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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
73/137

18話 精神感応

今回は、一年前の肝試し編6話の裏側になります。

こんな事あったなーって感じで読んで貰えたら嬉しいです。

 旧校舎3階。渡り廊下前の廊下を、タケシ達の向かった階段側とは逆方向に真っ直ぐ奥へと進むヤマト。その上方に浮かび、同じ廊下を進むタケル。

 渡り廊下前に比べ、奥に進む度に闇が濃くなっているように感じる。

 怪しむような目でヤマトを見下ろしていたタケルだったが、突き当たりを右へと曲がる頃には少しづつ恐怖の方が勝ってきていた……。

 タケルは曲がって1番初めの教室の前で身を震わせる。


「こ、この教室って元6年1組の教室だろ?」


 児童数の減少により、タケル達が入学した時には既に旧校舎3階は使われなくなって大分経っていた。旧校舎の老朽化もあり、この教室も例にもれず空き教室だった。

 そしてこの教室は、動く人体模型編において、タケルが動く人体模型に攻撃を受けた教室。

 しかも動く人体模型の正体は、小学校に侵入した不審者に刺されて死亡した元6年1組の担任吉川先生。吉川先生にとってこの教室は心残りのある場所だったのだ。


「こ、ここが一年前なんだったら、吉川先生はまだ成仏してないんだよな……?」


 タケルは花子に恐る恐る聞いてみる。

 花子は、


「そうね。」


 とだけ言った。

 花子の言葉の少なさがタケルの恐怖を掻き立てる。タケルの脳裏に2週間程前の情景が浮かぶ。


 動く人体模型を女子トイレの結界内に封じるため、タケルは彼を探していた。

 そして動く人体模型を教室内に見つけたタケルは、自ら囮になるために彼を挑発。

 窓際にいた動く人体模型は、机や椅子をなぎ倒しながらタケルに向かって襲い来る。

 教室から廊下に飛び出したタケル。

 動く人体模型は避けようともせずに、


 ドォン!


 と壁をぶち抜きタケルの前にその姿を現した……!


「うわぁっ!」


 あまりにリアルに思い出したため、タケルは声を上げてしまう。


「あの時は必死だったけど、今考えるとかなりやべー事したな……。」


 タケルはブルッと震えると、目をつむりその記憶を振り払うように頭を振る。

 一方ヤマトは、タケルが過去を振り返っている間、教室の壁の前に立ち止まり、何故か身動き一つしていない。

 しかし、タケルはもちろん、花子もそれに気付いていなかった。


「やっぱ、いるんじゃねーか?吉川先生……なぁ、聞いてるか花子?」


「はいはい。聞いてまーす。」


 キーホルダーからそう言って、タケルを適当にあしらう花子。


「なんだよそれっ!」


 少しキレ気味のタケル。

 花子はタケル以上にキレ気味に返す。


「もーっ!大丈夫よ!吉川先生は夜の学校にはいないからっ!!ま、他のはいっぱいいるかも知れないけどねっ!」


「ええっ!?」


 タケルはビクつきながら首を左右に振ったり、振り返ったりして辺りを警戒する。


「……なぁ花子、おまえは怖くねーのかよ?」


 弱々しくなるタケル。


「私は都市伝説だからねー。それより、早く行かないとヤマトに置いて行かれるわよ。」


 花子はそう言ってタケルに先に進むよう促した。タケルはヤマトの姿を探す。ヤマトはまだ教室の前に立ち止まったままだった。


「なぁ、アイツも止まってるぜ。」


 キーホルダーをヤマトに向けるタケル。

 しかし、花子が確認した時には、既にヤマトは奥の方へと進み始めている。


「……進んでるじゃない!」


「え?あれ?さっきまで止まってたのにな……」


 そう言いながら、タケルはヤマトを追った。

 タケルと花子は、知らない。

 立ち止まっていたヤマトが見ていたのは、動く人体模型に破壊された教室の壁だった事を……。

 ヤマトが見ていたのは、タケルが思い出していたタケルの記憶だった……。


「今の、何だったんだ……?」


 ヤマトは小さく呟いた。タケル達にはその小さな声は聞こえなかった。


 タケルは後ろの暗闇を気にして、ずっとソワソワしている。そして我慢出来ず後ろを振り返る。

 ……何もいない。


「ふぅ……。」


「……大丈夫よタケル。何も襲って来ないわ。」


 と花子は声をかける。


「あ、ああ。別に怖がってねーけどな……。」


 今更強がるタケル。しかし、首を前に戻そうとしたタケルの目の端っこで、暗闇が動いたような気がした。

 見なかった事にして、急いで前を向く。


「気のせいだよな……?花子も、何もいないって言ったし……。」


 タケルは自分に言い聞かせる。

 ……しかし、花子はいないとは言っていない。襲って来ないと言っただけで、そこには何かいるかもしれないし、いないかも知れない。

 答えは花子のみぞ知る……。



 しばらく歩いて、彼らは旧校舎3階の1番奥へとたどり着く。タケルは、普段は短いはずの廊下が何故こんなに長いんだろうと思う。空間を歪める魔法でもかけられてるんじゃないかと疑うくらいに長かった……。

