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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
67/137

12話 半暮伝衛門

連日投稿12日目です。

 タケルは男の名前を口にする。


界二郎(カイジロウ)……」


 そう。確かにその男は指狩りジャンケン1戦目でじゅんぺいと対戦し……敗れた男。界二郎。

 そしてタケルは男の左手の包帯に視線を移す。その、血の滲む先端に……。


「そ、その血はまさか?」


 タケルの問いに界二郎は答える。


「ああ。狩られたんだよ。負けたからなぁっ!!」


 言葉の端々から出た怒りが、針のようにチクチクとタケルを刺す。そして界二郎は、更にタケルと距離を詰める。引きずる角材が、少し高い音でカラカラ鳴る。


「おい!お前が返してくれんのか?」


「……え?お、俺?」


 タケルはとぼけてみる。しかし界二郎は容赦なく詰め寄る。


「指だよ指!お前が返してくれんのかって聞いてんだ!」


 界二郎は角材を床に何度も叩きつけながらタケルの顔に自分の顔を近づけ睨みつける。


「か、返すったって……。」


 タケルは自分が縮み上がるのを感じる。


「なら、お前の指……くれよ。」


 そう言って、界二郎は笑った。とても不気味な笑顔で……。


「……やめろよ!」


 そう叫んだのはじゅんぺい。じゅんぺいは我慢の限界だった。


「指狩りジャンケンでお前と戦ったのは俺だ!文句があんなら俺に言えよっ!!」


 そう言って、タケルと界二郎の間に割って入る。

 界二郎はじゅんぺいに押されて少しよろけ、2、3歩後ずさる。

 じゅんぺいはタケルに離れるよう促し、自身も界二郎に体の正面を向けた状態で数歩退がった。


「おいおい、痛てーな。……じゃあお前がくれんのか?左手の指5本……。」


 界二郎は体制を立て直すと角材でじゅんぺいの左手の甲をポンポンと叩く。痛くはないが極めて不愉快。


「やめろっ!」


 じゅんぺいは角材を奪おうと掴みにいく。


「おっと!」


 界二郎はそれを見越して角材をヒョイッと持ち上げる。そしてこう言った。


「これは渡せねェなぁ。……それともう一つ。」


 その時、タケルの背中で都市伝説事典が蠢く!と、同時に界二郎は言った。


「俺は界二郎じゃねェ。界二郎の体を乗っ取った…………伝衛門(でんえもん)だ!!」


 タケルの脳に都市伝説の情報が流れ込む。


「ま、まさか…。これは、ト○ロは死んだ世界の話だとか、ド○○もんは、植物人間の○○太が見る夢だとかいう類いの、漫画やアニメに関する都市伝説なのか??」


 タケルは驚く。

 知らなかった。デ○○マンにもそんな都市伝説があったなんて……。

 デーモンって、実際は伝衛門の事だったんだ……。


 伝衛門とは、江戸時代に実在した半暮(はんぐれ)伝衛門(でんえもん)という悪党で、自分の魂を飛ばして他の人間を操る能力を持っていたという。彼は複数の人間を操る事も出来、大勢の人間を団子屋の前にタムロさせ、営業停止に追い込んだ事もあったらしい……。


「コンビニにタムロするヤンキーかよ。(はん)グレというより()グレだな……。」


 タケルは独り言を呟いた。だが、その()()()()()()()の元ネタなんだったら、用心すべき相手なのは確かだ!


「気を引き締めとかなきゃ!何が起こるかわかんねーんだからな!」


 タケルは自分に言い聞かせる。と、その時、タケルの後頭部が何かで強打される!


「うがっ……」


 タケルは薄れゆく意識の中で蛇子さんの声を聞いた。


「この人間、理性を失っているどころか、集中力すら枯れていましたわ。そのおかげで、すんなりと体に入れました。私はウワバミ蛇子ではありません。……伝衛門ですわ!!」


「……2体目ぇ?」


 タケルはそう言えたのかどうか?

