25話 真っ暗闇
「あーあ。彼女の言う事をちゃんと聞かないからバッドエンドになるんだよタケル……。」
タケルの耳にそんな声が聞こえる。
女性の声?いや、変声期前の少年のような中性的な声だった。
タケルは目を凝らすが何も見えない。真っ暗闇だ……。
『俺は死んだのか?』
声を出そうと思ったのに、声は出なかった。
「……まあ当たらずとも遠からずだね。」
答えが返ってくる。先程の声だ。
『……俺は……まだ死ねない!!』
「そんなこと言っても……ねぇ?」
良く分からないが、この声はタケルの心の声を聞いて会話をしてくれているようだ。
『なぁ、お前が誰だかわかんねーけどよ。話が出来てるって事は、俺はまだ存在してるって事……だよな?』
「まぁ、辛うじて……ね。」
『なら知らないか?あの場所へ戻る方法を!』
「……」
沈黙……。
真っ暗な中での無音というのは、自分の存在すら疑ってしまうほどの不安を与えてくる。
『なぁって!!』
我慢しきれず心の声を荒げる。
「……仕方がないなぁ。今回は僕が協力してあげるとするか。」
その声はいたずらっ子のように無邪気に言った。
『えっ?協力って……』
「僕が君をさっきの場所に戻す。」
『で、出来るのかっ!』
「まぁ……ね。」
『良かったーー。助かるぜっ!サンキュ!」
「ただし、今度は彼女の話をちゃんと聞く事!彼女には彼女の考えがあるんだ!そして、そっちのほうが君がマトリョーシカを使うよりも断然生存率が高い。」
『お前、何か知ってるのか?』
「ああ。僕は何でも知っている。」
本当なのか冗談なのか?
『何だそれ?ってか、お前何もんだ?』
タケルは質問する。と、声は急にタケルを突き放す。
「……はいはい。話はそこまで!早く戻りな!!」
『え?えーーーーーーーーーーーーっ!!』
タケルは何か強い力によって押し戻されるような感覚を覚える。
いや、実際に押し戻される。
タケルは吸い込まれだはずのブラックホールから霧のような状態で吐き出され、徐々に姿を取り戻す。更にタケルの周りの風景は、タケルも含めて映像を逆再生するかのように時間を押し戻されていった……。
「待ってタケルッ!あなたは行って!!」
喉から絞り出すように、タケルに向かって叫ぶ花子。
目まぐるしく風景が逆再生された事で、タケルは今、自分がどこにいるかわからなくなる。
「…………。」
何も答えられない。
「俺は構わないよ。……2対1でも。いや、2対108かな?俺の中の107体も入れたらば……キヒヒヒヒヒヒヒ!」
ホルマリン漬けの殺人鬼の奇妙な笑い声。
「……時間が押し戻された?でも、こんな場面あったっけな……?」
タケルは心の声を口に出してしまう。
「「え?」」
花子とホルマリン漬けの殺人鬼の両方から疑問符が投げつけられる。
「いや……。何でもない。」
タケルは誤魔化した。
『時間が押し戻されたのを認識してるのは、どうやら俺だけみたいだな。……取り敢えず花子の話を聞かないと。赤い文字の能力を使われる前に……!』
タケルは、今度は慎重に心で呟いた。
『でも、どうする?花子と2人で話をするには……?』
タケルは考える。そして……。
「なぁ、ホルマリン漬けの殺人鬼。花子と2人で話をさせてくれないか?」
タケルはそのままのストレートな直球を投げた。
「え?何でそんな事させなきゃならねぇ?」
ホルマリン漬けの殺人鬼は、意味がわからないと言いたげな顔で投げ返す。至極当然の返答だ。
「いや、あんたはどうせ、俺ら2人共食っちまう予定なんだろ?なら、順番くらいは俺たちに決めさせてくれても良いんじゃねぇ?どっちが先に食われるかのさ。」
タケルは言った。その言葉に、ホルマリン漬けの殺人鬼は少し悩む素ぶりを見せる。そして暫く後、
「ま、いいか。」
と言った。
タケルと花子はホルマリン漬けの殺人鬼に、
「変な真似すんじゃねーぞ!」
と釘を刺された後、トイレの奥のほうへと2人で向かった……。
タケルはホルマリン漬けの殺人鬼の様子を伺いつつ、開口一番こう言った。
「……で、花子の作戦ってなんだよ?」




