11話 拳読
連日投稿11日目です。
「最初はグーッ!!」
タケルの掛け声を合図に、タケルのグーと蛇子のグーが並ぶ。
間を開けずにタケルは掛け声を続ける。
「ジャンッ!」
タケルの指がピクリと動く。蛇子の赤い目はそれを見逃さなかった!
……拳読という技がある。
グーの状態からチョキ、パーを出す時には、当たり前だが指が動く。その動きを察知して相手の手を読むのだ。
蛇子が拳読を完全にマスターしているのかどうかはわからない。しかし、彼女は今、タケルの指の動きを察知した。
指が動いたという事は、タケルはチョキかパーを出す。ならば蛇子は少なくともチョキを出せば負けない。
「ケンッ!」
蛇子のグーがカタツムリの殻だとしよう。その殻の中からカタツムリの目のように人差し指と中指がぐんぐんせり上がってくる!
しかし……
「えっ?」
蛇子は声を上げてしまう。
タケルのグーが解かれていない。
何故そんな事が起こったのか……?
……読者諸君は覚えているだろうか?
指狩りジャンケン1戦目の界二郎の言葉を……。
……拳を握った状態からチョキをだすには親指が邪魔をして出しにくい……
まさにその状態がタケルの身に起こっていたのだ!
タケルは後出しになるのを恐れ、宣言通り出そうとしていたチョキを諦める。そして、流れを損なう事なく最後の掛け声を叫んだ。
「ポンぅおおおおグーだあぁっ!!」
タケルの掛け声はポンとグーが重なり、奇妙な叫びになる。
その状況に慌てたのは蛇子だ。
蛇子の手は既にほぼチョキの状態。このままでは負ける……!
でも、今なら間に合うかも知れないわ!!
蛇子は誰にも……タケルにも気付かれないようにチョキになろうとする手の薬指、小指、親指を開いた!
……蛇子の手はパー!
蛇子は後出しの声を気にするが、誰もそれを指摘する者はいない。
「……や、やりましたわ。私の勝ちですわ……。」
蛇子は勝ち名乗りを上げる。疲労の色が濃い。その唇からハァハァと艶かしい吐息が漏れる。
蛇子は思う。その疲労さえも気持ちいいと……。
「……ゾクゾクが、止まりませんわァァ。」
そして蛇子は目を閉じ、勝者を讃える声を待つ。しかし、次に蛇子の耳に入って来たのは、彼女への祝福の声でもタケルの絶望の叫びでもなかった。それはじゅんぺいのごくごく普通の声。
「おいおい蛇子さん。良く見てみなよ。タケルの手を……。」
手?
そこで蛇子は気付く。
そういえば私、御堂タケルさんの手、見ましたかしら……?
ジャンケンにおいて、対戦相手の手を見ずに勝利を確信するなんて本来なら絶対にあり得るはずがない。しかし蛇子は……、ウワバミ蛇子は「ジャンケンポン」の掛け声のほんの数秒の間に思考をフル回転させ、拳読からのチョキをパーに変えるという荒技までやってのけた。彼女の集中力は、それまでの対戦で削られた分も含めてほぼ0に近い状態まで低下してしまっていたのだ。
蛇子は改めてタケルの手を確認する。
「御堂タケルさんの手はグーに決まってます。それ以外などあり得ませんわ……。」
しかしタケルの手は蛇子の確信を切り裂くような……チョキ。
「そ、そんな……っ!!」
蛇子は驚きを隠せない。
……しかし、その場で1番驚いていたのは蛇子ではなかった。
「えーーっ?チョキ出してんじゃん俺ぇーーっ!!」
なんと1番驚いていたのはタケル自身。それもそのはず。タケルはグーを出したのだから……。
しかし、今タケルの目の前にある右手は、タケルの意思とは無関係にチョキを出していた。
……親指によって起き上がる力を抑えられていた人差し指と中指。それらがタケルの諦めによって力の抜けた親指を押しのけ、無意識に起き上がってきたのだ。
腕を抑えた状態でバンザイをしようとしてもらい、しばらくそれを続ける。力を抜いた後に抑えていた手を離すと、抑えられていた手が勝手に挙がっていくというマジック(?)を知っているだろうか?それと同じ原理だった。
