1話 あの出来事から…
あの吉川先生の出来事から2週間が経った…。あの件は集団失神事件も含め、全てガスによる事故とされている。あの日破壊された旧校舎の3階は、まだ復旧の目処は立っていない。今までは3階のみが立ち入り禁止だったところ、崩れる危険もあるということで、旧校舎全体が立ち入り禁止になった。今は周りに黄色いロープが張られている。すでに1週間前から授業も再開され、旧校舎1階に教室のあった2年生の一部と4年生の一部は、新校舎の同学年のクラスに分かれてそこで授業を受けている。そして、旧校舎2階に教室のあった5年生は、残りわずかな1学期の間だけ合同で体育館で授業を受けていた。夏休みに、運動場にプレハブを建て、2学期からはそこに移るという噂だ。
そんな中、6年生は何の変化もなく…。俺…、御堂タケルも普通の学校生活を送っていた…。ジンタンもあれから人体模型の中の定位置で眠ったまま。花子に至っては、鏡のキーホルダーに話しかけても、トイレの鏡に話しかけても返事すらない…。
「…あれは、夢だったんかなぁ。」
俺は、そう思い始めていた…。が、変わったこともある。俺の傷だらけのランドセルの中。そこには、必ず都市伝説事典が入っている。こいつは毎日、勝手にランドセルの中に入って来る。たまに必要な教科書を押し出して侵入するもんだから、忘れ物が増えちまった…。まぁ、前から多かったから、誰も…うちのかーちゃんですら不思議に思っちゃいねーけどな。そして今、俺は下校中。夏休み前の短縮授業中だから、時間は昼の1時前だ。通学路のいつもの場所にアイツがいる。アイツは、いつも居酒屋のゴミ箱を漁っているんだ。
「あ、やっぱりいた…。」
居酒屋のゴミ箱を漁る後ろ姿は、犬にしか見えない。しかし…。
「またお前かよ…。こっち見んなよ。」
そう言って振り向いた犬の顔は、人間の顔だった。そう。アイツは、人面犬だ。
「俺は、人間をちょっとおどかして怖がらせるだけのケチな都市伝説だ。それで得られる負のエネルギーと、ここの残飯で充分生きていける小者よ。おどかし方だって顔を見せるだけの出オチなんだからさ、出来るだけ人に見られたくないわけよ。でも、お前は毎日毎日俺の事見やがって…。」
と、人面犬は不満をぶつけてくる。
「ま、そう言うなよ。仲良くやろうぜ。」
俺は言った。これが日常になりつつあるのが少し怖い…。
他にも、この夕暮町には色々都市伝説が生息していて、学校のプール横の用水路。その深い部分には、児童を引きずり込むという巨大ザリガニが。そして、夕暮中学校の隣の池には巨大アメーバーのハッシーがいた。実はどっちも悪さをするような都市伝説じゃなかったけどな…。ってか、あれから俺は、危険な都市伝説には会ってない。そういうのは少ないのかもな…。
と、いうように脳内で近況報告をしながら帰宅していた御堂タケル。しかし、家まであと数十メートルというところで、彼は不思議なものを目撃してしまう…。それは、携帯電話を持った少女………の人形だった。
「私、メリー。今…A公園にいるの…。」
メリーと言った人形は、電話ごしに誰かと話していた…。