21話 能力マトリョーシカ
「まず始めに……タケル!あなたに言っておかないといけない事があるわっ!」
再開を喜ぶのも束の間、花子が唐突に言った。
「な、なんだよいきなり……。」
タケルの表情には不安しかない。
「さっきのタケルの能力の事よ。あの能力は危険だわ。」
「……さっき、ヤマトの意識が……とか何とか言ってたヤツだよな?俺にはさっぱりわかんねーんだけど…………ごめん……。」
花子の真剣な表情に気圧されて、段々と申し訳ない気持ちになってきたタケル。ついつい謝ってしまう。
「私も、アレが自覚があって使用した能力じゃないのはわかってるわ。あの能力はタケルの魂の量に関係している。あなたの魂は普通の人よりも遥かに多いのよ。異常なほどにね。」
「い、異常って……」
「悪い意味じゃないわ……」と言ってくれるのを期待したが、それは無かった。花子は更に続ける。
「……魂が肉体の中にあった時は、その肉体以上に大きくなる事は無かった。でも、幽体離脱によって解き放たれたタケルの魂は成長し、どんどん膨れ上がった。あの時のあなたの魂は、ヤマトを飲み込むどころか旧校舎を全て飲み込むほどの巨大さだったわ。」
それを聞いたタケルは何か思い出したように口を開く。
「……そう言えば、気のせいだと思ってたんだけど、旧校舎を見下ろしてたような…?周りには何もなくて、真っ暗で……。でも1つだけ明るい……月?だったんかな?あれは?」
タケルの言葉には、花子にも意味がわからない部分もあった。が、あの時のタケルの意識はやっぱり外側のマトリョーシカに移っていたんだ……という事だけはわかった。
「とりあえず……あの時、ヤマトは巨大なタケルの魂の中に取り込まれてしまっていた。それは、常にタケルの事を語り続ける空間の中に一人放置されたようなもの。息を吸うようにタケルの意識がヤマトの中へと流れ込み、ヤマトはタケルの意識にシンクロしていった。あの時、ヤマトはすでにタケルの意識に沿って行動し始めていたわ。彼の意識が完全に消えてしまうのも時間の問題だったのよ。だから私はタケルの意識を元の魂に引き戻し、こっちへ連れて来たの。」
「……それって大変な事なのか?」
いまいち話の飲み込めないタケル。その態度を見た花子は、
「当たり前じゃないっ!もしタケルがその能力を使って100パーセントシンクロしてしまえば、その人間はタケルにとって都合の良い操り人形へと変わってしまうのよ。あなたは知らないうちにヤマトを……親友を操り人形に変えてしまう所だったのよ!」
凄い剣幕でタケルに言葉をぶつけた。
「操り人形……」
怖くなってくるタケル。
「そうよ。それにね、もし相手がタケルより強い精神力の持ち主だったとしたら、操られるのはタケル……あなたかも知れない!魂の量と精神力は比例するわけじゃないわ。それも覚えておく事ねっ!!」
怒る花子。だが、これはタケルのため。自分がとても危険な事をしたという事を知ってもらう為だった。
「俺が操り人形になってたかも……。ご、ごめん。俺、何もわかって無かった……。」
タケルは反省する。それを察して花子は表情を和らげる。
「……と、まぁこれだけ言えば、いくらタケルでも無闇に使ってはいけない能力だって事は分かったでしょ?でも、封印するには勿体ない能力でもあるのよね……。」
「へ?」
花子の言葉の方向転換に驚くタケル。
「だってそうでしょ?もしその能力をタケルが十二分に扱えるようになれば、タケルは話す必要なく周りの人と意識を共有する事ができる。タケルに敵対する者の心変わりを促すことだって出来るはずよ。それは魂の届く範囲を支配出来る能力。タケルの能力は、まさに神にも悪魔にもなれる能力なのよ。」
「……そうだよな?俺って……かなり凄いよな!!」
自分の能力の可能性に天狗になるタケル。
花子は再び厳しい目を向けこう言った。
「……その能力を十二分に扱うというのは、前提として相手も自分も傷つけない傷つかない事が必要条件よ。今の諸刃の剣のままじゃ使用を認められないわ!だから、私はこの能力に戒めを込めてこう名付ける……」
花子は一呼吸間を置くと、
「マトリョーシカ!……と。」
と言った。
「えーっ!何だよそのカッコ悪い名前っ!!あの、外国のコケシみたいなヤツだろ?スペシャルタケルスペースにした方が断然カッコいいじゃんっ!!」
「……世間的にはそっちの方が戒めになるかもね。でも、タケルにとって戒めになる必要があるのよ。その能力を使う前には必ずマトリョーシカと叫ぶ事。」
「えーっ!恥ずかしくてあんま使えねぇじゃん……。」
「それが狙いよ……。それに、マトリョーシカがヤマトに影響を及ぼしたのは、ヤマトがタケルの魂にシンクロし易い体質だったからかも知れない。誰にでも通用する能力では無いのかも知れないし、タケルが支配される可能性だってある事も忘れないでね。それと、無意識の発動を防止するために、自分の姿をしっかりとイメージ出来るようにして。魂を体と同じ姿にキープするためよ。もし、それが出来なければ、今タケルの頭の上にある魂と体を繋ぐ糸が魂の圧に耐えられずに切れてしまうわ。そうなれば……死。分かるわよね?」
タケルは死という言葉を聞いてガクガクと足が震える。
「そのためにもこの鏡のキーホルダーはちゃんと持っていて、事あるごとに見る事!ここの鏡の力を全て移しておいたわ。」
花子はそう言ってタケルにキーホルダーを手渡した。
「え?ち、ちからって?」
タケルの声は少し震えている。
「始めに言ったでしょ?あなたのいた世界で旧校舎3階奥の女子トイレを復活させるって……」
その時、花子の顔が急に険しくなる。
「……?何かがすぐ近くまで来ているわ。」
タケルにもその場の空気が変わったのはわかる。冷たく嫌な空気……人ならざる者、それも悪意を持った者がタケル達に近づいて来ているのを感じる。
「……しかもひとりじゃないわ。少なくとも3、4体の都市伝説……え?そんな!有り得ないわっ!」
花子は驚く。
「どうした花子っ!?」
「この夜の学校にいる全ての都市伝説が、ここに集まって来ている……。」
「なな、なんだって!!」
慌てるタケル。対照的に、努めて冷静な声で花子はこう言った。
「結界があるといっても、どれだけ持つか私にもわからないわ……。タケル、少し足早になるけど良く聞いて!」
ただ、努めて隠されてはいたが、彼女の言葉の端々には焦りがまとわりついていた……。