何はともあれ、タケルは蛇子に勝利した。
「ま、待って下さい。私、今、後出しをしてしまいましたわ。再試合をお願いしたいのですが……。」
蛇子は慌てて再試合を申し込む。
「ごほン。」
その申し出に、珍さんがわざとらしく咳を一回。
「……となるト、あれネ。ウワバミさンはパーだっタかラ、後出シのペナルティで倍ノ指10本いタダク事二なるのコトヨ。今なラ聞かなかっタ事二出来るネ。」
続けてそう言った。蛇子は目を見開き口を開ける。言葉は出ない。
「…………ふ……うふふ……あはははははっ。」
少しの間の後、笑い出す蛇子。
「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ。すいません御堂タケルさん。私は片手5本しか賭けていませんので、この勝負はわたしの負けですね。」
そう言った蛇子の表情は穏やかだった。タケルは蛇子に笑いかけながらこう返した。
「いや、引き分けだよ蛇子さん。俺はチョキ、チョキ、グーで負けて、蛇子さんに指を5本取られてる。最後に俺がパーで勝って、引き分けのまま勝負を終わらせるってのが俺の考えた最善の手だったのさ。ま、最後は運だったけどな。」
「あなたは運を味方に付けた。そしてこの場をあなたの思うように動かし、望みを実現させたわ。……とても良いギャンブルでした。」
蛇子はタケルを讃えるように手を叩いた。
珍さんとじゅんぺいもそれに続く……。
拍手喝采とまではいかないが、タケルは嬉しくなる。
しかし、そんな時に限って何かが起きるのは世の常!
隠し扉がある方向の壁が下り、隠し扉が姿を現す。
「ボス、大変ですっ!!」
その扉から黒服の男が慌てて入って来る。
「オーナー……ネ!」
珍さんはドスの効いた声を出す。
「す、すいませんオーナー!大変なんです!」
黒服の男は珍さんに耳打ちする。お客さんを慌てさせない配慮だろう……。
しかし。
「エーーっ!火事アルかーーーーッ!!!!」
珍さんの大きな声で黒服の男の配慮は意味を失った。
「しかモ、例ノお香を置いテあっタ倉庫カラ出火したアルか?どおりデ甘い香りが強すギると思テタヨーー!」
珍さんのその言葉に真っ先にじゅんぺいが反応する。
「え?気付いてたの?珍さん……。」
「気付いてたなら言ってくれよっ!!」
俺も不満を口にする。
珍さんは悪びれる様子もなくこう答える。
「だっテ勝負の途中だったアルから。勝負ニ水差すノ良くナイネ。そうデショ?」
「……当然ですわね。」
蛇子が言った。
「えーっ!当然じゃないっしょ。火事でしょ!命に関わるでしょ?」
俺はこの異常さをわかってもらおうと必死に身振り手振りも交えて語る。しかし、珍さんから返って来た言葉はナナメ上を行っていた。
「……御堂タケル、これガ普通の火事だト思ってル?もし思っテるなラ大間違いアルよ!!」
「え?」
「今燃えてイルお香は、理性ヲ失わせルお香ネ。用量と用法ヲ守れバ幽体離脱シヤスクなルヨ。デモ、こレは明らかニ過剰摂取ネ!その昔にハ、サバトにモ使われテイタお香ヨ。
完全ニ理性を失えバ、伝衛門ニ肉体を乗っ取らレルネ!!」
その時、何故か開いたままだった隠し扉から、1人の男が入って来る。
右手に160センチはある角材を持ち、左手は包帯でグルグル巻きになっていた。指先のほうが赤く染まっている。
男は何も言わず黒服の男の後頭部を角材で殴る。
ドッと黒服の男が倒れた事で、タケル達はその男の存在に気付く。
男は口を開く。
「俺が火を付けてやった……。この指の恨みだ。お前達も同じ目に合わせてやる……!!」
その男はタケル達も知っている男だった。
その男の名は界二郎。
指狩りジャンケン1戦目でじゅんぺいと対戦し、敗れた男だった……。
遂にタケルと蛇子の指狩りジャンケンに決着がつきました。
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