表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
75/137

20話 鏡から手

 女子トイレ入り口にある手洗い場の鏡が光を放ち、そこから白い蛇のようなものが空中を左右に蛇行しながら物凄いスピードでタケルへと向かう。それはタケルの背中へ到達すると、その肩をガシッと掴んだ。


「っ!!」


 タケルの口から声が漏れる。触れられた事によって、意識が外側のマトリョーシカから元のタケルの魂に戻ったようだ。


「うぇっ!手!?」


 タケルは叫ぶ。タケルの肩を掴んでいたのは、手洗い場の鏡から伸びた長い手だった。

 瞬間、大きなマトリョーシカの気配は消えた。


「意識が戻ったようね。タケル!こっちよ!」


 手洗い場の鏡から花子の声が聞こえ、長い手はズズズ……とタケルを引っぱる。


「な、何だよ!怖ぇよ……!!」


 タケルは足を踏ん張り抵抗するが、その努力も虚しく鏡に背を向けたままその正面まで引きずられる……。


「こ、今度は一体なんなんだよ……。」


 観念したように後ろを振り返る。鏡を覗くとそこには……。


「!!」


 鏡の中に花子が映っている。

 タケルの肩を掴んでいる手は鏡の中の花子に繋がっていた。先程まで蛇のように長かったはずが、今は普通の長さに戻っている。


「花子?なんでそんな所に?」


 タケルは手に握られた鏡のキーホルダーを覗くが、そこに花子は映っていない。

 鏡の中の花子が口を開く。


「合わせ鏡の時間が足りなくて、手しかそっちに移動出来なかったのよ!でも、タケルがそっちにいたんじゃ、またヤマトを危険にさらすかも知れないわ。あなたがこっちに来て!」


 花子はそう言うとタケルの肩を掴む手に力を込める。


「ま、待ってくれよっ!ヤマトって奴が6人目かも知れないだろ!あのトイレの中が怪しいんだって!!」


 タケルは最もらしい理由をつけてその場に留まろうとする。しかし…。

「あんた、さっきまでそんな事忘れてたじゃないっ!良いから来なさいよっ!!」


「う、うわぁっ!!!!」


 タケルは尋常じゃない力で鏡の中へと引きずり込まれていった……。



「……うぅ」


 タケルが気付くと、手洗い場の鏡の前に座り込んでいた。


「……こ、ここは?」


 タケルは辺りを見渡す。さっきまでの女子トイレと同じ造りだが、学校のトイレはどこも同じ様な仕様だ。別の女子トイレかも知れない。


「タケル……。」


 少女の声。タケルは振り向くが誰もいない。しかしその声には聞き覚えがある。


「おいっ!花子だろ?ふざけてないで出て来いよ!」


 タケルはどこへ向ければ良いのかわからず、とりあえず叫んだ。再び花子の声が聞こえる。


「私には、トイレの鏡を使って他のトイレに移動する鏡移動の能力があるのは覚えてるかしら?」


「……ああ。」


 タケルは答える。それは動く人体模型編で、花子がタケルを小学校の外に出すため使った能力だった。

 花子の声はトイレ中に響いていて、場所を特定出来ない。


「……なら話は早いわ。私は鏡移動を使ってタケルをここに連れてきた。」


「でも、見たところさっきのトイレと同じような……?」


「ええ。ここはさっきまでと同じ旧校舎3階奥の女子トイレよ。……ただし、1年後の……ね。つまり、私は合わせ鏡で強化した鏡の力を利用して、タケルを時間移動させたのよ。ここは、タケルが肉体を置いてきた時間の夜の学校。時間軸で言うなら、現在の、ね。」


「……どうして、俺をここに?」


 タケルは質問する。


「1つは、あの場にいたら、あなたはヤマトの意識を消してしまったかもしれなかったから。そしてもう1つは元の…あなたのいた世界でここ、旧校舎3階奥の女子トイレを復活させるため……。」


「復活……?」


「ええ。……でもその前に。今から何をすれば良いか……タケル、もうわかっているでしょう?」


 花子は当然であるかのように言い捨てる。


「そのセリフ……」


 タケルはその言葉を記憶の中から手繰り寄せる。それは、初めて旧校舎3階奥の女子トイレに来た時、花子がタケルに言った言葉と同じだった。タケルは答える。


「お前を呼び出す……だよな?」


 タケルは奥にある6つの扉を見る。


「……あ。」


 タケルの口から声が漏れた。


「どうしたの?」


 花子の声が響く。


「いや、また逆だからさ。」


 6つの扉は、左から3番目の扉以外全部閉まっている。


「……そんなの変えちゃえば良いのよ。」


 あっけらかんとした花子の声が響く。


「……え?変えても良いのか?」


 呪われそうな気がして怖気づくタケル。


「大丈夫よ。本来ここにいる夜の都市伝説を呼び出す仕様になってるだけなんだから。」


「えぇーっ!夜の都市伝説?そ、そんなもんがここにいんのかよっ!聞いてねーよっ!!」


「ま、言ってないからね。でも安心して良いわよタケル。そいつは今、ここにはいないわ。ここにいる都市伝説は私……トイレの花子さんだけよ。」


「な、なら良いんだけどよ……。」


 タケルは少し怯えながらも6つの扉へと近づく。

 1番左の閉まっている扉の前に立つ。そこから右に向かって1枚づつ扉を開けていく。もちろん中に何か潜んでいないかとビクビクしながら……。

 開いている3つ目の扉の中を見ないように飛ばして、1番右の扉まで全ての扉を開くタケル。

 その後、再び左から3番目の扉の前に立つ。

 タケルは恐る恐る中を覗く。が、誰もいない。


「ふぅ……。」


 安心の後、不安が襲う。


「……本当に花子が出て来るんだよな?」


「良いから早くしなさいよっ!」


 花子はそんなタケルを急かす。


「はいはいわかってますよ!」


 タケルはそう言って扉を閉めた。


「行くぞ!」


 少し大きな声で気合いを入れ、左から3番目の閉じた扉をコンコンコンと3回ノックする。そして息を大きく吸い込むと、


「はーなーこーさんっ!あーそーぼっ!!」


 さっきよりも大きな声で、あの時のように呼びかけた……。


 ギィ……


 扉が自然と開いていく。

 タケルは何が出て来るかと不安を覚え、手をギュと握りしめる。

 ……中から現れたのは、トイレの花子さん……だった。


「ふぅ、良かった。」


 安心するタケル。


「何が良かったのよ?……鏡越しには話してたけど、こうして会うのは久しぶりね、タケル。」


 花子は、はにかみながら言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