29話 殺人鬼を導いた者
タケル絶対絶命のピーーンチ!
ドッペルゲンガーと顔を合わせると死ぬ。
そんな都市伝説のせいで、タケルは首の無い男に襲われている一年前の自分自身を、助けることはおろか見る事すら出来ない。しかし、助けなければ今の自分も消滅してしまう。逃げる事は許されない……。
タケルは思考を巡らせる。
「な、何か良い方法はないか……?」
タケルは13階段……この場合はあの動物の事ではなく場所としての意味……での事を回想する。
「確か、あの時花子は顔を見るなって……。」
極論、顔を見なければ大丈夫だろうという考えへと辿り着く。
「……なら、顔を見ないで自分をうつ伏せに出来る方法があれば……?」
まず1番に浮かんだのは、首から上のない男……多分、十中八九ホルマリン漬けの殺人鬼だろう……にうつ伏せにさせる。
ただ、普通に頼んだとしてもアイツが話を聞く訳はない。何かとんちの効いた方法でも思いつけば……。
「……ダメだっ!思いつかねーっ!」
そらぁそうだ。世の中、上手い具合にアイデアがゴロゴロ転がってるなんて滅多にない事だし、絶対絶命のピンチに冷静になれる人間なんて早々いるもんか!!
「……おいおい、何やってんだぁ?お前の友達か何かなんだろぅ?早く助けないと取り込んじまうぜぃ!」
タケルは声のした方を見る。
すると、先ほどはビンに入っていたはずの口……鼻の下から首までの部分が直に棚に乗っている。
「うわっ!」
驚くタケル。それだけでもかなり恐ろしく、かなり気持ち悪い。
それなのに、輪をかけて恐ろしく気持ち悪いことにその上の方の断面から、血管や筋肉の繊維のようなものが四方八方に伸びているのだ。
ズリズリ……ズリズリ…………。
その伸びたものがあらゆる場所から何かを引っ張って来る……。
「!!!!」
怖い……。めちゃくちゃ恐ろしい……。タケルは、自分が漏らしてしまったんじゃないかと思うほどビビっている。実際、体は現代に置いてあるから漏らすことはないのだが。
しかし、タケルは目を背ける事が出来ない。
やがて血管や筋肉の繊維は目や鼻、耳、髪の毛などを連れて戻って来る。
戻って来た顔の一部達は各々の持ち場にたどり着き修復されていく……。
数秒後、棚の上には生首が乗っていた。タケルも見た事のある長髪の……ホルマリン漬けの殺人鬼のそれだった。
「……あーあ。あのババアにもらった治癒力が底をついちまった。そのガキ取り込まなきゃ首が繋がらねぇわ。キシシシ……。」
長髪の生首が喋っている。恐ろしい。
しかし、タケルはその生首の言葉が妙に引っかかる。ババアという言葉が……。
「……ババ……ア?ま、まさかそれって……名前のない霊能師の事かよ?」
タケルは思う。
まさか、コイツも名前のない霊能師と繋がってるのか?
ホルマリン漬けの殺人鬼の答えを待つタケル。
「……え?うーん。えーと、確かそんな事言ってたような言ってなかったような……。っつーか、そんな事いちいち覚えてねぇわっ!ただ、体を失い、脳みそだけで彷徨っていた俺にあのババアは言ったのよぅ。貴方の体は全て集めておいたわよってな。」
しかし、その答えだけではババアが名前のない霊能師だと断定は出来ない。
「脳みそだけで彷徨っていたってのは……?」
「なんだよ!それも説明しなきゃなんねぇのか。……108個にバラバラにされた俺の体はホルマリン漬けにされ、これまたバラバラに全国の小学校に配られたのよ。二度と復活しないようにってなぁ。ま、俺の意思は脳みそに宿ってたからぁ……置かれた小学校のホルマリン漬けのビンから抜け出して、他の体を探してたんだけどよぅ。ある日、あのババアがやって来て言いやがった。あの子供について行けば、俺の体のある夜の学校に連れて行ってくれるってよぅ。」
「子供って?」
タケルは自分の事かもしれないと不安になり、聞き返す。
「えーと、夜の学校に来るまではそいつの名前は忘れちゃいけねーって思って覚えてたんだけどなぁ。」
ホルマリン漬けの殺人鬼の、長髪から少し覗く表情は困ったようにくしゃっとしている。
「………そうだ!あの病院の名前だよ!何とか記念病院っ!!」
「結城……記念病院?」
「そうそう!結城!結城ぃ…………ヤマトだ!そいつの背中に取り付いて俺はここに来たんだよ。」
「結城ヤマトって……。」
タケルはその名前を口に出す。
すると、頭の中で扉が開く……!!
タケルはテーブルに座っている。
『ここはどこだ?』
声は出ない。フワフワした感覚。まるで夢だとわかっている夢のような……。
どうやらここは喫茶店のようだ。
その時、テーブルに何かが置かれる。運んで来たのは女性の店員さん。テーブルに置かれたのはショートケーキとミックスジュースだった……。




