8話 職員室
職員室へ向かうタケシたち。タケシは、職員室の扉の前に着くと、忍者のように壁に背をつけて扉の窓から中をのぞく。
「…あ。」
タケシの口から声がもれる。職員室の中には、一人の先生が机に向かって座っていた。そして、その席は、5年3組の担任、桜田先生の席だった。
「桜田先生?」
タケシは小声で言った。言葉の最後が疑問符なのは、違和感があったからだった。先生は、机の上で、何かをしているようだ。タケシは、目をこらすが、手元まではよく見えない…。その時。
「あ、桜田じゃん!」
そう言って、じゅんぺいがガラガラと扉を開けてしまう。
「ちょっ!」
タケシは、慌てて止めようとするが、後の祭りだった。職員室に入って来た生徒たちに気づき、先生は振り返る。
「なんだ、お前たち。こんな時間に。」
そう言ったのは、やはり、担任の桜田先生だった。しかし、言葉に抑揚がない。顔も青白く、生気がないように思える。
「先生、大変なんだ!学校がお化け屋敷みたいになってるんだよ!」
タケシが訴える。
「ハッハッハッ。せっかくこんな時間に職員室に来たんだ。見ていくかい?」
「え?」
タケシは不思議に思う。先生と言葉がかみ合わない。
「おっ!見る見る!さっきチラッと見えたんだけどさ。桜田、今、なんか読んでたよな?まさか、エッチな本とか?」
じゅんぺいが先生の言葉に食いつき、近づいていく。
「や、やめたほうが良いよ…。」
ツトムが言った。ツトムもこの違和感を感じているようだ。と、タケシは思った。その時、タケシは、またカゲルの姿がないことに気づく。
「あれ?カゲルは?」
突然、カゲルの声がする。
「イェーイ!エロ本ゲットだぜ!」
桜田先生の机のほうだ。カゲルはその特技を活かし、気配を消して桜田先生が読んでいた本を取りに向かっていたのだ。カゲルが、その本をパラパラとめくる。
「なんだこれ?エロ本じゃねえぞ。ほとんどジジイとババアの写真しかのってないし!」
「ほんとだ!桜田、へんな趣味してんなぁ。ってか、こんな感じの本、見たことあるような…?」
いつの間にか、じゅんぺいまでもが桜田先生の机で本を見ている。じゅんぺいは、記憶の中から似たような本を探す…。
「あっ!そうだ!ばあちゃん家にあった、親父の卒業アルバムってやつだ。でも、なんでジジババばっかりなんだ…?」
「ふふふふ…。」
桜田先生が笑い出す。
「実はね、先生、夜中に君たちの卒業アルバムを作ってたんだ…。」
「え?卒業って、オレたちまだ5年だぜ。早すぎじゃない?」
カゲルが笑いながら言う。
「しかも、これ、オレたちの卒業アルバムじゃねーし。」
じゅんぺいが言った。
「いいや。君たちの卒業アルバムだよ。よく見てごらん。」
桜田先生の言葉を受け、カゲルとじゅんぺいは、開いていたページをよく見る。左側のページの上に、5年1組と書いている。
「え?5年1組?写真の下に名前も書いてるぞ。浅山、井伊、五十嵐…。」
じゅんぺいは、名前を読み上げる。
「え!五十嵐って、サッカークラブの五十嵐か?確かアイツ、5年1組だぜ!」
カゲルは、そう言って、写真をまじまじと見つめる。写真は老人だ。が、五十嵐の面影があるような気がする…。
「そうそう。安らかな寝顔だろう?五十嵐くんは、老衰だ。家で家族に見守られながら安らかに逝くんだ…。」
桜田先生は言った。
タケシは戦慄する。聞いたことがある。これは、夕暮小七不思議の一つだ!タケシは叫んだ。
「カゲル!じゅんぺい!見ちゃダメだっ!!」
カゲルとじゅんぺいも、何かに気づいたようで、慌ててアルバムを閉じる。桜田先生が口を開く。
「そのアルバムは、人生の卒業アルバム…、死に顔アルバムだよ。さぁ、遠慮せずに、君たち自身の死に顔も確認するといい。はははははははは…!」
夕暮小七不思議の一つ、死に顔アルバム。深夜の職員室に行くと、一人の死人のような先生が作っているという卒業アルバム。自分の写真を見てしまうと、髪が真っ白になって死んでしまうという…。
「どうしたんだい、臼井くん、狭山くん。自分の死に顔、気になるだろう?」
桜田先生が誘う。すると、カゲルもじゅんぺいも、自分の死に顔が気になって仕方がなくなる。
「見た…くない…のに、見…たい…!」
「お、オレもだ。じゅんぺい…!」
そう言って、2人は再び死に顔アルバムを開こうとする…。
バンッ!
タケシが2人に駆け寄り、慌てて閉じる。
「触ったねぇ。君ももう死に顔アルバムから逃れることは出来ないよ。」
桜田先生の声が、重く鈍く響く…。桜田先生の顔から、さらに生気が抜け、青白さが一層増す。ほほがさらにこけていく…。ゾンビ…いや、ゾンビというよりもすでにガイコツに近い。
「ははははははは…。」
ガイコツ先生の、抑揚のない笑い声が響く。
アルバムを閉じるためのタケシの手が、アルバムを開いてゆく…。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
タケシの叫び声…。その時!
ガラガラガラッ!!
職員室の扉が開く。1人、震えていたツトムは、その音に怯える。次は一体何が入ってくる…?しかし、次の瞬間、怯えたツトムの表情が安堵へと変わる。
扉の向こうから現れたのは、ヤマトだった。
「…、タケシくんたちと死に顔アルバムのつながりを切れるかい?」
ヤマトはひとり言をつぶやいた…ようにツトムには聞こえた…。




