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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
130/137

26話 タツマとほのか

 うっすらと光を放つ巨大な本。それ以外は何もない無の世界。

 なぜならそこは、巨大な本……真のアカシックレコードに世界の全てを吸収された後の世界だった。

 吸収から逃れられたのは、自らを人類を進化へと導く者と言った御堂虎之介。そして、その世界の住人ではないと告げられた御堂タケルのみだった……はず……


 なのに、何故だろう?

 そこにはさらにもう2つの影があった。

 1つはかなり小さめな影。都市伝説・動く人体模型の胃を依代にした、人体模型のフィギュアのような姿を持つ異形の者・ジンタン。ジンタンは、自らをタケルの父親・御堂タツマだと言う。

 そして、もう1つは女性の影。彼女は今、まさにジンタンをすくい上げ、てのひらに乗ったジンタンと言い争いをしている。


「だから、父ちゃんが言ったってタケルは信じないって言ったじゃない!」


「いや、けどよ。それはタケルが記憶を書き換えられてるからであって……。」


「そんなの関係ないわよ!タケルは父ちゃんより私の話を信じるに決まってるじゃないっ!関わってる時間と愛情が違うんだからっ!」


「バカヤローッ!俺だってなぁ、タケルを必死で探してたんだからなっ!母ちゃんが先にタケルを見つけたのは認めるけどよ……。」


「なによっ!さっきまでタケルの事、忘れてたくせに!」


「そ、それは……。」


 そう言って肩を落とすジンタン。

 その掛け合いを見て、笑いがこらえられなくなるタケル。


「プッ、ハハハハハハッ!」


 面白いというか、妙に懐かしくて、気づくとタケルの目にはうっすらと涙がうかんでいた。

 タケルの目の前で、ジンタンと夫婦漫才を繰り広げていたのはタケルの母親・御堂ほのかだった。


「「タケル……」」


 タケルの笑い声に気づいた2人は同時に名前を呼んだ。

 一方、虎之介は……。


「なんだ、なんだ?何が起こっている?まさか、生存者が1人どころか2人もだと!?そんな事は今までなかったぞ……。」


 ブツブツと呟いている。


「それに、タケルの母親は本物じゃあない。あの世界にはタケルの母親……御堂ほのかは存在しなかった。あれは、タケルの世話をさせるために私が作り出した泥人形。魂すらない、母親のふりをするだけの存在だったはずだ!」


 それを聞いた御堂ほのかは、ジンタン……御堂タツマを肩に移動させると虎之介に向かってこう言った。


「あら、人間ってもともと神様が作った泥人形だったんじゃなかったかしら?ただその泥人形に入ったのが私の魂だったってだけじゃない。この泥人形、私と寸分違わずそっくりに作られていたから、かなりしっくりきたわよ。」


 御堂ほのかは、そう言って笑う。


「……私は、その魂がどこから来たのかと言っているのだっ!!」


 虎之介は、そこまで言ってハッとする。


「!?ま、まさか、お前も……?」


「ご名答。私もね、タケルの中にある世界から来たのよ。ただし、タツマさんとは違う世界だけれども……ね。」


 御堂ほのかは言った。


「違う世界だとっ!それは一体どういう意味だ?まるで御堂タケルの中にいくつもの世界が存在しているような言い方じゃないか!」


 虎之介は叫ぶ。


「ああ。ほのかは、そう言ったんだぜ。」


 ジンタンはなぜか自慢げに言った。


「馬鹿な……そんな訳はない。私は知っている……御堂タケルの中にあるのは、あの時マトリョーシカによって御堂タケルの中に閉じ込められたあの世界1つのみだ!私は知っている!私がこの地球にアカシックレコードの種を蒔いたんだ!そこから分岐したあらゆるパラレルワールドの全てを私は把握しているんだからな。」


