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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
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27話 タケル飛ぶ

『え?え?じゃ、じゃあ今の俺ってブラックホールに吸い込まれた時よりもヤバい状況なんじゃ……!?』



 タケルは、自分が消えた理由を聞いて気が動転する。

 中性的な声は続ける。


「ま、状況的にはそうなるね。でも、そうは言っても君は今こうして僕と話している。君がまだ完全には消えていない証拠だよ、タケル。君の頭上の糸も切れる一歩手前……辛うじて繊維一本で繋がってるような状態だけど、吹けば消えるくらいの一縷の望みはあるって事さ。」


『ふ、吹けば消えるって……。』


 タケルは、コイツ怖い事をサラッと言うな……と思う。


「ははっ!全部聞こえてるよ。」


『あっ!』


 そうだった。今は心の声で話してるんだった。


「でも心配しなくて良いよタケル。なぜなら……君の前には僕がいるから。」


 その一縷の望みは僕だよとでも言うかのように自信に満ちた無邪気な声。


『!?』


 タケルは、温かい風に体を包まれるような感覚を覚える。


「さぁ、さっきと同じ場所に戻すよ。今度は上手くやるんだ。君ならきっと大丈夫!」


 再びあの押し戻される感覚がタケルを襲う。


『あっ!もしかしてさっきと同じ……?』


「その通り。君は時間を逆流する。」


『さ、サンキューな!あ、えーと、名前……まだ聞いて……』


「バイバイ、タケル。」


 タケルが言葉を言い終えるのを待たずに、時間の逆波は彼を飲み込み押し戻していった……。



 ……タケルのいなくなった暗闇で、中性的な声の主が口を開く。


「……君の五感を封じておいて良かったよタケル。ま、魂の状態だから擬似的な五感か。……何にせよこんな景色、タケルには見せられないからね。」


 その瞬間、暗闇は色を取り戻す。

 破壊された建物、車、ビル、高架上にある駅を突き破り、へしゃげた頭部を出した電車。

 ひび割れたアスファルトの隙間から底のない奈落が覗く。

 そして、それらを塗りつぶすような赤、赤、赤……。

 おびただしい量の血液の赤……。

 血の海の中には、瓦礫と共に累々と積み重なる死体の山……。

 それは、彼が見ている景色だった……。


「もう一度会えるかな?タケル……。」


 中性的な声でそう言ったのは小学校高学年くらいの少年。周りの景色同様に身体中血にまみれている。それが彼自身の血なのか、他の誰かの血なのか、はたまたその両方なのかはわからない……。

 彼は急に辛そうに眉間にシワを寄せると続けてこう言った。


「……僕が僕でいられるうちに、もう一度……。」


 少年は、震える左手を右手で押さえつけるように強く握りながら言った……。



 一方、タケルは……?


『え?これはいつだ??』


 心で呟くタケル。心で話す癖がつきかけているのもあるが、タケルの目前で声を出せない程の緊迫した状況が展開されていたからでもあった。

 既に例の女子トイレは隅々まで赤い文字に覆われ、ホルマリン漬けの殺人鬼の手元には消しゴムの都市伝説の能力、ブラックホールが拡大しつつある!


「え?これって1回目の?しかも何でこんなギリギリのところにっ!!」


 タケルは叫ぶ。そう!この後タケルはブラックホールに吸い込まれ暗黒の世界へと旅立ったのだ。


「何言ってるのっ!そこにいたら邪魔よっ!」


 ドンッ!


 タケルは後ろから右側に押し避けられる。


「え?」


 タケルを押し避けたのは花子だった。


「トイレの花子さんは、元々は子供を便器に引きずり込む都市伝説!左から3番目のトイレの力を最大限に使って、その吸引力でブラックホールの吸引力を相殺させるわっ!!」


「え?」


 タケルは冗談かと思ったが、花子の顔は真剣そのものだった。


「危ないから、ホルマリン漬けの殺人鬼とトイレの間には立たないでねタケルッ!!」


「は、はいっ!」


 花子の勢いに飲まれて、言われた通り端に避けるタケル。


「……キシシシ。便器とブラックホールが勝負になるかよ。」


 ゲラゲラゲラ……


 ホルマリン漬けの殺人鬼は、ツボに入ったようで笑い転げる。

 笑い転げている間、ブラックホールは彼の手のあった位置に居座り続けているが、 手をかざしていた時より少し小さくなったように感じる。


「……私の力がブラックホールに通用するか試してみましょうか!!」


 花子が叫ぶ。

 すると、左から3番目のトイレから生暖かい風がヌラリと吹いた。

 かと思った時には風向きは逆風になり、便器の中へと吸い込まれる勢いのある流れへと変わる!


「ん?」


 笑い転げていたホルマリン漬けの殺人鬼は笑うのをやめて立ち上がる。


「へー。なかなかやるもんだね。」


 そう言ってブラックホールへ手をかざす。


 すると、ブラックホールは再び先程の大きさを取り戻す。


「……でも、それが全力だとしたらブラックホールがその吸引力を超えるのも時間の問題だな。」


 ホルマリン漬けの殺人鬼の口元がニヤリと歪む。途端ブラックホールがジワジワと拡大を始めた……。


「くっ!」


 花子の悔しそうな吐息が漏れる。

 タケルはそんな2人のやり取りを見守る事しか出来ずにいた。


「くそ!俺は何も出来ねーのか?花子……。」


 マトリョーシカは使えない。一度ブラックホールに吸い込まれている恐怖もあり、足がすくむ。

 そんな時、花子が話し始める。


「……ブラックホールと私の力は今、均衡を保ってるわ。でもそれが破られるのも時間の問題よ。だからね、タケル……」


「え?」


 それはタケルに対しての言葉だったようだ。


「……鏡を使って一年前に飛んで!!」


 花子は言った。顔はホルマリン漬けの殺人鬼の方を向いている。


「鏡?でも鏡は……」


 タケルは鏡を見る。スペアの鏡は入り口側。ホルマリン漬けの殺人鬼のいる側だ。

 あそこに行くのは不可能だと落胆する。

 すると、タケルの心に気づき、花子はこう付け加える。


「……あのスペアの鏡の力は、全て鏡のキーホルダーに移してあるわっ!そのキーホルダーで一年前に飛べるのよっ!さぁ鏡の部分に手をっ!」


「わ、わかった!!」


 タケルは鏡のキーホルダーを取り出すと鏡の部分に手を触れる。


「……花子!必ず元の世界で花子の鏡を復活させるっ!!それまで生き残れよっ!!」


「……え?ええ、わかったわ!!」


 花子は、タケルが一年前に飛ぶように念じる。

 すると、タケルは鏡のキーホルダーの中に吸い込まれていった……。


「……顔に疲労が見えるなぁ、トイレの花子さんよぅ?」


 ホルマリン漬けの殺人鬼が嫌味を言う。


「まぁね。一度に2つの力を使うのは堪えるわ……。でも、花子の鏡の復活の事ってタケルにどこまで話したんだったかしら……?」


 花子の頭に疑問が浮かぶ。


「何だ?」


 微かな変化を気にして声をかけて来るホルマリン漬けの殺人鬼。


「……何でもないわ。」


 と冷たくあしらう花子。そして、


「さぁ、タケルが花子の鏡を復活させるまで、何としても生き残ってやるわよっ!!」


 そう言って、花子は不敵に笑うのだった……。



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