9話 死に顔アルバムと赤マント
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰かの叫び声に、タケルは飛び起きる。
「うわぁっ!な、な、なんだ?」
あたりを注意深く見渡さなくても、ここが自分の部屋じゃないことは確かだ。
「…なにしてたんだっけ…?」
タケルは、まだ回らない頭で考える。…そうだ。肝試ししてたんだった。タケルは、今までの事を思い出していく。タケルの脳裏に、ホルマリンの満たされたビンの中、殺人鬼のバラバラ死体がうごめく映像がフラッシュバックする。
「うわぁっ!」
慌てて立ち上がるタケル。そこでタケルは、自分のいる場所に気づく。そこは、理科準備室ではなかった。
「え?理科室…?オレ、いつの間にここに来たんだ…?」
考えてもわからない。先ほど脳裏に浮かんだ映像以降の記憶がない。
「…ま、良いか。アレも気のせいだろ?」
腑に落ちない部分はあるが、タケルは、理科準備室での出来事を夢だと思う事にする。そして、都合良く理科室にいる事を喜ぶ。なんせ、タケルの目的は、理科室の人体模型から内臓を持ってみんなの元へ帰ることだ。
「よーし!んじゃ、もらって帰りますか!」
タケルは、人体模型のある教壇の奥へ目を向ける。
「あれ?」
そこに人体模型は………、ない。
「どこにいったんだ?」
タケルは理科室の中をひと通り見る。タケルの正面にはいない。そして、後ろを振り返る…。
「!!!!」
タケルの背後、鼻がこすれるかこすれないかくらいの至近距離にそいつはいた。
「うわぁっ!」
タケルは、後ろに倒れ込む。危うく机の角に頭をぶつけそうになる。人体模型だ…。
「な、なんでこんなとこにいるんだ?まさか、噂通り動いたんじゃないよ…な?」
タケルは、動くな!と念じながら人体模型を凝視する。それの頭の先から足の先までを、まるで呪いをかけるかのようにじっくり…。
「…。」
…人体模型は動かない。
「良かったー。」
タケルは、胸をなでおろす。そして、タケルは気づく。人体模型のその体中に、無数の傷があることに。
「こいつ、こんなに傷だらけだったんだな。」
そして、再び殺人鬼のホルマリン漬けの事を思い出す。
「もしかしたら、こいつが助けてくれたんだったりして…なんてな。」
タケルは、そう言ってフフッと笑うと、
「じゃ、まぁ、頂戴させていただきます!」
そう言って深々と頭を下げ、人体模型の内臓へ手を伸ばす…。タケルは、その中から無作為に胃を手に取った。
「すぐに返しますんで!」
そう言って、人体模型に手を合わせた後、タケルは、理科室を出ようと扉へ向かう。
「…そういえば、さっき、タケシの悲鳴が聞こえたような…?」
タケルが飛び起きるきっかけとなった、あの悲鳴のことだ。
ガラガラガラ…。
タケルは扉を開け、理科室から外へ出る。扉に鍵はかかっていなかった。
時間を少しさかのぼり、タケルのいた理科室から職員室へと話を戻そう。
タケシたちのピンチに、扉から入って来たのは、旧校舎3階で別れたヤマトだった…。
「ヤマトくんっ!」
ツトムは、まるで救世主が現れたかのようにヤマトの名前を呼ぶ。
「ツトムくん、もう大丈夫。」
ヤマトは、そう言うとタケシたちの方へ顔を向ける。タケシたち3人の手は、ほぼアルバムを開いている。
「助けてくれー、ヤマトー!」
「見える!見えるーっ!」
「し、死にたくないよーっ!」
タケシ、じゅんぺい、カゲルの3人は、そのような事を口々に叫ぶ。
「結城、お前も見たいのか?死に顔アルバムを…。」
そう言ったガイコツ先生には目もくれず、ヤマトは呟く。
「…、タケシくんたちと死に顔アルバムのつながりを切れるかい?」
「…やってみよう。」
ヤマトの背後から声がする。その声は、ヤマトにしか聞こえない…。
「なんだ、都市伝説のくせに人間に味方するとは、面白いなぁ。お前…。」
ガイコツ先生には、ヤマトの背後にいるものが見えているようだ…。それは、赤いマントを身にまとう少女だった。両手には、大きな包丁を一本づつ持つ…。
「怪人・赤マントだろ?トイレに入った人間を、まるで赤いマントを着たように血まみれにして殺す殺人鬼…だよな?正体は人間か幽霊か?その様子だと幽霊みたいだけどな。」
「え?ゆ、幽霊?そこに幽霊がいるの?」
ツトムは、ガイコツ先生の言葉を聞き、後ずさる。
「大丈夫、ツトムくん。彼女は敵じゃないよ。」
ヤマトの声は優しかった…。
しかし、ここに、一つの疑問が浮かぶ。ヤマトは、旧校舎の3階奥にあるトイレの中、この怪人・赤マントに襲われたはず…。なのに、なぜ2人は一緒に行動するようになったのだろうか?
それは、ヤマトが、なぜこの肝試しに参加したのか?という事につながる…。