11話 タケル、自宅に帰る
「…そうですよね。向こうの世界に戻り、再び負のエネルギーを集めて次の機会をうかがう。…ということなら理解出来ますが、存在自体が消えてしまうとなれば話は別ですよね…。」
と、モクメ。タケルは、
「だよな?」
と返した。
「それはな、あの携帯電話は呪いを応用して負のエネルギーを集めてたからよう…。」
再び意味深なセリフをはくジンタン。
「なんか知ってんなら、全部話せよジンタンッ!」
タケルは言った。ジンタンは、
「…めんどくせぇなぁ。」
と言いつつも話し始める…。
「…普通、呪いの儀式が途中で阻止された場合、どういうことが起こるか知ってるか?」
「…呪いは、かけた者に返ってくる。」
モクメが答える。
「そうだ。今回の場合は少し複雑だが、あの携帯電話を破壊した事で、人間になるというメリーさんの願い…呪いと言ったほうがわかりやすいな。その呪いは阻止されたわけだ…。そして、人間になるためにメリーさんが集めた膨大な負のエネルギーは、呪い返しによってさらに何十倍にも膨れ上がり、繋がっていた都市伝説達へと返った…。だが、そんな膨大な量の負のエネルギーを取り込めば、都市伝説達は暴走するぜ。そして、その暴走した都市伝説達は、呪いをかけた者を探して一斉に動き出す!しかし、向こうの世界にメリーさんは存在しない。依り代に使った携帯電話があのミクってガキの母親のもんだからな、次に狙われるのはその母親のはずなんだが…、そいつも人形にされちまってて都市伝説達には感知できねぇだろう…。なら、ヤツらはその血縁を狙う…!」
そこまで話を聞けば、もう理解出来るだろう。タケルは口を開く。
「…ミクちゃんが狙われるって事か…。」
「だから、メリーさんは、ミクちゃんを助けるために向こうの世界に戻った。というわけですね!こうしてはいられませんよ、タケル!」
モクメが冷静に言った。
「ああ。俺たちも戻ろう!ミクちゃんを助けるんだ!」
タケル達は、モクメの能力で再び元の世界へと戻る…。
それは、一瞬だった。瞬きの間に、景色は荒野から見慣れた町並みへと戻る。
「タケル、着いたよ。」
モクメが言った。
「これがお前の能力か…。凄えよな?」
向こうに渡った時は慌てるばかりだったが、今一度その能力を体感して感心するタケル。
「それほどでもないよ。」
モクメは、謙遜して言った。
「お前、話し方が戻ったよな?向こうの世界じゃ、何か別人みたいだったぜ。転校してきた当時みたいな…。」
「そうかな?自分じゃ分からないけど…。」
モクメは、そう言ってはぐらかす。実の所、そこらへんがモクメがタケルの家に来た理由だったのだが、今はミクちゃんのほうが最優先だ。
「…それより、早くミクちゃんのところへ急がないと!!」
「だな!」
タケル達はミクちゃんがいるはずのタケルの家へと向かう。
「気をつけろよ。ここらにかなりの数の都市伝説が集まって来てやがるからな。」
タケルの肩で、ジンタンが言った…。
「ただいまっ!」
そう言って、勢いよく扉を開けるタケル。
「………。」
返事がない。居間に向かうタケル達。誰もいない…。
「まさか、母ちゃんも一緒に都市伝説達に…!」
タケルは声を上げる。キッチンから出てきたモクメが口を開く。
「タケル、電気も消えてるし、ガスの元栓も閉めてある。どこかに出かけたのかもしれないよ。」
その時。
ガチャ…。
扉の開く音が聞こえる。
「ただいまー。」
「おじゃまします。」
タケルの母ちゃんとミクちゃんが、玄関から入ってくる。
「タケル!帰ってんだろ?小さなミクちゃんだけ家によこして、あんたは何やってたんだい!」
帰って来るやタケルに向かって怒り出すタケルの母ちゃん。
「…無事で良かったー。」
タケルは少し涙ぐみ、安心した顔を見せる。その温度差が妙で、母ちゃんの怒りも鎮火される。
「あんた、泣いてんのかい?」
「泣いてねーよっ!」
タケルは強がった。
「おばさん、またおじゃましてます。」
モクメが挨拶をする。
「あら、モクメ君がいるのに怒鳴ったりしてごめんなさいね。おまんじゅう買って来たけど食べる?」
