43話 誰が6人目だ?
どうも読者のみなさん。俺は御堂タケル。
理科準備室での戦いの後、理科室に人体模型を戻してから廊下に出た俺は、廊下の向こうにアイツら5人を発見した。
アイツらってのは、この“一年前の肝試し”のメンバー。
まずは、肝試し当時の5年の時も、そして6年になってからも、リーダー的存在のタケシ。
一年後の現在では、幽体離脱道場にて俺の体を見守ってくれているであろう、じゅんぺい。
これから13階段の都市伝説を語る予定のツトム。
タケシが紫鏡に襲われた時、なぜか現れ、タケシを助けたカゲル。
……ん?紫鏡……?
この記憶は誰の記憶だ?
カゲルが付いて来ていたのを俺が知ったのは、確かこの時が初めてのはず。俺の記憶じゃないのは確かだ。
あの能力が発動した時、ロシアの民芸品(マトリョーシカの事)は学校全体を飲み込むほどに巨大になっていた。
多分、コイツらの中の誰かの記憶が流れ込んだんだろうな……。
そして、赤マントを連れた、結城ヤマト。
俺は、このヤマトが赤坊主と名乗った少年と同一人物だと確信している。姿がぼやけてるんで確認は出来ないけど……。
ま、確認出来ない事が2人の共通点で、同一人物説を確信へと導いているんだけどな。
……とりあえず、俺はまず初めに、赤マントが見えないフリをした……。
「タケルッ!大丈夫だったかい?」
職員室側からこちらに向かって歩きながら、ヤマトが声をかけて来る。
俺はボロを出さないようとりあえず、
「おう。」
とだけ答えた。
これから俺たちは階段を降りて下駄箱へ向かう。この先、俺たちが元の学校に戻るまでの筋道は、思い出した記憶を繋ぎ合わせて何となくだがわかる。
まず、タケシ・じゅんぺい・カゲルが、死に顔アルバムの呪いを発症。
そして、下駄箱でのガイコツ先生とのやり取り。
からの、夕暮小学校七不思議の7番目を呼び出す儀式。
最後は名前のない霊能師との戦い。
俺たちは、結城ヤマトの犠牲のおかげで元の学校に戻ることが出来る……といった感じだ。
……でも、大まかなあらすじがわかったとしても、コイツらとどんな会話をしただとかの細かい部分が、全くと言って良いほど思い出せない……。
やっぱり、6人目から記憶を取り戻さなきゃ完全には思い出せないんだろう。
俺は、5年の俺ならこうするだろうという考えの下、言葉を選ばなければいけない。
ま、この体の中には、気絶してるとはいえ、5年の俺も存在するんだ。きっと何とかなるだろう!
そして、俺達は、渡り廊下前の廊下で合流する。後ろには階段がある。
上れば13階段がいるなぁ……。
……で、こうしてみんなが集まった時、5年の俺ならどう声をかける?
とりあえず……
「……おい、じゅんぺい!どうよ。取ってきたぜ。人体模型の内臓!」
こういう時はとりあえずじゅんぺいだ。俺は、ジンタンに変身する人体模型の胃を見せびらかす様に掲げ、じゅんぺいに話を振った。
この時の俺は、『まぁ、なんとかなるだろう』と高を括っていたんだ……。
そして、なんとかならない事態に陥ってしまうまで、高は括られる事になる……。
しばらく歩いてタケル達は、夕暮小学校正面玄関の下駄箱に到着した。
タケルはその間も何となく場をやり過ごしていた。もちろん五年のタケルとして。
到着して早々にタケシ、じゅんぺい、カゲルの3人が、死に顔アルバムの呪いで次々と倒れる。
放っておけば彼らに待つのは死の運命。
しかしタケルは、彼らが助かる事を知っている。変に動くほうが未来を捻じ曲げかねない。
『心苦しいけど、今は見守るしかないな……。』
タケルは心で呟いた。
この過去をタケルの知る未来に繋げるためには、夜の学校で起こった出来事をなるべく変える事なく、一年前のタケルを元の世界に戻さなければならないのだ。
そして、それと並行してもう一つ、タケルには、やらなければいけない事があった。
タケル達から結城ヤマトの記憶を奪った、6人目という都市伝説を見つけ、記憶を取り戻す事。
『そして、そいつはこの5人の中にいるんだ……!』
タケルは、5人の顔を順番に確認する。
……一番怪しいのは、途中から現れたカゲル。カゲルが来た事でタケル達は6人になった。つまり、6人目というわけだ。
しかし、カゲルが現れたのは、タケルと合流する前。その考えで言うとタケルが6人目になるのかも知れないという事は気にしないでおこう……。
ただ、カゲルは死に顔アルバムの呪いを受けている。6人目だということを隠すためだったとしても、死ぬ可能性もある呪いをわざわざ受けるだろうか……?
