表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市伝説事典  作者: ニカイドウ
一年前の肝試し編
28/137

18話 結城ヤマトと名前のない霊能師

「!!」

ヤマトはがく然とする。サトリを助けるためには、仲間を1人見捨てなければならないなんて…。

「一体どうすれば良いんだ…。」

ヤマトは膝を折る…。

「ふっふっふっ…。これを待っていたわ。人間の不安、恐怖、絶望が私の霊能力を高めるのよ…。今あなたが感じているのは、何かしら?あなたは大病院の息子。他の人よりも命の重さを感じているはず…。だから選べない。そして、もし誰かを選んだとしても、選ばなかったとしても、その答えが正解なのかという不安。間違えてしまったら?という恐怖。そこから逃げ出したいという気持ち。全て私の大好物だわ。でもね、まだまだこれから…。あなたが仲間の1人を切り捨てた時こそ、最高の感情が得られるはずだわ…。絶望という名の、甘い果実がね!」

「ぼ、僕には選べない…。」

「そう…。なら、槇村サトリに死んでもらうしかないわね。この赤マントは、槇村サトリの魂から作られた…。赤マントをこちらに連れて来れば、私が槇村サトリの魂を肉体に戻してあげられるのに…。残念ね…。」

「…やだ…、嫌だ!サトリが死ぬなんて…。僕は耐えられない…。霊能師、僕が誰か1人を選べば、サトリは助かるんですよね?」

「ええ。もちろんよ。」

「…。」

ヤマトは考える。誰を選べば良いんだ…?わからない…。

「こう考えてはどう…?一番必要のない人間を選ぶの…。」

霊能師の悪魔のささやきが聞こえる。

「必要のない人間…。」

誰だ?必要のない人間は…?ヤマトの脳裏にみんなの顔が浮かぶ。タケシ、じゅんぺい、ツトム、カゲル、そしてタケル…。

「もしくは、結城ヤマト、あなたにとって邪魔な人間でもいいわ…。」

「…。」

僕にとって邪魔な人間…。そう考えた時、ヤマトから、人には見えない炎のようなものが立ち昇る。

「ふっふっふっ。その感情は何かしら?ねたみ、そねみ、それに劣等感…。」

「うおぉぉぉ…!!」

ヤマトの瞳が、霊能師に操られた赤マントのように赤黒く光る…。

「待って!これは何?ま、まさか、負のエネルギー?都市伝説にしか作り出せないはずの負のエネルギーを作り出す人間がいるなんて…。コイツは化けるかも知れないねぇ。」

霊能師は、赤マントの顔を歓喜の表情に変える。

「…僕が選ぶのは…僕が選ぶのは…僕が選ぶのは…」

同じ言葉を繰り返すヤマト。その時、

「やめるんだヤマト!そんな考え、お前らしくないっ!!」

ヤマトにかけられた力強い声。

「なんだお前!」

霊能師は叫ぶ。ヤマトは思う。そうだ。僕がピンチの時…、こんな時は、いつも必ず来てくれるんだ。ヤマトは、その人物の名前を呼ぶ。

「タケルっ!」

ヤマトの瞳がタケルを見て元の色を取り戻す。

「おう!」

タケルは軽く手を上げていつも通りの返事を返した。

「くそうっ!もう少しだったというのに…。」

霊能師は悔しがる。そして、タケルをにらみつける。

「なぜだ?なぜ意識を保っている?なぜ動ける?」

タケルは、霊能師…赤マントへと近づき、首元に何かを突きつけて言った。

「質問が多いですね、赤マント…、いや、名前のない霊能師!」

「!!」

霊能師は、タケルの持つ何かに驚く。

「そ、それは………、悪…魔の本だと?」

タケルが赤マントへ突きつけたのは、病院のベッドでサトリが持っていたあの悪魔の本だった…。

「タケル、なぜその本を?」

ヤマトはタケルに疑問を投げかける。

「いや、わからねーんだけどさ、倒れた時に左手が何かに触れた…。それを手にとってみたら、この本だったんだよな。その後しばらく意識を失って、気づいたらこんな状況だったってわけ。」