タケルの母ちゃんは、まんじゅうをすすめる。机の上には数種類のまんじゅうが並んでいる。
「どれでも好きなの食べてね。」
「あ、すいません。」
モクメは、どれにするか選んでいる。ミクちゃんも、買い物に付いて行って買ってもらったのか、グミを頬張ってニコニコしている。
「そのミルク餡のヤツはワシが食うぞ!ワシはミルク餡が大好物なんだ!!」
ジンタンが叫んだ。
「え?ワシって…?」
タケルの母ちゃんが不思議そうな顔で言った。タケルは慌てて、
「あっ!ワシワシ!劇でお爺さんの役やる事になったんだよ。なんかそれが抜けなくて…な、モクメ?」
と言った。
「あ、う、うん。」
振られたモクメも少し慌てながら相づちを打つ。タケルは、小声でジンタンに怒る。
「どういうことだよジンタン!なんで聞こえてんだ?」
「…ミルク餡のまんじゅうを見て、少し興奮しちまった。強い思いは時々届く事もあるんだ…。」
ジンタンは少し恥ずかしそうに言った。
「…モクメ君って、誰かに似てるよね?芸能人とかじゃなくて…。」
突然タケルの母ちゃんがモクメに声をかける。
「昔から知ってる子のような気がするのよね…。誰だったかなぁ?んー、確か、ヤ、ヤ、…八重樫先輩!」
「誰だよそれっ!」
タケルがツッコむ。
「あれ?いなかったかしら?あんたの友達に?」
「知らねーよっ!それより鍵も閉めねーでどこ行ってたんだよ!!」
「どこって買い物よ。ミクちゃんと一緒にね。それに、鍵はちゃんと閉めたわよ。ねぇ?」
タケルの母ちゃんは、ミクちゃんに同意を求める。ミクちゃんは、コクリと頷いた。
「じゃあ、どうして鍵が開いてたんだろう…?」
モクメが不思議がる。しかし、その時!
「!!」
モクメの顔つきが変わる。
「お前も感じたか?」
それに気づいたジンタンは、モクメに向かって言った。
「うん。これは都市伝説の気配だ…。」
「ああ。しかも1体じゃないな…。この家の中に、2体の都市伝説が入り込んでる。」
モクメとジンタンは、気配など微塵も感じないタケルをよそに会話する。しかも、タケル以外には、モクメのひとり言にしか聞こえない。
「都市伝説…?」
タケルの母ちゃんは不思議そうにモクメを見ている。ミクちゃんもキョトンとしている。
「な、何でもないんだよ。母ちゃん。」
タケルはそう言ってごまかそうとする。でも、家の中に都市伝説がいるなんて気が気じゃない。
どこにいるんだ…?
タケルは、キョロキョロと部屋の中を探る。すると、何故か三脚に乗ったビデオカメラが押入れを撮影するように置かれているのに気づく。
「え?母ちゃん、あれ何?」
「ああ。あれね。ビデオカメラよ。」
「わかってるよ!なんであんなとこに設置してんのかって聞いてんの!まさか、録画はしてないよな…?」
タケルの頭に不安がよぎる。
「え?してるわよ。出かける前に録画のスイッチ押したもの。」
タケルの母ちゃんは答える。
「…なんで家の中を録画なんか…?」
「最近、よくものの位置が変わってたり、食べ物がなくなったりするのよね。だから、防犯のために出かける時には録画する事にしたのよ。」
タケルはある都市伝説を思い出す…。
脇に抱えていた都市伝説事典が宙に浮いて、パラパラとめくれていく…。
「うわっ!」
タケルは慌てる。頭の中では、
この事態を母ちゃんにどう説明しようか?と、答えの出ない自問自答がぐるぐる回っている。しかし、
「…あら、すごい手品ね。」
タケルの母ちゃんは、のほほんとして言った。ミクちゃんも、母ちゃんの出す空気のおかげで不思議には思っていないようだ。
「…そ、そうなんだ。はは。……まぁ良いか。」
タケルは、都市伝説事典を手に取ると、そのページに目を通す。読むふりだ。内容は、読まずとも頭に直接入って来る…。
タケルはその都市伝説が何者なのか理解した。
「押入れ女だ…。」
その名前をボソリと呟いた…。
夏のホラー2019用に、
絶望しながら生まれてきた…
という小説を書いています。今、1話を投稿いたしました。
そちらも是非…。