 しかし、そうやってたどり着いたにも関わらず、そこは…………行き止まりだった。


「え?行き止まり?どうなってんだ花子。こっちで合ってたよな?おまえのいる女子トイレって……」


 タケルは慌てて花子に確認する。花子は呆れたように、


「もう忘れたの?あなたが来た時もすぐには分からなかったでしょう。……結界よ。結界を張って入り口を見えにくくしているのよ。」


 と言った。タケルは思い出す。


「そうか……。俺が最初に来た時は、動く人体模型に行き止まりまで追い詰められて……。あわやって所で花子に手を引かれたんだよな?確か、あの奥には更に奥があって……」


 記憶を辿り、女子トイレの入り口への道を思い出す。

 すると、ヤマトはタケルの記憶通りの道筋を歩き始める。


「おっ!そうそう。ちょうどヤマトってヤツが進んでる方向だ!」


 タケルは答え合わせを楽しむように、ヤマトの動きを見ながら満足気に言った。

 しかし、タケルとは違い、ヤマトの動きに驚いているのは花子。


「え?え?ヤマト……、何故?」


「何故って何だよ?お前が導いてんじゃないのか?」


 不思議そうに花子に問いかけるタケル。


「違う……。私じゃないわ。」


 深刻な表情の花子。しかしタケルは気にしていない。


「ま、道がわかってんなら良いんじゃねーの?おーっ!そうそう!そこが女子トイレの入り口だぜ。」


 タケルは嬉しそうに言う。

 ヤマトは迷う事なく女子トイレの入り口まで辿り着いていた。


「そんな……。何故辿り着けたの?手引き無しでは辿り着けるわけないのに……。」


 花子は信じられないといった様子でヤマトを見ている。


「何故…?」


 考える花子。


「私以外に誰かがヤマトに道を教えた……?」


 考えを口に出しつつ、花子はタケルに目を移した。

 その時、彼女は何かに気付く。


「!!……まさか?タケルなの?」


 花子は、ヤマトがタケルの記憶の道筋通りに進んでいた事に着目する。


「……幽体離脱をした人が、超能力や霊能力に目覚めるという話を聞いた事があるわ。タケルにもそんな能力が目覚めたんだとしたら、ヤマトを導いたのはタケルかも知れない。」


「え?んなわけねーだろ?そんな事した覚えねーし。」


 それを聞いていたタケルは笑い飛ばす。


「……でも、タケルが女子トイレへの道筋を記憶から引き出し始めた時、ヤマトは動き出したわ。タケルが無意識に精神感応……テレパシーを使って、ヤマトにその記憶を送った。そして、それを受け取ったヤマトは、タケルの記憶を辿って女子トイレの入り口まで来る事が出来た。それなら説明がつくわ。」


 花子はタケルに持論を語る。


「いやいや、もしかしたらヤマトってやつは道を知ってたのかもしんねーぜ?」


 タケルはそう言いつつヤマトに視線を向ける。

 その時、ヤマトは眼前に現れた女子トイレの入り口を怪訝そうに見つめていた。


「トイレ……?」


 そう呟いたヤマト。語尾にハテナマークが付いていそうな言い方が、ここを知らなかった事を意味しているのはタケルにもわかった……。


「ね?……私は見てないけど、さっき、元6年1組の教室前にヤマトが立ち止まっていたって言ってたわよね?」


「……ああ。」


「あの時も、タケルは過去を振り返っていたでしょ?もしかしたらヤマトは、あの場所でもタケルの記憶を見ていたのかも知れないわね。」


 ヤマトは2人の会話を他所(よそ)に……聞こえていないのだから当たり前だが……、ゴクリとつばを飲み、女子トイレの中へと入って行った……。


「……テレパシーか。もし俺にそんな力があったら…………めちゃくちゃ嬉しいじゃねーかっ!オレ達も行くんだろ?早く行こうぜ花子っ!」


「え、ええ……。」


 タケルは上機嫌でヤマトの後を追って女子トイレの入り口を入って行った。

 鏡のキーホルダーの中、花子は未だ不安そうな顔をしていた。


「何か嫌な予感がするわ……。タケルの能力がテレパシーの類いなら問題無いとは思うんだけど……」



この機会に是非過去話を読み返して頂ければ嬉しい限りです。

今後もよろしくお願いします。

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