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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
メリーさん編
52/137

21話 名前のない女

 タケルの母ちゃんの目に、Aマートにかけられた時計が映る。時刻はもう午後5時を回っている。


「あっ!なんで?もうこんな時間じゃないっ!宅急便が来ちゃうわ!それに、晩御飯作らなきゃっ!!大変大変……」


 タケルの母ちゃんはそう言って、慌てて家に帰って行った。そして、タケル達もAマートを後にする。


「ふぁぁぁぁ……。」


 ジンタンがアクビをする。


「おい、タケル。ワシは、またしばらく寝る!もう学校には戻さんで良いぞ。お前の机の引き出しに入れといてくれ。」


「……もしかして、負のエネルギーを喰らったのか?まさか、ミクちゃんを助けるために?」


 タケルは驚く。


「ガキのためじゃねぇ!腹が減ってただけだ。」


 ソッポを向くジンタン。


「それでも、ありがとよ。」


 タケルはお礼を言った。ジンタンは、バツが悪そうに、


「ワシは寝る!ポケット貸せ!」


 と言ってタケルのズボンのポケットにもぐりこむ。

 モクメはその姿を見て、この都市伝説はそんなに悪い奴じゃないのかもなと思った。



 その時、タケルの横を40代後半くらいの女性が通り過ぎる……。

 その年齢にしては少し派手めな赤いカーディガンを腕にかけ、マイバッグからは少し細めの大根のようなものが出ていた。別段珍しくもない普通の女性だった。タケルも例にもれず、彼女を気にする事なく通り過ぎた。

 しかし……。


「……メリーさんが消えた事で、色々な事象が無かった事になってしまったわね……。」


 すれ違いざまに彼女はそう言ったのだ。


「えっ?」


 動揺するタケル。モクメも赤マントも、とっさに戦闘態勢に入る。


「……気を引き締めろタケルッ!」


 ポケットに入ったはずのジンタンも、再び肩へと戻っている。


「え?寝たんじゃなかったのか?」


「寝れるかよ!バケモノだぜ、アイツは……。都市伝説のワシから見ても…だ!」


 女性は口に手を当て、フフッと上品に笑うと、


「あのベテランと若手の警察官コンビも相名(そうな)勝馬(かつま)の事なんて忘れて、今頃は町のパトロールでもしてるわ。……でも、残ったものもあるのよ。」


 とマイバッグから大根のようなものを引き抜く。


「!!」


 それは腕。山崎マリの眉間に刺さっていたメリーさんの左腕だった!

 さらに女性は、タケルが赤いカーディガンだと思ったものを開く……。


「そ、それは、相名勝馬の赤い特攻服!!」


 タケルは驚く。女性はニヤリと笑うと、メリーさんの左腕を掲げる。


「あれほどの負のエネルギーを取り込みながら暴走しなかった都市伝説の一部と……。」


 次は赤い特攻服を掲げ、


「暴走しながらも自我を保ち続けた都市伝説の一部……。この2つがあれば、私の研究がまた一歩完成に近づくわ……。」


 と言った。


「……お前は誰だ?」


 タケルは女性を睨みつけて言った。


「……私を覚えていないなんて寂しいわ……御堂タケル。でも……仕方ないわよね。あなた、一年前の記憶を失っているんだものね。」


 女性は、わざとらしく悲しい表情を作って言う。しかし、タケルは彼女のことなんて知らない。それに、一年前の記憶?失っている?

 一体どういう事なんだ?

 モクメと赤マントが構えたまま、女性との距離を詰める。


「やめなさい!……勝ち目がないことくらいわかるでしょう?黒板の目……、赤マント……。それにあなたたち……、もしかしてメリーさんの件、終わったとでも思ってるのかしら?」


 女性の声は、低く冷たい……。


「……終わってないのか?」


 タケルは呟く。もしかして、メリーさんと携帯で繋がっていた都市伝説がまだ存在した?もしそうなら……!


「ミクちゃんが危ないっ!」


 タケルは慌ててAマートに戻ろうとする。が、それを止めるように女性は再び口を開く。


「ふふ。そうじゃないわ御堂タケル。ミクちゃんはもう大丈夫よ。メリーさんが消えた事で、呪いも消えた……。繋がっていた都市伝説達も力を失ったわ。」


 タケルは思う。メリーさんの呪いが終わってないって言ったのはお前じゃないか!と。

 すると、心の声がわかるように女性はこう答える。


「あなたが考えていることはもっともね。でも、あなたは思い違いをしているわ。」


 タケルは恐ろしくなる。コイツ、俺の心を読んでるのか?


「そのとおり。誰であろうと私に隠し事は出来ないわ。……そこの小さな人体模型さん、ジンタンって言ったかしら?あなたもね。」


 女性はジンタンに視線を移す。


「あなたが私の負のエネルギーを食べようとしているのはわかってるわよ。でも、仮に食べたとしても、それは意味のないことだわ。私は負のエネルギーを利用しているだけの、人間なのですから。ただ、特別なだけの…ね。」


「くっ……!」


 ジンタンは先に釘を刺され、悔しがる。喰らう事が出来なければ、ジンタンは無力だ……。


「おいっ!黒板の目!赤マントっ!何してんだ!戦えよっ!!」


 2人に八つ当たりのように叫ぶジンタン。

「……ごめん。」


「か、体が……動か……ない……わ。」


 モクメと赤マントは喉から無理やり声を絞り出す。


「……その2人は、もう私に負けているのよ。私の言葉にね……。勝ち目がないと認めてしまったのだから……。」


 女性は、タケルの目を見つめ直し、さらに話を続ける。


「ごめんなさいね。御堂タケル。あなたの質問、はぐらかしたわけじゃないのよ。メリーさんの呪いの件よね?実は、メリーさんは一体だけじゃない……。そう言ったらあなたはどうするかしら?」


「!!」


 タケルは愕然とする。

 もし、そのメリーさんも他の都市伝説と携帯で繋がっていたとしたら……?

