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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
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15話 13階段の正体

「13階段……?」


 タケルはつぶやく。クラスのツトムってやつから聞いた事がある。夕暮小学校七不思議の一つだ。

 ツトムの話によると、それは新校舎2階と3階を繋ぐ階段に起こる怪現象らしい。


「普段は12段しかない階段。しかし、夜中にその階段を上がると、1段増えているという。そして、その13段目を踏んでしまうと、その人は上から降りてきたロープで首を吊って死んでしまうらしい。逆に、夜中にその階段を下りると、死んだ者たちのさまよう異世界へと繋がってしまうという……。」


 ツトムの声を思い出すタケル。でも……。


「あれ?いつ聞いたんだっけか?」


 タケルは考える。すると、硬く閉じていたはずの記憶の扉に僅かな隙間が生まれた。そこから微かに流れ出る記憶……。


「そうだ。一年前の肝試しの時だ……。断片的にしか思い出せないけど、あの時俺たちは夕暮小学校七不思議を語る必要があったんだ……。」


「今は記憶よりもその尻尾を踏む事が先決よ。」


 花子の声で、思い出せない事を考えるという思考の堂々巡りを回避するタケル。


「あ、ああ。……でもこの動物は初めてだよな?」


 タケルは動物の背中を見つめながらつぶやく。


「そいつは幻覚を見せるのが得意だから、普通、人間の目には階段の一段に見えるのよ。だから13階段ってわけ。で、そいつ、階下を見下ろしてるでしょ?登って来る人間に神経を研ぎ澄ませてるのよ。」


「え?じゃあもし誰かが登って来たらどうなるんだよ?まさか噂通り…………死?」


 自分の言葉に、不安で目を泳がせるタケル。


「まさか。降りて来るロープなんかはそいつの幻覚よ。そいつに出来る事と言えば、首にすぐに消えるようなロープ跡を付けるくらいの事ね。」


 頬を緩めつつそう言った花子だったが、急に眉尻を上げ真剣な表情になるとこう続けた。


「……そいつの前に立った場合はね。それより恐ろしいのは無防備な背後よ。」


「え!?」


 不意に変わる空気に驚くタケル。しかし、それも一瞬。


「でも、これから先は教えられないわね。今からその背後に迫って尻尾を踏もうというあなたにはね……ふふ。」


 花子は茶化すように言った。


「なんだよそれ!詳しく教えてくれよ!!じゃないと怖くてあいつに近づくことさえ出来ねーって!」


 タケルはビビリながらも話の先を求める。すると、花子は交換条件のようにこう言った。


「じゃあ約束して。ちゃんと尻尾を踏むって。」


「……わかった。約束すりゃいいんだろ!」


 タケルにもこれが自分の不利にしかならないって事は分かっていたが、キーホルダー越しの花子の真っ直ぐな目を見てその条件をのむ。きっと理由があるんだとタケルは思った。そして、タケルは花子を信じていた。花子から感じる懐かしさのようなものが花子を信じる要素になっていた。

 花子は話し始める。


「さっきも言ったけど、13階段は階下に集中するあまり背後が無防備になっているわ。だから背後からなら容易に近づく事が出来る。タケル、噂では13階段を降りるとどうなる?」


「……異世界へと繋がる?」


「その通りよ。普通、人間には13階段の姿は見えない。だから、降りると異世界へ繋がるという都市伝説になったのね。でも実際は、13階段に気付かず不用意に背後から近づいた人間が、その尻尾を踏んでしまった。痛みに驚いた13階段はその鋭い爪を世界に突き刺し、引き裂いてしまう。そしてその裂け目から世界が反転し、この世界は夜の学校という異世界と入れ替わってしまった……というのが13階段の真相なのよ。」


「な、なるほどな。」


 タケルは一応相槌を打つ。とにかく、あの尻尾を踏めばここが夜の学校に変わるということだけはわかった。そして、それを実行するのは……。


「……俺がやらないといけないんだよな?尻尾……。」


「何言ってるのよ。約束でしょ?」


 花子は冷たくあしらうように言い放つ。そして、さらにポツリと呟く。


「それに、これはタケルの後悔を減らす事にもなるんだから。」


 その声は小さかったが、タケルにも聞こえた。


「俺の後悔……?」


 タケルの口から言葉が漏れるように、再び記憶の扉から一年前の記憶の断片が流れ出す……。


「そうだ。俺だったんだ。俺が13階段を降りてみんなを異世界に……、夜の学校に連れて行ってしまったんだ。じ、じゃあ今からここに来るあの顔がぼやけた男って……?」


「ええ。一年前のあなたよ、タケル。」


 タケルの言葉を受けてそう返す花子。


「……でもさ、俺の代わりに俺がするんじゃぁ結局一緒だよなぁ。」


「ま、そうとも言うわね。」


「そうとしか言わねぇよ。ハハッ。」


 そのやり取りが懐かしい気がして、つい笑ってしまうタケル。


「ふふっ」


 花子も笑う。


「ま、自分の意思で引き起こす分、多少はマシか……?んじゃ、行って来るわ。」


 タケルは近所のコンビニにでも行くかのように花子に告げると、スタスタと歩き出す。もちろんラップ音を響かせないよう少し浮いた状態で進む。

 13階段の背中に手の届く範囲まで来たタケルは立ち止まる。13階段は全く気づいていない。タケルはゴクリと喉を鳴らすと覚悟を決め、その尻尾目掛けて右足を踏み降ろした。


「キューーーーンッ!!」


 13階段が吠え、その鋭い爪が世界を割いていく。裂け目から世界が反転する!!



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