表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市伝説事典  作者: ニカイドウ
メリーさん編
39/137

8話 都市伝説黒輪

 名前のない女…。

 タケルは、この言葉を思い出すと心臓をつかまれたような気持ちになる。

 これは、俺がその会ったこともない女にビビってるって事なのか…?

 心の中で自分に問いかけるタケル。彼が黙り込んだ事で会話が途切れる…。

 今聞こえているのは、踊るメリーさんの鼻歌と、ススッというかすかなすり足の音のみ…。


「…きっと、ヤツの持っている、母親の携帯ってやつに細工したのも、その女なんだろうなぁ。」


 唐突にジンタンが言った。それを聞いたタケルは、無意識に肩にいるジンタンをつかむ。


「え?細工?どういう事だよ!」


 タケルは、携帯を見るように、つかんだジンタンを見つめて詰めよる。


「いてぇいてぇっ!」


「あ、ごめん。」


 自分の力の強さに気づき、手を緩める。タケルは、反省する。自分の中の恐怖のせいで、力の加減が出来ていなかった…。

 ジンタンは、タケルの開いた手のひらに立つと、


「もうこんな事すんなよっ!…ヤツの負のエネルギー、1体分にしてはやけに膨大だと思ってたんだ。そしたらあの携帯、複数の都市伝説とヤツとをつなげてやがる。そこから他のやつらの負のエネルギーを吸収してるんだぜ。ま、これだけの負のエネルギーを吸収して、まだ正気を保っていられるヤツもスゴイけどな。見てみろよ。」


 と言ってアゴでクイッとメリーさんを見るようタケルにうながす。

 タケルはメリーさんのほうへ目を向ける。彼女はまだダンスを続けている。しかし…。


「!!」


 その動きが滑らかになってきている。体のバランスはおかしいが、肌の質感が人形のそれから、より人間らしくなっているように見える。

 ジンタンは、驚くタケルにこう言った。


「ヤツは負のエネルギーを、人間になるために使ってるんだ。本気で人間に…、あのガキの母親になるつもりのようだなぁ…。」


「どうすれば良いんだ…?」


 タケルは聞く。


「…まずは負のエネルギーの供給源を断つ。あの携帯を破壊するってことだな。」


 ジンタンは答えた。

 タケルは自分に気合いを入れるため、自分に言い聞かせるよう呟く。


「…訳のわからねーヤツにビビってても仕方ねぇ…。」


 タケルは、メリーさんに向かって走り出した。


「おっと!」


 と、ジンタンはタケルの手から飛び降りる。


「ワシはここで見物してるぜ。体があればまだしも、今のワシに戦う力はないからな。」


 ジンタンは、小さな石を椅子がわりにして座った。


「自分の進む道は自分で切り開くっ!こんな時のために、1週間ひそかに練習してたんだ!頼むぜ相棒!」


 と、その手に握られた都市伝説事典に声をかけるタケル。タケルは、走ることで得た推進力を都市伝説事典を持つ右手に込め、ダンっと左足を地面に打ちこむように下ろす。左足を中心に回転し、推進力に遠心力を加える。そして、その力を全て都市伝説事典に込め、メリーさんに投げつけた。


「行けーっ!都市伝説黒輪(こくりん)っ!!」


 タケルは叫ぶ。

 勢いの乗った都市伝説事典は高速回転し、まるで黒い輪っかのようになってメリーさんの方へと向かっていく!

 目指すはその手の携帯電話だ!!

 メリーさんは、まだ奇妙なダンスを踊っている。こっちに気づいていないのだろうか?

 そして今、まさに都市伝説黒輪(こくりん)がメリーさんの持つ携帯電話を破壊しようとその手を襲う!


 サッ…。


 メリーさんは、流れるような動きで都市伝説黒輪(こくりん)をかわす。それは、まるでダンスの振り付けのようだった。

 都市伝説黒輪(こくりん)は、メリーさんの向こう側に消えていく…。


「まだだ…。」


 タケルは呟く。

 そう、都市伝説事典は戻ってくる!


 風の力を受け、さらに回転を増した都市伝説黒輪(こくりん)。豪と音を上げて後方からメリーさんを襲う!

 それは、当たればかなりのダメージを与えられるのではないかというスピードだった。

 しかし…!


 サッ…。


 メリーさんは再び都市伝説黒輪(こくりん)をかわす。

 ただ踊っているだけのメリーさんを、都市伝説黒輪(こくりん)がとらえることは無かった。

 そのままの勢いでタケルの元へと戻る都市伝説黒輪(こくりん)。タケルは、それを両手で受け止める。


 ドッ!!


 その空間が震えるほどの威力だった…。

 タケルの周りに粉塵が上がる…。


「タケルッ!!」


 モクメが叫ぶ。


「あの威力の攻撃をまともにくらったら死ぬかもな…。」


 と、不吉な事を言うジンタン。そして、タケルもその威力に、自分は死んだと思った…。

 粉塵が晴れてゆく…。



「……。」


 あまりの事に声の出ないタケル。まばたきをする。こちらを気にする素ぶりもなく踊り続けるメリーさんが見える…。

 タケルの体のどの部分にも痛みは無い。どうやら生きているようだ。

 タケルは、キーパーが正面から来るボールを受けるような体勢のまま止まっている。そして、その手前に突き出した両手のさらに前方には、回転を続ける都市伝説黒輪(こくりん)がとどまっていた…。


「これは…?」


 タケルは、何かを試すようにそのまま両手を左右に離していく…。

 すると、都市伝説黒輪(こくりん)は、右手の方についていった。タケルは、右手のひらを空に向ける。

 その10センチほど上で都市伝説黒輪(こくりん)は、グルグルと弧を描き回り続けている。時折ビリビリと電気のようなものを発しながら…。


「かっけーっ!都市伝説事典法(じてんぽう)風車(かざぐるま)…。これだな。」


 タケルはニィ…と笑みをこぼす。自分に酔っているようだった。


事典法(じてんぽう)だってよ。拳法みたいに言いやがって。都市伝説黒輪(こくりん)といい、ほんとネーミングセンスねぇよなぁ、あいつ…。」


 ジンタンは言った。


「…。」


 モクメはなんとも言えないと顔で表現した…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