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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
133/137

29話 エディネアが来た

「……はいはい、茶番はもう終わりですよ。」


 その時、声が響いた。

 それは、校長先生でも、赤ぼうずでも、タケルの声でもない。

 3人は、声のした、校長室の片隅を見つめる。

 すると、そこには、異次元に通じるような穴が開いてゆく……。

 そして、その穴から出現したのは、タケルの父、御堂虎之介……の体を借りた謎の男、エディネアだった。先程の声も、彼のものだったのだ。


「エディネア……。万に一つ、体を取り戻した父ちゃんだったりは……?」


 タケルは、希望的観測を口にする。


「……しないなぁ。」


 エディネアは、父ちゃんの顔でタケルに言った。


「さぁ、タケル行きなさい!後はあなた次第ですっ!!」


 校長先生はそう言うと、目を瞑り、両手を広げる。両手とも親指と人差し指で円を作り、他の指は広げ、手のひらは前を向いている。

 彼女の周りに力が溢れ、渦巻いているのを感じる。


「……良いんですか?」


 エディネアは下卑た笑顔を浮かべる。


「タケルを逃したとしても、どうにもなりませんよ。何故、相馬絵名の世界の一部であるこの校長室が都市伝説事典に取り込まれて居なかったのかは不明ですが、私がここに来たと言う事は、都市伝説事典にも認知されたと言う事。ここもまもなくデータとして都市伝説事典に取り込まれます。もちろん校長先生、相馬絵名の世界の都市伝説であるあなたも例外ではない。そして……」


 彼は『黒反モクメ』を睨み、


「言うことを聞かない黒板の目も、すぐに消してやるよ。」


 と凄みの効いた声で言った。


「ば、ばあちゃんっ!!」


 不安そうに叫ぶタケル。


「大丈夫!後は頼むわよ、タケル!!」


 校長先生がそう言った瞬間、タケルは時空を飛んだ。



 次の瞬間、タケルがいたのは夜の学校。

 話数で言うなら、一年前の胆試し編の20話。

 タケルは、夕暮小学校七不思議の1つ、紫鏡に捉えられている。

 この直後、ヤマトはタケルの代わりに異次元の牢獄に閉じ込められてしまうのだ。


『今なら、俺がヤマトの代わりになれる!』


 タケルはそう考えて、行動に移そうとする。

 突如、黒板の目が叫ぶ。


「タケル、ここじゃないっ!この分岐点はそのままじゃないとダメだっ!!」


 姿は黒板の目のままだったが、声は赤ぼうずの……いや、結城ヤマトの声だった。

 そして、再び場面が変わる。



 そこは、夕暮小学校体育館。

 次元の穴から現れた真のアカシックレコードに、今、まさにクラスメイトのタケシが粒子状に分解され、吸収されようとしていた。話数で言えば、都市伝説事典編24話。


「これこそが世界の終焉!終末を楽しめ、子供らよ!!」


 と、虎之介が邪悪な笑みを浮かべている。

 そして、


「……ついに終末か……」


 と黒反モクメが呟いた。瞬間、モクメの服が、体が、まるで内側から染み出したかのように血の色に染まっていく……。


「……な、なんだ!その姿はっ?」


 モクメの変化に驚くエディネア。


「……オレ、赤ぼうずやで。」


 モクメ……赤ぼうずはお決まりのセリフを言った。


「赤ぼうず?なんだそれは?」


 怪訝そうに赤ぼうずを眺めるエディネア。


「残念だね。エディネア。この世界はもう消す事は出来ないよ。」


 赤ぼうずは、先ほどのエディネアを真似て、邪悪な笑みを浮かべる。全身の血のような赤によって、エディネアよりラスボス感が強い。


「ハハハ…何を言っている?見てわかる通り、この世界は既にデータ化し、真のアカシックレコードへと吸収されつつある。それはもう止めることの出来ない事実なのだ!」


 エディネアが言った。人を馬鹿にしたような物言いだ。


「いや、そうはならない。何故なら、タケルは既にマトリョーシカを発動したんだからね。」


 赤ぼうずは言った。そして、赤ぼうずは嬉しそうに移動し、ある人物の元へ向かう。

 その人物が、口を開く。


「……その通り。エディネアさんよ。あんた、俺たちが何をしたのか知りたいか?」


 それは、自信満々な笑みを浮かべた小学6年生。この小説の主人公、御堂タケルだった。




 さて、読者の皆様には、タケルが、校長先生の能力で分岐点へ向かった後から話そうか?

