40話 コーカサスオオカブトの標本
「……女都市伝説が、消化される直前に言ってたんだよ!脳を外に捨てろってなぁ!!あの時のアイツは99パーセント吸収され、ヤツに同化してた!最後に俺にヤツから奪った情報を託したんだろうよっ!」
ジンタンは、タケルにそう語った。
「花子……。」
花子があの後吸収されたと聞かされ落ち込むタケル。しかし、再びマトリョーシカを発動させるわけにはいかない。
「大丈夫だ!消化される前に……いや、取り込まれる前に戻って必ず助けてやるからっ!!」
タケルは自分に言い聞かせるように言った。いや、これは自分を奮い立たせるための誓いだった。
「ヤ、ヤバいぃ……。脳をやられちまうぅ…………なんてな。キシシィッ!確かに俺の脳が司令塔として他の肉片達を動かしてるってのは正解だぁ!だが、その脳がどこにあるか?お前達に分かるかぁ?わかんねぇだろうなぁっ!!」
小芝居の後、ホルマリン漬けの殺人鬼の唇は、嬉々として叫ぶ。すると、それを合図に、再び床にばら撒かれた肉片達が一斉に動き出す。
「クソッ!この小さな体じゃあ不利かっ!!」
小さな人体模型は、そう言いつつも身構える。
しかし、肉片達は、彼を素通りしてタケルへと襲いかかった。
「次はお前からだぁ!人間んんっ!!」
肉片の先頭にいた唇が叫ぶ。
「うわぁぁっ!」
タケルは悲鳴を上げて頭を庇う。その時!
「ワシを舐めるなぁっ!!」
そう叫んだ小さな人体模型は、スウと息を吸い込み始める。
ドサ……ドサ……と再び床に落ちる肉片。
「負のエネルギーを喰らう能力を忘れるな!殺人鬼がぁっ!!しかし、腹に入る負のエネルギーが少な過ぎる……。やはり、司令塔と言った脳は、どこか安全な場所に隠れてやがるなぁ……。」
小さな人体模型は悔しそうに言った。その時、タケルが口を開く。
「俺、分かるかもしれない。」
「「えっ!」」
同時に驚く小さな人体模型と床に落ちたホルマリン漬けの殺人鬼の唇。
その一瞬の隙に、タケルは幽体離脱中の特性を利用して、素早く空中を移動し、気絶している一年前のタケルへと向かう。
「一年前、俺はこの理科準備室の中にあったある物を服の中に忍ばせたんだ!いつもの癖で、大切な物はズボンの背中側に挟んでるはずっ!!」
タケルは一年前の自分の元にたどり着くと、腰の辺りをまさぐる。
「なっ!や、やめろぉっ!!」
明らかに慌てた声でホルマリン漬けの殺人鬼の唇が叫ぶ。
「あった!」
タケルがそこから取り出したのは、コーカサスオオカブトの標本。それは、一年前、タケルが理科準備室に入ってすぐにくすねていたものだった。ホルマリン漬けじゃなかった為、気にも留めていなかったが、今一度良く良く見ると、全体的に脳のシワが刻まれ、硬いはずの外骨格はプリンのように柔らかく見えた。それはコーカサスオオカブトの姿に擬態した、ホルマリン漬けの殺人鬼の脳だった。
「外に投げろタケルーッ!!」
叫ぶジンタン。
タケルは間髪入れず窓へと飛ぶ。
そして窓を開けて…………?
「開かないっ!!」
困惑するタケル。再びジンタンが叫ぶ。
「バカヤローッ!幽体離脱中だろうがっ!脳味噌共々抜けやがれーーーーーーーーっ!!」
「や、やめろぉぉぉーーっ!!」
床からの声。それをかき消すタケルの叫び。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!」
タケルは、手に持った標本の箱ごと窓をすり抜け、その箱ごとコーカサスオオカブトに擬態したホルマリン漬けの殺人鬼の脳を全力で投げ捨てた!!
弧を描いて空を飛ぶ箱。その向かう先には、例の光源……空飛ぶ焼却炉が。
すると、空飛ぶ焼却炉の中で煌煌と燃える地獄の業火から、箱に向けて焼けただれた手が伸びる。
焼けただれた手は、ホルマリン漬けの殺人鬼の脳が入った箱を掴むと地獄の業火へと引きずり込んだ。
バタンッ
焼却炉の扉が閉まる音。
「な、何だよアレ!?」
窓の外から戻って来たタケルは、ジンタンに答えを求めるように言った。
「そうか……お前もわからんのか……
。もしかしたらお前の能力じゃないかと微かに希望を持っていたんだがな。」
ジンタンは窓越しに空飛ぶ焼却炉を睨みつけながら、
「ま、仲間じゃなけりゃ敵……だろうな。」
と続けた。
「やっぱり……。」
タケルは同意を示す。
空飛ぶ焼却炉は、こちらに気付き、校舎を壊す勢いで真っ直ぐタケル達の方へ突っ込んで来た!!




