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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
132/137

28話 黒反モクメと赤ぼうずと校長先生とタケル

「……オレ、赤ぼうずやで。」


 真っ赤に染まった者が言った。


「……あなたが、黒反モクメを操る者ね?」


 と校長先生は、赤ぼうずと名乗った謎の存在に声をかける。

 しかし、赤ぼうずは、答えない。


「……あーあ、これ、言いたくないんだよなぁ。僕、関西弁なんて使えないし。」


 それどころか、独り言をブツブツ呟いている。


「私の話を聞いているのかしら、赤ぼうずさん?あなたは私の孫にとって、敵なのかしら?はたまた味方なのかしら?」


 校長先生は、少し圧を強めた声で赤ぼうずに問う。


「これも、君が必要ない設定を書き込むから……」


 赤ぼうずは、まだブツブツ言っている。


「ねぇ!わざとそのような態度を取って、実は聞いているのでしょう?もし、孫のタケルに仇をなす者なのだとしたら、その時は、私も許す気はありませんよ!」


 校長先生は、更に圧を強めて言った。既に苛立ちを隠せていない。

 しかし…。


「こいつは大丈夫だよ。ばあちゃん。」


 タケルの声だった。

 タケルは、そう言った後、赤ぼうずへと話しかける。


「……面白い設定だろ?サトリにもウケけてたじゃねーか。」


 すると、赤ぼうずは、


「……幼稚園の頃は、なんでも笑うんだって。」


 明らかにタケルの言葉に対しての返事だった。


「……今までオレを助けてくれた赤ぼうずは、やっぱお前だったんだな、ヤマト。」


 タケルは、赤ぼうずに向かって言った。

 ヤマト。それは、夜の学校において離れ離れになってしまったタケルの親友。結城ヤマトの事だった。

 そして、赤ぼうずとは、幼稚園の頃に、タケルとヤマトが2人で創作した都市伝説。それを聞かせた槙村サトリを加えた3人だけが知るオリジナルの都市伝説……。


「え?もしかして、タケルのお友達だった、結城記念病院の息子さん?」


 校長先生は、驚いている。


「はい。ご無沙汰しています、タエさん。今はこの黒反モクメの体を借りていますが、タケルが言った通り、僕は結城ヤマトです。」


 赤ぼうずは、そう言って校長先生に頭を下げた。


「そうか。モクメに都市伝説辞典を渡したある人物ってのは、ヤマトだったんだな。でも、あの小学5年生の夏休み。君は、オレの都市伝説辞典と共に異次元の牢獄へ閉じ込められたはずだよな?」


 タケルは赤ぼうずに質問する。


「ああ。僕の本体は、未だにそこにいる。そしてその場所は、実は、この世界にとって一番重要な場所だった……。」


 赤ぼうずは、重く心のこもった声でそう言った。


「え?重要な場所って?」


「……異次元の牢獄には、本当に何も無かった。まさに無と呼ばれる世界だったよ。僕はそこで、都市伝説辞典を読むしかなかった。毎日毎日、何度も何度も。丸暗記するくらいは読み返したよ。ま、それは今は関係ないね。……実はね、タケル。無というのは、終焉であり……、始まりでもあったんだ。」


「一体どういう事だ?」


 タケルの理解が追いつかなくなって来ていた。


「それはね、僕のいる、この異次元の牢獄は、始まりの世界でもあったって事なんだ。つまりは、異次元の牢獄は、エディネアが真のアカシックレコードの種を持ち込む以前の世界。つまり、パラレルワールドが生まれる以前の世界だったんだ!そして、分岐点以前にいる僕は、そこから分岐する全てのパラレルワールドを、エディネアが持ち込んだ黒板の目を利用して見る事が出来るようになった。」


「……すまん、ヤマト。理解が追いつかなねーっ!」


 タケルは、男らしく言った。


「……ごめんね。ウチの孫、あんまりオツムは良く成長しなかったみたいで。聞き手は私が引き継ぐわ。」


 校長先生が申し訳なさそうに言った。そして、


「……で、あなたはそのパラレルワールドを見る能力で私を知り、タケルを私の下へと導いた。……結城ヤマトくん、答えてもらえるかしら?あなたは私の能力を知っているのよね?では、あなたは夕暮小学校七不思議の7番目、校長先生としての私には何をさせたくて、また、タケルの祖母としての私には、一体何をさせたいというのかしら?」