 いや、その前が先か……?

 校長室にエディネアがやって来る直前。話数で言えば、都市伝説事典編28話。つまり、前回。そのラストと今回を繋ぐ、僅か数分の出来事……。


 校長先生が言うには、強大な能力を使うにはコツがいるらしい。


「……コツ?それってパン職人が美味いパンを焼いたり、寿司職人が納得いく寿司を握れるようになるくらい時間がいるんじゃ……?」


 タケルは不安そうに、校長先生に聞き返す。

 すると、校長先生からは、あまりにも軽い返事が返って来た。


「いいえ。今教えるコツっていうのは、百均で便利グッズを買うくらい簡単な事なのよ。」


「「ひゃ、百均!?」」


 タケルだけではなく、隣で聞いていた赤ぼうずも驚いている。


「まぁそれは、私が昔、タケルに施した下準備のおかげというのもあるのですけれど……ね。」


 校長先生は自慢げに少しふんぞり返ってみせる。

 しかし、その愛らしい姿勢も、ものの数秒。

 彼女は真剣な表情になり、話を続けた。


「タケル、良く聞きなさい。強大な能力を使うために必要なのは……」


「必要なのは……」


 無意識に校長先生の言葉を復唱するタケル。


「…………名前を付ける事。」


 校長先生は言った。


「「名前??」」


 タケルと赤ぼうずは予想外の答えに戸惑う。

 そんな2人の反応など気にせず、校長先生は続ける。


「言霊って聞いた事くらいあるわよね?言葉には、力が宿るのよ。能力に名前を付け、言霊の力を使って能力を支配するの。しかし、どんな名前でも良いわけではないわ。その能力に沿った名前。その能力にふさわしい名前を付ける事こそが強大な能力を操るために必要な事なのよ!」


 校長先生は、そう言うと、何かを待つように目を閉じて、動きを止める。


「え?」


 タケルはその間の意味が理解できない。

 赤ぼうずは、何やら考え込み、


「なるほど。」


 と言った。


「おい、ヤマト?なるほどってどういう意味だ?」


 タケルは、赤ぼうずに質問する。彼は答える。


「……つまりは、タエさんは君の能力に、とても素晴らしい名前を付けてくれたという訳だよ。ですよね?タエさん。」


「その通りよ。さすが結城ヤマトくん。」


 校長先生は、にこやかに答えた。つまり彼女は、目を閉じ、称賛の声を待っていたという訳だ。

 なんとチャーミングな女性だ。


「能力の名前って、マ……。あ、言っちゃいけねーんだったな。」


 タケルが慌てて口を塞ぐ。


「いいえ。言ってみなさい、タケル。けれど、今から私が言う事をしっかりと心に刻み込んだ後に……ね。」


 校長先生は、真剣な眼差しでタケルを見つめる。


「……あ、ああ。で、オレは何を心に刻み込めば良いんだ?」


 タケルが、彼女にそう質問すると、彼女は一字一句丁寧に話し始める。


「……あなたの能力は、あなたの中にある膨大な魂のエネルギーを体外に放出する事により、その範囲内の全てを支配することが出来るわ。更に、その魂の外側に肉体を再構築し、その内側にある全てのものをあなた自身の内に取り込む事が出来る。タケル、今まであなたが使えたのは、この能力よね?」


「あ、ああ。多分そうだ。」


 タケルは答える。


「それは、小さなマトリョーシカにひと回り大きなマトリョーシカを被せ、閉じていく能力よ。そして、マトリョーシカの遊び方は被せ、閉じていくだけではないわ。わかるわよね、タケル?」