 虎之介は少し動揺していたが、再び自信を取り戻すように徐々に声を低くしながら言った。

 そして、目の前の空間に人差し指で何かを描くような仕草をする。

 まずは左から右に、上側に少し弧を描くような線。

 続いては再び左から右に、下側に少し弧を描くような線を。

 そして、最後にその2つの線の間に、ぐるっと円を描くような仕草をした。


「なぁ、そうだろう?目よ。」


 虎之介がそう言う。

 彼が空間に描いた模様が目である事にタケルが気付いたその時、それは模様ではなくギョロリとした目、そのものへと変わった。

 タケルは口を開く。


「5年3組の黒板の目……?」


「あぁ、確かあの世界では、そう呼ばれていたなぁ。」


 虎之介はそう言ってニヤリと笑う。そして、こう続けた。


「だが、この目はアカシックレコードの種を監視させる為に私が用意した物なんだなぁ、タケル。」


「え?都市伝説じゃないのか?確か都市伝説事典にも載ってたはずじゃ……。」


 ふと浮かんだ疑問を口に出すタケル。だが彼は気にも留めずに、


「……目はアカシックレコードの種と共に、私がこの地球に持ち込んだ物だ。それがなぜ、あの世界では都市伝説とされていたのかは私にも分からんが、まあどうでも良い話だな。」


 と、さらりと受け流した。


「で、だ。この目は私と繋がっている。彼らはあらゆる場所、あらゆる時間に存在し、彼らが見た情報は同時に私のものとなるのだ。……取りこぼしは無い。どのパラレルワールドであっても、私が知る情報が全てなのだよ。ハッハッハッハッ!」


 虎之介は完全復活と言った感じで、高らかに笑った。


「……それはどうかな?なぁ、ほのか。」

「ええ。タツマさん。」


 ジンタンとほのかは自信満々な表情で目配せする。

 そして、ほのかは続けてこう言った。


「そうよね?黒反モクメくん。」


「……え?」


 タケルは聞き返す。いや、タケルだけではない。


「……おい、何を言っているのだ?」


 虎之介もキョトンと少し間抜けな表情で言った。

 すると、空間に現れた目からヒモのようなものがいくつも伸びる。そして、それが絡まり、形を成していく。

 それは、ものの数十秒で人の姿になった。

 しかも衣服まで纏った少年の姿に。

 少年は、黒反モクメ。都市伝説・5年3組黒板の目の人間体だった。


「モクメっ!無事だったんだな。」


 嬉しそうに声をかけるタケル。

 それとは対照的に、怪訝そうな顔で黒反モクメを睨む虎之介。


「……なぜその姿になる?それは本来のお前の姿では無いだろう?目よ。……あの世界はもう無くなったんだ。そもそもその姿になれる事自体がおかしいではないか……」


 虎之介は言った。

 すると、黒反モクメは虎之介の正面へゆっくりと歩き出す。

 そして彼は背中から何かを取り出すと、それを虎之介に見せるように掲げ、こう言った。


「これが何かわかりますよね?エディネア様。」


「エディ……?なんだそりゃ?」


 タケルは言う。しかし、すぐにそれどころでは無いものがモクメの手にあるのに気づく。


「!!」


 驚くタケル。

 虎之介も目を丸くさせ、口を開く。


「そ、それは……、まさか……」


 虎之介の言葉を遮るように、タケルが彼より先に叫ぶ。


「と、都市伝説事典っ!!!!」


 声を聞いたモクメは、タケルの方を見ると微笑みかける。


「……ああ。タケル、その通り。僕の手にあるのは都市伝説事典だよ。僕はある方からこの都市伝説事典を譲り受けた。そして、これを手にした瞬間から僕は僕自身になった。ただの目じゃなく、都市伝説・5年3組黒板の目へ。そして、人間・黒反モクメに……ね。」