タケルは言った。

「なるほど。その悪魔の本が、私の霊能力を防いだというわけですね…。でも、何故その本がここに…?」

霊能師の疑問はもっともだった。悪魔の本は、今も結城記念病院のベッドで眠る槇村サトリの元にあるはず…。

「…まさか?」

霊能師は、何かに気づき赤マントの精神のさらに奥へと潜る。

精神世界の中で、鎖に繋がれた赤マントがいる。

「悪魔の本をここに送ったのは、あなたね?」

霊能師の問いに、傷だらけの赤マントはニヤリと笑った。


急に動かなくなった赤マントを見て、呆然とするタケルとヤマト。すると、赤マントがピクリと動く。それに驚く2人。どうやら、霊能師が精神世界から戻って来たようだ。

「…槇村サトリ…。精神世界に閉じ込めたはずの赤マント…槇村サトリの心が、悪魔の本を御堂タケルに渡したのよ…。」

「サトリが?」

2人は同時に言った。赤黒い瞳が2人を睨む。

「でも、それがどうしたというの?今の状況は変わらないわ。誰かを見捨てなければ元の学校には戻れない今の状況はね!」

ヤマトの顔面が蒼白になる。

「そ、そうだ…。誰かを選ばなければ、サトリは救えない…。」

ヤマトの背が、再び負のエネルギーを溢れさせる。

「そんなこと、やってみなきゃわかんねーだろ!!」

タケルが叫ぶ。

「え?」

ヤマトは聞き返す。

「俺は、誰も欠ける事なく全員で元の学校に帰るっ!もちろん、サトリもな!!」

タケルがそう言い切ったその時、赤マントに変化が現れる。

「…タケル。」

赤マントの口からもれたその声は、霊能師の声ではなく元の少女の声だった。

「なっ!赤マント、君なのかい?」

ヤマトはその声に気づき、そう言った。

「ええ。」

「よう、サトリ。久しぶり!」

タケルは普通にあいさつをした。

「タケル…。」

赤マントは再び名前を呼ぶ。

「もしかして、記憶が戻ったのかい?」

ヤマトが赤マントに聞くと、赤マントは首を横に振る。

「いいえ…。残念ながら記憶は…。でも、私の中の何かが、タケルに渡すべきだって言ったのよ。その悪魔の本を…。」

タケルを見つめる赤マント。

「タケルなら、何とかしてくれるって…。」

その時、急に声色が変わる…。

「な、何を勝手にしゃべっている!あんたは私に支配されているはずでしょ?」

霊能師の声だ。

「タケル!悪魔の本は…」

赤マントと霊能師が入れ替わり立ち替わり話を続ける。

「やめろっ!」

「敵じゃないわ…」

「このっ!往生際が悪いわねっ!!」

「あなたの心次第で…」

「これでどうっ?」

霊能師が手で印を結び、呪文のようなものを唱える。

「きゃあああああ…!」

赤マントの叫び声…。その後、赤マントの口は、か細い少女の声を絞り出す…。

「ヤマト…、もし、どうにもならない時は…私を………置いて…て………。」

少女の声が消えていく…。

「ふっふっふ…。これで完全に支配したわ…。」

「お前、なにやってんだよ!」

タケルは怒りをあらわにする。

「お?やるのかい?この体は槇村サトリの魂で出来てるんだけどね…?」

そう言われると、手出しできない…。

「クソッ!」

タケルは、ガンと靴箱を蹴る。

「タケル…。」

ヤマトがタケルを呼ぶ。

「さっき、赤マント…サトリは自分を置いて行けと言った…。でも、僕にはそれだけは出来ない。僕がみんなの中から置いていく1人を選べば、ほかの人は助かるんだよ。」

「選んじゃダメだ!ヤマトッ!!」

タケルは叫ぶ。悪い予感がする。でも、ヤマトの意思は変わらない。