 再び同じような戦いを強いられたとしても、次も勝てる保証はない……。


「……何体だ?お前、いったい何体用意してやがる?」


 ジンタンが言った。キョロキョロと、なぜか辺りを気にしている。女性は答える。


「……少ないわよ。……ざっと100体くらいかしら。フフフ。」


 女性は口を手で押さえて上品に笑う。

 しかし、その内容はタケルを震え上がらせるに足る。そしてタケルは理解する。さっきのジンタンの行動は200個の目を警戒しての行動だったのだ。今、タケル達は100体のメリーさんの200個の目によって監視されている!

 タケルも先程のジンタンのように辺りをキョロキョロしてしまう。タケルの目に人形の姿は見えない。

 しかし、視線は感じる!……ような気がする。


「もちろん各人形達には、他の都市伝説達5体から10体と繋がる携帯を持たせてあるわ。さぁ、御堂タケル。どう切り抜ける?強くなり続けるメリーさん達と戦う?それとも先程のように携帯を壊す?それならあなたは助かるわね。代わりに100人の持ち主が死ぬだけで……。」


 女性は、子供がふざけている時のような笑顔でタケルを見ている。

 タケルはもうダメだと思った。何も出来ず、何も思い浮かばないまま時間だけが過ぎる……。

 実際はほんの数分だったが、タケルには何時間にも感じられた……。

 そして、その沈黙は、女性の声で破られる。


「……冗談よ。今日は色々収穫もあったし、そのジンタンちゃんに真夜中の少女の負のエネルギーを食べさせることも出来た事だしね。もう引き上げるとするわ……。」


 そう言うと、女性は歩き去っていく……。

 足が震えている。タケルは彼女の後ろ姿を見送る事しか出来ない。

 ……でも、このままで良いのか?

 心の声がタケルに問いかける。

 タケルはこのままじゃ駄目だと思った。


「なぁ、おまえ、名前のない女……だろ?」


 恐怖で狭まる喉から無理やり言葉をひねり出す。すると、堰を切ったようにタケルの喉から言葉が溢れ出した。


「夕暮小学校で吉川先生を人体模型に宿したのもおまえなんだよな?今回の事と言い、おまえ、何故こんなことを……?何故オレの周りで不可解な事件ばっかり起こすんだよ!!」


 タケルは怖かったが、この女を許せなかった。周りの誰かが傷ついてもおかしくなかったのだから。いや、吉川先生やメリーさんはこの女がいなければ今も……。


「……あら、何もかもがあなたを中心に回っているような言い方ね。でも、私は何もあなたの周りで事件を起こしているわけじゃないのよ。逆に私が聞きたいくらいだわ。あなたは何故毎回毎回、私の計画を台無しにするのかしら?一年前のあの事も含めて……ね。」


「一年前?」


 女の言葉にタケルは反応する。


「……そう。一年前よ。あなたは覚えていないでしょうけど、あの時、あなたは私の育てていた都市伝説を倒し、儀式を台無しにしたわ。あの時はあなたにこう名乗ったわね。名前のない霊能師……!と。」


「!!」


 名前のない霊能師。

 その言葉を聞いて、タケルの脳内を何かが駆け巡る!

 5年生……夏休み……夕暮霊園……。

 地蔵……ニット帽……6枚目……。

 夜……学校……七不思議…………!!


「うわぁああーっ!!」


 突然頭を押さえて叫び出すタケル。

 名前のない霊能師は驚く様子もなく、冷静に話す。


「どうやら、あなたの脳内で、繋がりを絶たれたニューロンが再び結びつこうとしているようね……。」


 タケルはうずくまる。頭が痛い……。

 覚えのない記憶のようなものが現れては消えてゆく……。


「うぅ……。」


 声が漏れる。


「……苦しそうね。それは、脳が一年前の記憶を思い出そうとしているのよ。でも、それは叶わないでしょうね……。」


「な、なにを言ってる?」


 タケルは声を絞り出す。


「あなたの記憶には、パズルのピースが足りないのよ。大切な一枚の記憶がね。だから絶対に記憶は戻らない……。それを見つけない限りはね。その頭痛はしばらくすれば治まるでしょう。でもね、無理に記憶を思い出そうとすれば、再び痛みがあなたを襲うわ……。そして、その負荷に耐えられなくなった時、あなたの脳は壊れてしまうでしょう……。それが嫌なら、一年前の事は忘れたままでいる事ね。ふふふふ……あははは…………!」


 笑い狂う名前のない霊能師。

 頭痛に耐えられず、タケルの意識が遠のいていく……。


「今日はここまでのようね。では、また1週間後に会いましょう。今度は正真正銘、あなたを標的にしてあげるわ。あなたの学校を巻き込んでね……。」


 名前のない霊能師の声が聞こえる……。

 1週間後?何があった?

 ……そうだ。1学期の終業式だ。


 ドサッ……。


 タケルはその場に倒れこんだ……。



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