21話 それぞれのその後
その後、俺たちは、小学校の紫鏡のあった踊り場で発見された…。割れた紫鏡の破片と共に…。あの肝試しの日から3日が経っていた…。父ちゃんとかあちゃんからもだいぶ怒られ、警察にも何があったかを詳しく聞かれた。でも、その3日間の事は、正直ほとんど覚えていなかった…。ただ、俺のポケットには理科室の人体模型から取ったと思われる、作り物の胃が入っていて、警察から帰った俺は慌てて自分の机の奥にしまい込んだ。もちろん警察にも親にも話していない…。
あの日学校で肝試しをしたのは6人で、発見されたのも6人。タケシ、じゅんぺい、カゲル、ツトム、モクメ、そして、俺、御堂タケルだ。でも、モクメ…黒反モクメは同じクラスだけど、転校生であまり話したこともないヤツだった。なぜコイツが肝試しに呼ばれたんだろう…?何かが違うような気がして、何かを忘れているような気がして、俺はあれから、心が落ち着かない日々を過ごしている。
でも、あんな事があって、家に帰ってからも散々怒られて…、それなのにかあちゃんは、晩御飯には俺の大好物の唐揚げを作ってくれた。父ちゃんも、あれからすぐに仕事に行ったけど、休みには旅行にでも行こうか?だって…。非日常に憧れるのは、しばらくはやめようと思う…。
ここは、残月小学校…。槇村サトリの通う小学校だ。先生が入って来る。その後に続いて入って来たのは槇村サトリだった。
「…1学期、家庭の事情で休んでいた槇村が、今日からまた一緒に勉強をする事になった。分からない事があったら、みんな教えてあげるように!じゃあ、槇村はそこの席に…。」
そう促された席にサトリは進む。途中、意地の悪そうな女子がサトリの前に足を出す。
「ん?」
サトリは不思議そうにその女子を見る。
「久しぶりじゃん!サトリ。4年の時は楽しかったよね?5年も同じクラスだからよろしくね。」
女子は言った。
「あの…、足、どかしてくれない?」
サトリはその女子に言う。それを見ていた先生は、
「じゃあ、俺は職員室に戻るぞ。仲良くな。」
そう言って出て行ってしまった。
「あの先生は役に立たないよー。何があっても知りませんでしただもん。キャハッ。」
クラスの誰もが見て見ぬフリをしている。
「あの、足…。」
「ごめーん。通行止めなんだ。向こう回ってくれる?」
女子は邪悪な笑みを浮かべる。
「…。」
サトリは何かつぶやく。が、女子には聞き取れない。
「え?何か言った?」
「…好都合だわ。」
サトリは、今度は聞こえるように言った。そして、その女子の足を思いっきり踏みつける。
「いたっ!何すんだよっ!」
睨みつける女子。サトリはニヤリと笑うとその耳元に唇を近づけ、
「赤マント、着せてやろうか…?」
と囁いた。女子はブルブルと震えている。
「久しぶりの登校が心配で見に来ましたが、少しやり過ぎでは?」
天井の方から声がする。それはサトリにしか聞こえない。サトリは天井を見上げ、
「うるさいよ。夕暮小学校に戻りな。」
とつぶやく。
「…そうですね。あれからアイツは現れませんが、記憶のないタケルたちに接触する可能性は高いですからね。では…。」
そう言って、何者かは残月小学校から出て行った…。
残月小学校近くをお母さんと散歩していた幼児が、空を指差してこう言った。
「ママ、目玉…。」
…あれから、どれくらいの年月が経っただろう…?この異次元の牢獄には僕一人だ…。
「でも、ここにはこれがある。」
ヤマトは言った。ひとりぼっちでいると、声の出し方を忘れそうになる…。だから、たまに自分の考えを口に出すようにしている。そして、ヤマトの手に抱えられているのは、都市伝説事典だった。
「…時間だけはたくさんあるからね。僕は、何度も何度も読み返したよ。この都市伝説事典を…。そして、わかった事がある。名前のない霊能師は、この本を必要としている。…だから、彼女は絶対にここに来る!その時こそ、僕が元の世界に戻るチャンスだ!!」
だから、いつ終わるとも知れない、気が狂いそうになるほどの長い時間に、僕は目的を与えた…。この都市伝説事典を暗記するんだ…。一字一句正確に。そして、不思議なことが起こる…。
ある日ヤマトが目覚めると、びっしりと都市伝説が書かれていた都市伝説事典に、白い部分が増えている。
「…ここには確か、死に顔アルバムの事が書かれていたはず…。」
目を閉じると、その白い部分に何が書かれていたのか正確に思い出す事が出来る。
「…これって、もしかして…?」
ヤマトは、他の白い部分も調べる。すると、死に顔アルバムと同様に全て暗記している。
ヤマトは気づく。都市伝説事典から、ヤマトが暗記した部分が次々と消えていっている事に…。
「…どういう事かわからないけど、続けよう…。この都市伝説事典を真っ白にするには、まだまだ時間がかかりそうだしね…。」
そして、1年後…。新しい物語が始まる予感…。