7話 紫鏡とウスイカゲル
さて、旧校舎の2階に降りて来たタケシ、じゅんぺい、ツトムの3人だったが、案の定、2階の渡り廊下の扉にも鍵がかかっていた…。
「よしっ!じゃあ1階に行こう!!」
クジ引きで当たりを引いたように嬉々とした声でじゅんぺいは言った。
「いや、俺は行かない!ここに残る!ここでヤマトを待つ!」
タケシがきっぱりと言う。
「僕も…。」
頼りない声でツトムも同意する。
「えーっ!じゃあ仕方ねー。一人で行くか…。」
じゅんぺいは、そう言って階段へ戻って行く。タケシは、ツトムを見る。2人っきりになった所を想像してみる…。
「ダメだ…。ちょっと待てよ、じゅんぺーっ!!」
そう言って、じゅんぺいの元に駆け寄り、手を掴むタケシ。
「これ以上人数を減らしたらダメだ!危険過ぎる。」
真っ当そうな理由をつけるタケシ。じゅんぺいの足には、ツトムが絡みつく。
「なんだよっ!歩きづれーな。」
じゅんぺいは、そう言いながらも歩き続け、3人は階段のある曲がり角まで戻って来ていた。…その時!
「ガォォォォォォォォォ!」
階段の上のほうから、獣のような声がした。声の主は、ダン、ダンッと階段を降り、その場所に近づいてくる。
「うわぁーっ!!」
タケシは叫ぶと、階段を下へと走り出した。
「ヒィィ!」
「ちょっ!待てよ!」
ツトムとじゅんぺいも、タケシを追う。
しかし、タケシは慌て過ぎて、2階と1階の間の踊り場でコケてしまう。
「ぐわっ!」
タケシは、壁に顔から突っ込んだ。
ドンッ!
間一髪、両手を壁に付いたおかげで、なんとかケガは免れることが出来た。
「いってー!」
付いた両手がジンジンしている。
「おいおい大丈夫か、タケシ?」
じゅんぺいは心配そうに言った。ツトムも
痛々しい顔をしてタケシを見ている。タケシは、付いた両手の痛さで下を向いたまま答える。
「ああ。手はジンジンしてるけど、なんとか…な。」
「いや、そうじゃなくてさ、その手、どこに付いてると思う?」
じゅんぺいの言葉にハッとして、顔を上げる。そこにあったのは、大鏡。
「…それが、夕暮小七不思議の一つ、紫鏡だぜ。」
じゅんぺいは言った。タケシは、望まずして、その紫鏡をのぞく格好となってしまった。動こうにも、まだ両手に力が入らない。鏡には、当たり前だが、タケシ自身が映っている。慌てて目を逸らそうとするタケシ。しかし、タケシは見てしまう。鏡に映る自分の後方から、紫のモヤのようなものが近づいてくる…。
「うわぁぁぁ!!」
「!!」
じゅんぺいが、異変に気付いてタケシに歩み寄ろうとしたその時!紫鏡の中から、無数の白い手がブワッと出現し、タケシを引きずり込もうと彼を包み込んだ!!タケシは何か叫んだが、白い手に遮られる。
「しまった!遅れたっ!!」
じゅんぺいが叫ぶ。
「タケシくんっ!」
ツトムも、今までにない大声をだす…。
「まだだっ!」
2階の方から声がするが早いか、何者かがすごい勢いでタケシの方へ駆けていく。
「うおーっ!」
何者かは、白い手の包囲網に突っ込む。そして、中からタケシを引きずり出す。
「タケシ!」
何者かは、放心状態のタケシの尻を叩く。
「え?お前…」
タケシは何かを言いかける。が、
「今はそんな場合かよ!走れ!走れなくても走れっ!」
さらに尻を叩く。
「お前たちも行くぞ!急げっ!」
何者かは、じゅんぺいたちにも叫んだ。
逃げるタケシたち。白い手は、彼らを追う。
1階の渡り廊下は、屋根も壁もあるトンネルのような通路になっている。タケシたちは、その渡り廊下へ進入する。じゅんぺいは、走りながら何者かに話しかける。
「なぁ、カゲルだよな?」
「なんだよ今さら。」
カゲルと呼ばれた少年は答える。彼の名は、臼井カケル。5年3組のクラスメイト。クラスで一番足の速いサッカー少年だ。が、しかし、彼のあだ名はウスイカゲル。名前をもじったということは、容易に想像できるだろうが、彼は、そのあだ名のとおり、かなり影が薄い。一緒に遊んでいる友達が、誰もカゲルと遊んだことを覚えていないほどに…。その特技が、サッカーに活かされて好成績を得ているのだが、それはまた別の話…。
「なんでカゲルがここにいるんだ?まぁ、いてくれて助かったんだけど…。」
タケシが言う。
「いや、俺、最初からいたよ。夕暮霊園から。」
「嘘だろ?」
「嘘じゃねーって!6番目に肝試しに行って、ニット帽取ってきたじゃん!」
「えー?覚えてねー。」
「俺も。」
じゅんぺいも話に入る。
「もー、やめてくれよな。さっきも置いて行かれたし…。おーいって言ったのに、走って逃げるんだもんなー。」
「え?あの階段の上から聞こえたのって、お前の声だったの?」
タケシは驚いている。カゲルの声が階段に反響して、獣のような声に聞こえたのだろう。
「さすがカゲル。」
じゅんぺいはふざけてそう言ったあと、後ろを振り返る。
「あっ!」
じゅんぺいは声を出す。
「なんか、もう大丈夫みたい。」
「え?」
ほかの者たちも振り返る。すると、白い手は、渡り廊下の入り口で止まっている。
「なんか、追っかける気まんまんっぽいけど、こっちには来れない感じ…?」
カゲルは言った。
「…。」
誰も何も言わない。
「…聞こえてねえのかよっ!」
カゲルはツッコんだ。
メンバーがタケシ、じゅんぺい、ツトム、カゲルの4人になった彼らは、新校舎へと入った。入って真正面の階段を上がり、理科室のある2階へと向かう…。そして、2階に到着する。
「この2階から3階まで向かう階段が、夕暮小七不思議の一つ13階段なんだけどなぁ。」
じゅんぺいは、独り言をつぶやく。
「行くぞ!じゅんぺい!」
タケシは言った。
「はいよ。…試したかったんだけどなぁ。」
残念そうに言うと、2階の廊下へ出る。左へ向かうと、タケルの向かった理科室だ。しかし…。
「アレ見て。」
ツトムが口を開く。みんなが彼の方を向く。すると、彼の指は、右を差していた。その指差すの方向を確かめる。
「あっ。」
タケシが見つけたのは、明かりの灯った部屋だった。その部屋は、職員室。
「きっと先生がいるんだよ。」
ツトムが言った。
「よし、状況が状況だ。大人に助けを求めよう。」
タケシはそう決断した。