44話 外がない
ツトムを疑うタケルの脳裏に、1つの疑問が浮かぶ。
『でも、なぜツトムは……6人目は、俺の代わりなんかを……?』
その時、タケルはハッと気付く。
『……そうか、6人目もガイコツ先生も、目的は同じなんだ!俺達の恐怖を煽って選択肢を1つに誘導するためだったんだ……。夕暮小学校七不思議の7番目を、俺達に呼び出させる。それが目的だ……!』
タケルの記憶では、夕暮小学校七不思議の7番目として呼び出されたのは、ヤマトの傍に浮かぶ赤マント。今の彼女の存在は、まだ人間に認識されるような状態ではない。彼女の姿が見えているのはヤマトとタケルのみ。しかし、彼女は7番目として召喚される事で実体化し、そこに存在する都市伝説となる。さらに実体化した赤マントは、名前のない霊能師の依り代として、彼女に憑依されてしまうのだ。
『……もし仮に、それが全て、名前のない霊能師が彼女の依り代を作る為に書いたシナリオだったとしたら?7番目を呼び出す前にこの夜の学校を抜け出す事が出来れば……、記憶を奪われる事もなく、結城ヤマトも一緒に元の世界に戻れるんじゃねーのか?』
タケルの脳裏にそんな考えが浮かぶ。そんな方法があるんじゃないかと、タケルは思考を巡らす。
『……ん?この学校から出れば死に顔アルバムの呪いが解けるなら、出れば良いじゃねーか!そんで、呪いを解いた後、木目を……5年3組の黒板の目を呼び出せば元の学校に戻れるぞっ!!』
と、その時、ガイコツ先生の言葉がタケルの耳に入ってきた。
「ほら、扉の外だ、御堂…。」
『え?俺の名前を呼んでる?』
タケルは急な事で、キョトンとしてガイコツ先生の浮かぶガラス戸のほうを見る事しか出来ない。
「聞いてるのか御堂?窓の外を見てみろと言ってるんだ御堂!!」
「!!」
タケルの中に、もう一つの記憶が浮かぶ。
“この夜の学校には、外は存在しない……。”
タケルは慌ててガラス戸に向かって走り出す。
ガイコツ先生はタケルに外を見せるため姿を消し、ガラス戸を透明にする。
バンッ!
タケルは、走る勢いのままにガラス戸にぶつかるように張り付き、外を眺める。
「!!」
驚くタケル。
「……どうしたんだ?タケル……?」
ヤマトが心配してタケルに声をかけてくる。
タケルは恐る恐る答える。
「外が……、ないんだ……。」
タケルの見た外の風景は、タケルが……タケル達、夕暮小学校児童達が毎日見ているはずの景色とはかけ離れていた。
そこは暗黒。赤坊主のいた真っ暗闇とも違う。あれは真っ暗だったが、気配はあった。見えないだけで、そこにはちゃんと土や空気があるのがわかった。しかし、ガラス戸の向こうは違った。月や星もない。周りにあるはずの建物もない。闇の中に学校だけが浮かんでいる。
…………外は、無だった。
「……いや、違う。そんな訳ねーっ!」
タケルは叫ぶ。
「ど、どうしたんだタケル?」
ヤマトは、驚きと心配が半々といった感じでタケルに声をかける。
「俺は見たんだ!理科準備室で!それより前にも、新校舎3階と旧校舎3階を結ぶ渡り廊下でもっ!!確かに俺は見た!この学校に外はあったんだよっ!!」
タケルはそう言った。そして、辺りに向かって叫ぶ。
「おいっ!ガイコツ先生っ!!どっかで見てんだろ!?この景色はお前の幻だっ!!そうなんだろ?」
「え?ま、待ってよタケル。せっかく消えてくれたのに、また戻って来たらどうすんのさ……」
ツトムがビクビクしながらタケルに抗議する。
しかし、タケルはそんな事は御構い無しに続ける。
「お前の企みはわかってんだっ!俺達を恐怖で誘導して夕暮小学校七不思議の7番目を呼び出させるつもりなんだろ?この6人目と一瞬によぉっ!!」
タケルはツトムを指差す。
「え?え?6人目?何?」
訳が分からないといった風に慌てふためくツトム。
「……計画通りに事が進むか、どこかで見てるはずなんだっ!!そうなんだろ、ガイコツ先生っ!!でもな、そう上手くいくかよっ!!俺達は外に出るぜっ!!こんな幻どうって事ねーんだからなっ!!」
タケルはやや強めにガラス戸をドーンッと叩いた。
「……ちょちょちょ、ちょっと待て御堂!?」
急に慌てた声が響き、再びガラス戸に姿を現わすガイコツ先生。
「うわっ!」
驚くツトム。
「おまえ、幻だとかなんとか……、な、何を言ってる?」
困惑した表情のガイコツ先生が言った。骨に感情が現れる訳ないのだが……。
「今更何言ってやがる、ガイコツ先生様ようっ!お前じゃないってのか?俺達を絶望させるために、こんな幻をガラス戸全体に映しやがって!!」
タケルはガイコツ先生に怒鳴る。
「え?」
ガイコツ先生はタケルの態度にやや引き気味に言った。
その様子に、タケルは少し頭を冷やされる。
「……え?お前の幻じゃないのか?」
「……いや、確かに私の目的は、お前達に夕暮小学校七不思議の7番目を呼び出させる事だった。しかし、外に関しては私は何もしていない。この夜の学校に外はないんだ。名前のない霊能師はそう言っていた。……違う……のか?」
逆に質問で返してくるガイコツ先生。
考え込むタケル。
「……もし仮にお前が嘘をついてないなら、外の事は知らされてない……って事なのか?」
「な、なに?」
「俺の見間違いなんて事は99パーセントありえねー。けど……」
ここで考えていても仕方がないと思ったタケルは、行動に移すことにする。
「……ちょっと待ってろ。俺が外を見て来る!」
そう言ったタケルが、ドサッと倒れる。
「え?え?」
それを見たツトムが更にパニクる。
「……わざとらしいぜ。見えてんだろ?6人目!!」
その声は倒れたタケルの上から聞こえた。それは、魂のフックを外し、再び幽体離脱状態に戻ったタケルの声だった。
その時……。
「……出来るか赤マント?」
声が聞こえ、ツトムはその場に崩れる。
「え!?」
驚くタケルの目に映ったのは、ツトムの背後から現れた赤マント。彼女の手には包丁が握られていた……。
気付くと、タケシ、じゅんぺい、カゲルも目を閉じている。
それを見たタケルは、怒りに任せて怒鳴り声を上げた。
「赤マント、結城ヤマト、貴様ら何しやがったーーーーっ!!」




