとしていたが、直ぐに起き上がると梯子をつたって下に降りた。
「おはよう。カレフ。早いね。」
何か料理を作っている音と、香ばしいベーコンの匂い。カレフの食欲をそそるには十分だった。ぐううう何てはしたない音が鳴った。
「待ってて、今よそうから。」
笑いを堪えながらグリーダが料理をよそおうとした。
「すみません。」
カレフは苦笑いを浮かべてそう言った。台所の水場で顔を洗おうと水を出す。
「そうだ!。」
朝食をよそおうとした手を止めて、グリーダが振り返る。カレフは水に浸かっていた顔をグリーダの方へと向けた。
「ごめん、カレフ君。私、牛見てくるね。ジータが行ってるけれどあの子にあの量の荷物は運べないもの。」
グリーダがそう言ってエプロンをはずそうとする。カレフが顔を腕で拭きながらこう言った。
「それくらいでしたら俺行きますよ。」
カレフも、迷惑をかけるだけではなく手伝いをしたかった。グリーダは嬉しそうに微笑んで、
「ありがとう。カレフ。」
と言った。カレフは姉が出来たようだった。今まで戦場にいたカレフ。自分にもまだこんな感情があったのかと嬉しい気持ちになる。
カレフは家を出た。まだ空がうすい白色だ。出て直ぐの所にジータがいた。牛の干し草らしきものを持ち上げようとしている。ジータは近づくカレフにも気が付かず干し草を持ち上げた。案の定ジータは転んで頭から干し草に突っ込んでしまった。あまりに綺麗な転び方にカレフは笑いを堪えながらジータを起こしてやった。ジータは自分を起こしたのが誰か気付くと顔を真っ赤にして平然を装った。
「俺も手伝うよ。」
カレフはそう言った。何をすればいい?、と首を傾げる。
「私だけで大丈夫よ。」
強がったジータがそう言った。また干し草を持ち上げようとしてよろけてしまった。カレフはジータを支えるようにジータの腰に手を回した。
∞*∞
「ジータ・・・。これ、置いてきてくれない?。」
グリーダが料理をジータに手渡す。ジータは受けとると机に置いた。結構乱暴な置き方だ。
「ありが・・・。」
お礼を言おうとカレフが口を開くがジータはそっぽを向いた。
「お前・・・ジータを怒らしたのか?」
ミゲルがそう言う。カレフは首を傾げ、
「身に覚えが・・・。」
と言った。ジータの視線が痛い。そしてミゲルもグリーダに同じ用な扱いを受けていた。
「俺、なんかした・・・?。」
ミゲルはそう言う。カレフとミゲルは深いため息を吐いた。