タケルは、カゲル、タケシ、じゅんぺいの苦しそうな顔を見つめる。
「コイツらは無いか……。」
なら、呪いを受けていないツトムかヤマトが怪しいのだろうか?
しかし、ヤマトはこの後、自らを犠牲にタケル達を助けてくれる。そんな奴が6人目とは考えにくい。
という事は……。
そうこう考えているうちにも、事態は動いている。
ツトムが玄関のガラス戸を開けに行ったようだ。しかし、6つあるガラス戸は1つとしてピクリとも動かず……。
ハハハハハ……
不気味な笑い声。そして、玄関の全てのガラス戸が1つの液晶画面のようになって、大きな骸骨の顔を映し出す。
どことなく桜田先生を思わせる骨格。それは、死に顔アルバムが職員室でヤマト達に見せた幻。通称ガイコツ先生の顔だった。
「う、うわぁっ!」
驚いて尻もちをつくツトム。
「ガイコツ先生……。」
タケルは、無意識にそう呟いていた。
「そうだよ。私だよ。」
ガイコツ先生はそう言ってニヤリと笑う。
ツトムは、尻もちのままの体勢で器用に手足を動かして後退し、下駄箱のタケル達の所に帰って来る。
「び、ビックリして死ぬ所だった……。」
そう言うツトムを見て、タケルは違和感を覚える。
『……ツトムって率先して何かをやる奴じゃないよな。ビビりだし……。いつもと違う事をするって事はやっぱりツトムが……?』
タケルはツトムを怪しむ。そしてその後、急に何かに気づいたように声を上げる。
「……え!?」
混乱したように頭を抱えるタケル。
「あれ?ガラス戸を開けに行ったのって、俺……じゃなかったっけ!?」
それは、急に起こった記憶の回帰だった。しかも、そのタケルの姿は見られている。
その場にいる全員……呪いを受けた3人も、ガイコツ先生も含めた全員が、タケルを怪訝そうな目で見つめている。
「あ、いや……ごめん。何でもない……。」
それに気付いたタケルは、恥ずかしそうに下を向いた。が、下を向いたその表情は真剣そのものだった。
『……俺の一年前の記憶は曖昧で、それが本当に正しい記憶なのかはわからない。けど、今戻った記憶の中でガラス戸に向かったのは俺だった……。何の目的でツトムが俺の代わりをしたのかはわからねー。けど、これが何かの計画だったとしたら……?もしそうなら、ツトムが6人目の可能は高くなるよな……。』
怪しめば怪しむ程、ツトムが6人目のような気がしてくる……。
「な、何なのこれ……?」
ツトムがガイコツ先生にビビって、か細い声を出す。タケルには、それもわざとらしく感じる。
「大丈夫。これは幻だよ。」
ヤマトは、傍に浮かぶ赤マントの助言を受けて、ツトムに、そして皆に聞こえるように言った。
タケルは思う。
『ここからガイコツ先生の語りが始まる……。』
タケルは、ガイコツ先生がただ恐怖をあおるために現れた事を知っている。もちろんヤツがこれから話す内容も。
その内容とは、ここが夜の学校という異世界だと言う事。そして、学校を出れば呪いは解けるが、この世界には学校の外は存在しないため、外に出るのは不可能だという事。
『落ち着け俺。ガイコツ先生の話は聞かなくても知ってる。だから、今のうちにツトムが6人目かどうか判断するんだ。ガイコツ先生の話が終わる前に……。』
タケルは思考を巡らす。そしてガイコツ先生は、タケルの記憶に大体沿った内容を語っていく……。
『はっ!そうだ!ツトムは出席番号6番だ!!それに……確か、夕暮霊園で6枚目の帽子を持って帰って来たのもツトムだ!』
タケルは確信し、それを言葉にする。
「ツトムが、6人目だ……!」