「僕は選ぶよ…。」

ヤマトは言った。しかし、何故か負のエネルギーは出ていない…。

「ヤマト!!みんなで出るんだ!なぁ、聴いてるか!?ヤマトッ!!」

タケルはもう気づいていた。ヤマトが誰を選んだのかを…。だから、だからこそ止めなければいけなかった…。タケルの気持ちをよそに、ヤマトの口が開いていく…。

「…置いていくのは結城ヤマト。僕自身だ…。」

ニヤリ…。悪意を持った笑みを浮かべる赤マントの口…。そして、

「その選択、受け取った…。もう変えることは出来ないわよ結城ヤマト…。あなたは、さっきこの赤マントが7番目かと聞いたわね?その答えはNOよ…。これより、夕暮小学校七不思議の7番目を発動する…。その名は…、6人目…。3年に一度、夕暮小学校では、決まって6人の児童が行方不明になる。そして、これも決まって3日後に紫鏡の前で発見される…。その6人は、行方不明になっていた時の事をほとんど覚えていないらしいのだけれど、実は彼らは異世界に迷い込んでいたの…。そして、その中の1人は、実は異世界からやってきた人ではないものなのよ…。」

霊能師の声がそう語ると、廊下の奥の方から何かの気配を感じる。

「…この背筋が寒くなるような感じは何だ?」

タケルは言った。

「あっちは旧校舎につながる渡り廊下の方だ…。」

そして、タケルとヤマトの視界に映り込んで来たのは、無数の白い手…。2人は知らないが、それはタケシを襲った、紫鏡から出る白い手だった。あの時、この白い手が渡り廊下を渡らなかったのは、渡れなかったからではなく、…まだその時期じゃなかったから…だった。

「向こうには…まさか、紫鏡…?僕が来た時は紫のモヤすら出てなかったはず…。」

ヤマトはつぶやく。

「クソッ!」

タケルは両手で悪魔の本を握りしめると、それに話しかける。

「なぁ、お前は敵じゃないんだろ?なら、なんか助かる方法はないのかよ?頼むっ!時間がねぇんだよ!!」

無数の白い手は、すごい勢いで迫ってくる。

「タケル、赤マントはきっとこう言いたかったんじゃないかな?悪魔の本は、君の心次第で善にも悪にもなるって…。もしそうだとしたら、君はその本に何を望む…?」

ヤマトはタケルに問いかける。

「何を望むって、そんなの急には思いつかねーよ!でも、最近、俺は日常をつまらねーって感じてた…。そう、今みたいな状況にならねーかって心の中でずっと望んでたんだ。でも、その霊能師みたいな敵?が現れて、仲間の誰かが傷つくような状況になって…」

タケルは、悪魔の本を握る手に更に力を込める。ヤマトはタケルの顔を見る。その顔は、眉間にしわを寄せ、歯をギリギリとならし、怒りを表している。タケルは再び口を開く。

「納得いかねーんだよっ!俺の望んでた非日常がやって来たんだ!いまさら普通の日常になんか戻りたくねーっ!だからって誰かを犠牲にして生き残るなんて俺はしたくないっ!…俺は誰もみすてたりなんかしねぇっ!タケシもじゅんぺいもツトムもカゲルも、ヤマト、お前も!そしてサトリ!お前も俺が助けるっ!!非日常も手に入れるっ!!だから何でもいい!力を貸しやがれ!!悪魔の本っ!!!」

そのタケルの叫びに答えるように、悪魔の本のその表紙に変化が現れる…。表紙の中央が、虫が這うようにうごめく。そして、その虫たちが、黒い本の表紙に文字を浮かび上がらせてゆく…。

そこに記された文字は…

都市伝説事典…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