 と、低く、赤ぼうずを威圧するような声で言った。


「……さすが、夕暮小学校の都市伝説をまとめる棟梁。モクメの身体を通して、僕自身もピリピリするくらいの力を感じますね。今から説明しますから、少し抑えて頂けると嬉しいのですが……。」


 と、赤ぼうずは校長先生に対して丁寧に言った。が、恐れているという感じは全くない。


「オレは、ばあちゃんもヤマトも大好きなんだ。ピリピリすんのはやめてくれよ、な?」


 タケルは仲を取り持つように言った。


「それは……結城ヤマトくん、あなた次第ね。」


 校長先生は威圧を止めるつもりはない。かと言って、ヤマトも意に介していないようだが……。


「……まぁ、聞いて下さい。僕はもちろん、夕暮小学校七不思議の7番目、校長先生の能力を知っていますよ。そして、その能力を使って、タケルをあの世界に戻してもらいたいんです。」


 ヤマトが言う。


「えっ!?オレをあの世界に戻すだって?あの世界はもう真のアカシックレコードに吸収されちまった。校長先生の能力が願いを叶える能力じゃないってーんなら、戻る事なんて無理じゃねーのか?」


 と、タケルが慌てて口を挟む。


「いや、それは大丈夫だと思うよ。」


 ヤマトは、平然と答える。そして、校長先生も、


「そうね、それは大丈夫だわ。私の本当の能力を使えば……ね。」


 と言った。


「ばあちゃんの本当の能力って?」


 タケルは校長先生に聞いた。校長先生は答える。


「私の本当の能力はね、その者が人生で後悔した1つの分岐点へとその者を戻す能力よ。時間も空間も超え、分岐の瞬間へ戻すこの能力は、真のアカシックレコードにだって関与される事はないわ。」


 しかし、彼女の声には、何故か不安な音色が紛れている。

 タケルはそれに気づかず、浮かれた声で、


「すげーっ!これでもう一度やり直せるって事だなっ!」


 と言って笑う。

 しかし、校長先生は、更に渋い声で続ける。


「……そうね。けれど、タケル。例え、あなたを分岐点に戻したとしても、正しい道を選び取る事が出来るかどうかは、あなた次第だし、どの分岐を選んだとしても、詰んでしまっている可能性は大いにあるわ。そして、今回はそれに当てはまる。どの分岐点に戻り、どの分岐を選んだとしても、結局、世界はエディネアによって、真のアカシックレコードに吸収されてしまう運命なのよ。」


「……いやいや、そんなんやってみなけりゃわかんねーよ!」


 タケルは希望的観測を持って叫ぶ。


「…………」


 そんなタケルを悲しげに見つめる校長先生。その目は、祖母、タエの目だった。

 その時。


「……そうですよ。タエさん、タケルの言う通り。『やってみなけりゃわかんねー』ですよ。」


「え?」


 校長先生は驚く。そう言ったのが、ヤマトだったからだ。ヤマトは続ける。


「そして、そのためには、校長先生の能力だけではなく……、御堂タエさん!あなたの力も必要なんです。だからこそ、僕はタケルをここまで連れて来たんですから。」


「……ヤマトくん、あらゆるパラレルワールドを見てきたはずのあなたが、そんな希望的な事を言い出すなんてね。」


 校長先生は、暗い声で言った。


「いいえ、タエさん。あらゆるパラレルワールドを見て来たからこそ言っているんですよ。今、この世界でしか実現出来ない事なんです。今ここには、あなたが校長先生として存在している。タケルの能力を完全に制御する方法をタケルに教えられるのは、あなたしかいないんですから!」


