2話 動く人体模型
「うわっ!」
タケルは、黒い本を投げ捨てる。しかし、床に叩きつけられたその本から目が離せず、タケルは、その表紙に浮かび上がった文字を口に出す。
「都市…伝説事典…?」
すると、黒い本は床から離れ、タケルの左手に吸い付くように戻った。
「う、うわーっ!」
タケルは、その本を手から離そうと、ブンブンと左腕を振りまわす。しかし、接着剤で固定されたように、本は手から離れない。それどころか、左腕が、自由を奪われたかのように、タケルの意思とは無関係に本をタケルの前へと持っていく。
「い、いったいなんなんだよ!ま、まさか!人体模型の呪い?」
視線が都市伝説事典に固定され、人体模型のほうを向けないのは唯一の救いか…?
タケルは、抵抗できないまま、今、まさに、都市伝説事典がタケルにとって読書に最適な位置に…。
バラバラバラッ!
すごいスピードで、ひとりでにページがめくられてゆく。
「!!」
タケルは、驚きと恐怖で声もだせない。ただ、その目は、都市伝説事典のページに惹きつけられ、そらせずにいる。
白紙、
白紙、
白紙…。
そして都市伝説事典は、ついにあるページを開き、止まる。
そこに書かれていたのは…。
「…動く人体模型!」
タケルはその文字を声に出す。額に汗がにじむ。
「!!」
その時、何かを感じるタケル。とっさにその場にしゃがみ込む。
ブゥン!
何かが空を切る。それは、タケルの頭のあった位置だ。
「な、なんだ!?」
タケルはその正体に目を向ける。
それは、紛れもなく腕。左半身が筋肉むき出しになったそれ。内臓を撒き散らしながらタケルを襲うそれは、人体模型。
学園七不思議の一つ、動く人体模型だった…。
「うわーっ!」
走り出すタケル。
都市伝説事典は、いまだ左手に吸いついたままだが、身体は自由になったようだ。
タケルは、バンッと叩きつけるようにドアを開け、廊下に飛び出す。
「おいっ!廊下を走るな!」
「今、そんな場合じゃねーだろ!ばかやろーっ!」
タケルを注意する先生にそう言い捨てて、階段へと向かうタケル。
「どこに逃げればいい?」
上か下か?
「こっちよ。」
上から声がする。
タケルは導かれるように階段を上へと進む。
そこは3階。タケルは、渡り廊下へとたどり着く。
後ろを振り返ると、動く人体模型が階段から姿をあらわした。
「渡って!」
声が聞こえる。
「いや、旧校舎の3階は、児童は立ち入り禁止…」
「良いから早くっ!」
声にうながされ、タケルは、再び走り出す。渡り廊下を渡ると旧校舎だ。
「そのまま奥へ。」
タケルは、声のする方へと走る。
「!」
声に導かれるままたどり着いた先は…、行き止まりだった。
振り返るタケル。もう逃げ場のないことに気付いたのか、人体模型は、勢いを緩め、ゆっくりとタケルへと近づく。
「もう、ダメだ…。」
タケルは、諦めかけていた。
その時。
「何してるの!こっちよ!」
タケルを導いた者の声がした。
タケルが振り向くより先に、何者かがタケルをつかみ、引き寄せた。
「うわっ!」
行き止まりかと思っていたその先に引きずり込まれる。
「だ、誰だよ!はなせっ!」
タケルが振りほどこうとした手は、すでにタケルから離れていた。
「えっ?」
タケルは、辺りを見回す。誰もいない。
「何なんだよ一体…。」
そう言った後でタケルは気付く。
そこは部屋だった。入り口近くには手洗い場。それより奥には扉が並んでいる。
「トイレ…?」
タケルはつぶやく。
小便器がない。女子トイレのようだ。並んでいるのは個室の扉。6つあるうちの5つは開いている。が、左から3番目の扉だけが閉まっていた。
その扉の中から声が聞こえる。
「タケル、もうわかっているでしょう?早くしなさいよ。」
「え?」
「え?じゃないわよ!早く呼び出しなさいよ!」
「呼び出すって言われても…。」
「旧校舎、女子トイレ、左から3番目って言ったら私しかいないでしょ?」
タケルはわかっている。でも、呼び出して良いのか?
これは、学園七不思議の一つ。一番有名だと言ってもいいあの都市伝説…。
「もう!なにしてんのよっ!助けてあげるって言ってんの!」
その言葉が本当なのかはからない。でも、人体模型から逃れるためには、同じ学園七不思議の力を借りるしかないのではないか?
タケルは、意を決して左から3番目の扉の前に立つ。
「いくぞっ!」
そう言って自分を奮い立たせる。
そして、3回扉をノックする。
コン…コン…コン…。
ゴクリと唾を飲み込み、息を吸い込む。そして、大きな声で一気にあの言葉を唱えた。
「はーなーこーさんっ!あーそーぼっ!!」
左手の都市伝説事典が、バラバラとページを選び始める。そして、開いたそのページに書かれていたのは…。
ギィー。
古い扉が音を立てて開いていく…。少しづつ中のようすが見えてくる。
扉の中から現れたのは、同い年くらいの少女。
彼女はタケルと目が合うと、ニッコリと微笑みながらこう言った。
「私はトイレの花子。タケル、あなたを助けてあげるわ。」