「え?」


 校長先生にそう言われて、授業中に急に当てられたように驚きつつも、考えるタケル。

 そして、彼は考えついた答えを口にする。


「大きなマトリョーシカを開いて、中のマトリョーシカを取り出していく……かな?」


「その通りよ、タケル!良くできました。」


 と微笑む校長先生。


「つまり、タケルはあの能力を、その名前の通りマトリョーシカのように扱う事が出来るという事ですか?でも、それを急に出来るようになるとは到底思えないんですが……」


 聞いていた赤ぼうずが心配そうに口を挟む。

 すると、校長先生は自信に満ちた声で赤ぼうずに言った。


「大丈夫よ。これは理解の問題なの。自分の能力がどのような特性を持っているのか?それを知っているのと知らないのとでは、全く違ってくるわ。」


 そして、彼女は再びタケルに向き直る。


「タケル。あなたの能力の名前は、マトリョーシカ。玩具のマトリョーシカのように閉じたり、開いたりするのが正しい使い方よ。もし力が暴走しそうな時は、開いてみれば良いわ。ただ、それだけの事よ。」


 彼女の説得力のある声色を聞いていると、マトリョーシカの扱い方が、なんだかとても簡単な事のように思えてくる。とタケルは思った。


「なんだか出来るような気がして来たぜ!」


「それならば、今、マトリョーシカを使ってみなさい。まずは閉じる力よ。」


 校長先生は言う。


「閉じるという事は、ひと回り大きなマトリョーシカを被るって事だよなっ!!」


 タケルが、マトリョーシカの名前を口にした瞬間、タケルの意識は校長室の外にあった。


「なんだこれ?」


 タケルの目に映ったのは、職員室前の廊下と校長室しか存在しない世界だった。


「タケル、校長室の中に戻って。」


 自分の中から、校長先生の声が聞こえる。


「えーと、小さくなるには……マトリョーシカを開く……」


 タケルの意識は瞬時に校長室の中に戻った。


「す、すげーっ!ちゃんと能力を操れるよ!ばあちゃん!!」


「そのようね。これなら、私の中にあるあなたの能力を返しても問題なさそうだわ。」


 校長先生はそう言って、おもむろにタケルを抱きしめる。

 タケルは、懐かしいばあちゃんの匂いと共に、暖かい何かが自分の中に戻って来るのを感じた。


「ば、ばあちゃん!恥ずかしいって!もういいだろ?」


 タケルはそんなに嫌がる気配もなく、そう叫んだ。


「……もう少しだけ。」


 タケルを抱きしめる校長先生は、ばあちゃんの顔になっていた。

 タケルは、校長先生に抱きしめられたまま、


「あ、そう言えば、大きくなった時に見えたんだけどさ、この世界って校長室と廊下しか存在して無いんだな。」


 と言った。校長先生は答える。


「……それはね、ここが隠された場所だったからよ。ゲームに良くあるじゃない?ある条件を満たさなければ行けない隠しステージ。そんな感じね。そして、あの世界では一度も使用されなかった。だから、相馬絵名の都市伝説事典には未掲載だったのよ。ボツ原稿のような感じね。ま、そのおかげで、真のアカシックレコードに吸収される事なく、今も存在を許されているのですけれどね。」


 そう言い終わった後、彼女は慌ててタケルを離すと、急に、何かを探すように校長室内をキョロキョロと見回す。


「……けれど、どうやら吸収されるのも時間の問題みたいね!エディネアが来るわ!!」


 彼女は何かを察知したように叫んだ。


「えっ!!ばあちゃん、ど、どうすんだよっ!!」


 タケルは叫ぶ。


「タケル、あなたは分岐点へ行きなさい!そして、ヤマトくん。あなたには何か作戦があるのでしょう?エディネアから逃れる算段はあるのよね?」


 校長先生は、慌てるように2人に言った。


「はい、校長先生。あなたはタケルを分岐点に送る事だけ考えて下さい。ここにいる僕は、借りの姿です。僕は、タケルの送られた先の黒板の目に移動します!黒板の目は、言わばエディネアの監視カメラ。どんな場所にでも存在していますからね!」


 ヤマトは力強い声で言った。


「ばあちゃんっ!ばあちゃんはどうするんだよっ?」


 タケルは叫ぶが、それに被せるように校長先生が叫ぶ。


「エディネアの気配が近いわっ!どこから出現するかはわからないけれど、もうアパートの薄い壁一枚くらいの所まで来ているっ!2人とも、覚悟を決めなさいっ!!」


 ここでこの話は、この都市伝説事典編29話の冒頭へと回帰する……。


「……はいはい、もう茶番は終わりですよ。」

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