 赤ぼうずは、校長先生に熱く語りかける。

 すると、校長先生の表情から暗さは消えた。

 しかし……。


「!!……まさか、あ、あの能力の事なの?タケルのあの能力を使うというの?」


 校長先生の声は震え出し、顔が引きつっていく。

 しかし、タケルは何も考えずにあの言葉を口に出す。


「え?俺のマトリョーシカがどうかした?」


「!!な、なぜなの?タケル、なぜその言葉を使えるの?」


 校長先生が慌てている。


「大丈夫だって。夢の中で何かがあってさ、トラウマだったはずなんだけど、急に言えるようになったんだよ。今の俺なら、マトリョーシカを制御出来るはずだぜ!」


 タケルがそう言うのを遮り、


「もうマトリョーシカとは言わないでっ!一旦落ち着きましょう!」


 校長先生は有無を言わせぬ圧力を持って、その場を制した。


「校長先生が私、御堂タエだと知っていた時から、薄々は気付いていたけれど、まさか、本当にあの能力を使うつもりとはね……。」


 校長先生は眉間にシワを寄せている。続けて、


「でも、おかしいわね……。あの時、私はタケルの能力の9割を自分の中に取り込み、私の中に封印し、タケルの魂と切り離せなかった残り1割を封印する為に、タケルにトラウマを仕込んだわ。もちろを、大切な孫にあんな能力を使わせない為にね。なぜなら、私は知っていた。タケルの能力が1つの世界を消すほどの力を持っているという事を。だから、その封印を解くなんて事は出来ないはずなのよ。私以外には……。」


 独り言のように呟く校長先生。


「……校長先生、それは、あの相馬絵名の世界が関係しているのかも知れません。彼女の本の名前は、都市伝説事典でした。タケルの能力は、都市伝説に影響され、タケルの中で目覚め、強くなっていったように思えます。タケルの能力自体が、タケルの内側から結界を破ろうとしていた。そして、ほとんど破れかけていたであろう結界を、誰かが解いた……。それが誰かは分かりませんが。」


 と、赤ぼうずは考察した。


「……そうですね。タケルの中に、私があの時奪った9割以上の力が渦巻いているのが分かります。ならば、私がタケルにしてあげられる事はただ一つね。」


 校長先生は、赤ぼうずを見つめる。2人は、アイコンタクトで理解しているようだ。


「お、おい、オレを置いてかないでくれよっ!2人だけわかったような顔してさっ!」


 タケルは、少し拗ねるように言った。

 赤ぼうずは、タケルを諭すように、


「タケル、君はマトリョーシカを使えるようになったと思っているようだけど、その考えは、今の時点では非常に危険なんだ。だけど、ここに来れば、きっとタエさんがマトリョーシカを暴走させずに使用する方法を、君にしっかりと教えてくれると僕は考えたんだ。なんせ、タエさんは君にトラウマという封印を施した張本人なんだからね。」


 と言った。


「じゃあ、オレは今からばあちゃんとマト……」


 タケルはうっかりと、あの言葉を……


「「うわーっ!!!!」」


 赤ぼうずと校長先生は必死でタケルを止める。


「あ、ごめん。言っちゃダメだったんだっけ?」


 タケルは舌を出している。どうやらワザとみたいだ。


「でもよ、今からばあちゃんとあの能力の修行をするって事だよな?俺たちにそんな時間あんのかよ?考えたくはないけど、あの、オレの父ちゃんを語ってたエディネアってヤツは、きっと追って来てるぜ。」


 エディネアが来るという事は、両親はもう……。タケルはそう考えて、辛そうに眉間にシワを寄せた。


「それは、そうですが……」


 赤ぼうずは口ごもる。


「……けれど、あなたの計画には、マトリョーシカが必要になる。そうでしょう?結城ヤマトくん。」


 その空気を破るように校長先生は言った。


「……はい。絶対に必要なんです。」


 赤ぼうずの目には、覚悟が見て取れる。


「……安心して。一瞬で終わるわ。」


 校長先生は、ヤマトにそう言うと、時間が惜しいというようにタケルへと向き直り、こう言った。


「タケル、私は今からあなたに、あなたから奪った、あの日の9割の能力を返すわ。そうなれば、簡単に計算しても、タケルの能力は今の2倍以上の力を有する事になる。」


「……え?それって逆効果になるんじゃ……?」


 タケルのこめかみに冷たい汗が流れる。


「今のままならね。けど、強大な能力を操るためには、コツがあるのよ。それを私が教えるわ。」


 校長先生は、そう言って、タケルに笑いかけるのだった。

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