3話 訪問者
「ただいまーっ!」
ドンッと勢いよく扉を開け、タケルが玄関に入って来る。
「かーちゃん、腹減った!昼飯なに?」
靴を脱ぎながら大声で叫ぶ。
「チャーハン作ってあるから食べな。先にランドセルを部屋に置いて、手洗ってから食べるんだよ!」
居間から、かーちゃんの声がする。タケルよりさらに大きい。
「わかってるよ!」
タケルは、ドタドタと階段を上り、自分の部屋の扉を開ける。部屋の中にランドセルを放り込み、また下に降りる…つもりだった。
「よう!タケル。」
部屋の中から声がする。
「えっ?」
タケルは、手から離れそうだったランドセルの肩ベルトを、指先でなんとか留める。
「おいおい、ワシだよ。もう忘れたのか?」
タケルの目の前には、小さな人体模型があぐらをかいて座っていた。
「なな、ジンタンッ!?」
タケルは叫ぶ。
ジンタンとは、タケルがその小さな人体模型につけたアダ名だ。ジンタンの正体は、学校の理科室にあった人体模型の胃にツクモガミが取り付いたもの。
ジンタンは、あの時、吉川先生の負のエネルギーを喰らい、力を使い果たして人体模型の中で眠っていたのだが…。
「起きたのかよ!よかったー。心配してたんだぜ。でも、なんでいきなり俺の部屋に?」
タケルは心から喜んでいる。
「いやー、1年ここで暮らしてただろ?なんか、学校よりこっちのが落ち着くみたいでな。またよろしく頼むわ。」
と、ジンタンはかなりくつろいだ様子で言った。すでに、寝っ転がって漫画を読もうとしている…。
「おいおい。もしかして、この1年、俺の部屋でそんな事してたの?」
「ああ。この漫画、最新刊だろ?ちゃんと1巻から読んでんだ。お前の部屋でな。」
「えーっ!まさか、とうちゃんや母ちゃんに見つかったりしてねーよな?」
「安心しろ。普通の人間には、ワシは人体模型の胃にしか見えてない。」
「よかった…。って、息子が人体模型の胃を持ってたら親も心配するだろっ!」
タケルがジンタンにツッコミを入れたその時。
ピンポーン♪
インターホンが鳴る。
「はーい!」
母ちゃんは、インターホンで確認もせず、玄関の扉を開ける。そして…
「タケルー!お友達だよ!」
階段の下からタケルを呼んだ。
「今行くーっ!」
タケルはそう答えた後、ジンタンに、
「胃にしか見えないんだよな?」
と再確認する。
「ああ。」
ジンタンは、漫画に夢中で生返事をした。
タケルはランドセルを部屋の角に放り投げる。ちゃんと閉めてなかったのか、中身がドバッと溢れた…。
気にせずタケルは、ドタドタと階段を下りて玄関を出る。
「あっ!」
タケルは少し驚いた。
「やぁ。」
そこに立っていたのは、タケルのクラスメイト。
黒反モクメだった…。