 意識を持ってかれる……。



「うぅ……。痛って……!」


 タケルは頭を押さえる。少し頭を切っているようで、触ると痛い。しかし、血は止まっているようだ。


「大丈夫アルか?御堂タケル。」


 珍さんがタケルを助け起こす。


「珍さん……、蛇子さんは?」


 タケルは頭を殴ったであろう蛇子の事を珍さんに聞く。


「ウワバミさンは、君を角材デ殴っタ後デ、界二郎と一緒ニ狭山じゅんぺイを隠シ扉の奥ニ連れ去っタネ!」


 俺、角材で殴られたんだ。とタケルは思った。しかし、問題はその後だ。


「え?じゅんぺいが連れ去られただって!!」


 タケルは慌てて隠し扉に向かおうと一歩踏み出す。しかし珍さんに腕を掴まれ、一歩しか踏み出せない。


「離してくれよ珍さんっ!じゅんぺいを助けに行かなきゃ!!」


 タケルは珍さんの手を振り解こうともがく。


「忘れタの?そっチハ出火現場アルヨ!危なイネ!!」


 珍さんは必死にタケルを止める。


「なら、なおさらじゃねーかっ!じゅんぺいを助けるんだよっ!!」


 珍さんを振り解けないタケルは、開いた隠し扉を見つめて歯ぎしりした……。

 その時、隠し扉の奥から声がする。


「……御堂タケル。安心しろ。連れて来てやったぜ。」


 界二郎の声だ。そして、界二郎とウワバミ蛇子が隠し扉から姿を現す。カラカラ、カラカラと音がする。

 2人は脚にローラーの付いた動く台のようなものを押して出て来た。

 カラカラという音はその台が出している音だとタケルは思ったが、よく見ると2人が右手に持った角材を引きずっている音だと気付く。2人は右手の角材を落とさないように、器用に台を押していた。

 そして、その台の上には3歳頃の子供くらいの大きさの何かが置かれていた。布のようなものがかけられている。そしてモゾモゾ動いている。

 布の中から声が聞こえる。


「……タケル?タケルなのか?」


 それはじゅんぺいの声。でも、その布の中のものは、じゅんぺいにしてはかなり小さい。


「どういう事だよ?じゅんぺい!何処だ?何処にいるんだよ?」


 タケルは別の場所から声がしたのかとあたりに声をかける。しかし、再びじゅんぺいの声がしたのは……。


「ここだよ。タケル。俺は布の中だ……。」


「……。」


 タケルはどうしようもない不安に襲われる。

 すると、蛇子が話し始める。


「狭山じゅんぺいは、我々4人の伝衛門とシシ狩りジャンケンをしたのですわ……。」


「4人?獅子狩りジャンケン?」


 タケルは気になるワードを口にする。

 伝衛門に体を奪われたのは界二郎とウワバミ蛇子の2人のはず……。

 じゃあ、後の2人は誰だ?


 カンカンッ


 誰かが何かで床を叩く。そして口を開く。


「御堂タケル……。実は私モ珍さんではないアルネ。私は…………伝衛門ネ。」


「!!」


 先程まで珍さんだった伝衛門を見てタケルは気付く。伝衛門は皆、右手に角材を持っている!

 そして、その場にもう1人。角材を持つ者がいた。

 それは、火事を知らせに来た黒服の男だった。


「角材を持った伝衛門が4人……。お前達、じゅんぺいに何をしやがった?獅子狩りジャンケンってなんなんだよっ!!」


 タケルは大声で叫ぶ。

 蛇子が答える。


「そんな大声出さなくても教えて差し上げますわ、御堂タケルさん。じゅんぺいさんは私達4人の伝衛門とシシ狩りジャンケンをしました……。シシ狩りのシシとはライオンの事ではありません……。シシとは脊椎動物の4つのあし。人間で言う両手両足のことですわ。」


 タケルはそこまで聞いて背筋が凍りつく!!


「まさか、四肢狩りジャンケン……」


 指狩りジャンケンが指を狩るジャンケンなら、その四肢狩りジャンケンってのは……!!

 タケルの顔がみるみる青ざめていく……。


「やっと気付いたようだな。布の中の狭山じゅんぺいが異様に小さな理由わけに……。それは、こいつが俺達に全敗したからようっ!!」


 界 二郎が不気味な笑みを浮かべる。

 気付くと4人の伝衛門は台を中心に集まっている。


「さァ、布を取っテ初お目見えアルよ!今回1番の目玉アルッ!!」


 珍さんはそう言って、黒服の男に指示を出す。


「はい、ボス衛門。」


 と、黒服の男は右手に角材を持ち、布に左手をかける。


「オーナーアルっ!!」


 珍さんのそれが合図であるかのように、黒服の男によってその布が引かれる……。

 そこにあったのは?


 ………………………………………達磨だるま


 手足を切断された狭山じゅんぺいの姿だった。それでも生きているようで、じゅんぺいは口を開く。


「タケル、今の俺の姿……どう?」


「…………ギャーーーーーーーーーーッ!!!」


 俺は叫ぶ。喉が裂けるくらい叫ぶ。それは俺の理性が完全に無くなる瞬間だった……。



 そして次の瞬間、俺は天井スレスレの所から床に寝そべる自分自身眺めていた……。


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