 モクメは言った。


「バカなっ!目が都市伝説事典……いや、アカシックレコードの種を手にしただと?そんな訳がないっ!そんな事、今まで無かったんだからなぁっ!!」


 虎之介は怒りを滲ませ言った。


「エディネア様、僕はあなたと同じように名前を手に入れた…黒反モクメというね。その意味は、あなたにもわかりますよね?」


 モクメはタケルに向けた表情とは真逆な、冷酷に見えるほどの無表情を虎之介へ向けて言った。


「……。」


「僕はもう、目ではないという事です!」


 そう言ったモクメに、タケルはどう声をかけようか迷っている。なぜなら、この状況が全く理解出来ないからだ。

 でも、何故だかモクメの口調や仕草は誰かに似ている…。

 そんな事を考えていたタケルの口からポロッと言葉が漏れる。


「……ヤマト。」


 それを聞いたモクメは、ニコッと笑う。

 その時、ジンタンが叫ぶ。


「さぁ、タケル!ここは父ちゃん母ちゃんに任せて黒反モクメと共に行けっ!」


「え?……え!?」


 またまた突然の展開に、モクメとジンタンの顔に視線をキョロキョロ往復させるタケル。


「え?いや、でもよう…」


「でもじゃねーんだっ!」

「そうよ!早く行くのよタケル!」


 ジンタン……御堂タツマと御堂ほのか。両親にそう言われたタケルは、更に慌てふためく。


「そんな事言われたって、どこに行くのかすら……」


「グダグダ言ってるヒマはねぇぞっ!」

「そうよ。モクメくん、お願い。」


「……い、いや……」


「わかりました!」


 まだ何か言おうとするタケルを遮り、モクメは言った。


「あ、そうだ!おい、タケル!」


 ジンタンはそう言って、タケルに何かを投げる。

 それは弧を描くようにタケルの手に収まると、


 シャリンッ


 とガラスと金属が擦れるような綺麗な音がした。

 タケルは握りしめた手をほどく。

 すると、中にはキーホルダーがあった。


「え?これは……」


 タケルは言った。馴染みのあるキーホルダーだった。


「タケル、持って行け!!」


 ジンタンが言った。


「頼むわね、モクメくん!」


 はるかは、優しい声で言った。


「はい!さぁ、行くよ、タケルっ!!」


 モクメはそう言って、タケルの二の腕を掴み、グッと引っ張る。


「うおぃっ!ちょっとくすぐってーって……」


 その瞬間、タケルが続けようとした言葉は、タケルの姿と共にかき消えた。




「……お前たち、何を企んでいる?」


 モクメとタケルが消えた後、残された3人のうち先に口を開いたのは虎之介だった。


「ふぅ…。よいしょっと。」


 そんな事はお構いなしと座り込むジンタン。


「……あんた、確かエディネア様だっけか?俺たちの仕事はここまでよ。」


「そうね。後はタケルが何とかしてくれるはずだわ。」


 ジンタンとほのかはやり切ったような顔で言った。


「……お前達は私を舐めているのか?私には、お前たちを消す事など造作もない事なのだぞ。」


 と凄む虎之介……改めエディネア。

 そして彼は、両腕を2人に向かってゆっくりと振り上げ、その両手のひらを向ける。

 その手のひらがグニャリと歪んだ。ジンタンとほのかからはそう見えた。

 しかし、実際に歪んだのはエディネアの手のひらではなく、その手のひらの前に存在する空間そのものだった。

 歪んだ空間は隣接する空間を同じように歪ませ、嫌悪感と絶望感を引き連れてジンタンとほのかの方へジリジリとにじり寄って来る……。


「……!!」


 恐怖に顔を引きつらせるほのか。その時。


「……まぁ、少し待てよ、エディネア様。」


 ジンタンが言った。

 エディネアは冷めた目で言葉を返す。


「今更命乞いか?お前達死んでも良かったのだろう?」


 とは言いつつも、歪んだ空間はほのかの鼻先三寸で止まる。


「良くはねぇさ。だが、俺たちを消してタケルを追うってんなら、それはかなり難しいぜ。」


「なんだと?」


 エディネアはジンタンの言葉に反応する。

 ここぞとばかりに話を続けるジンタン。


「あんたは「目」ってのを使ってタケルを探すつもりだろうが、その中に機能していない目があるって事に気づいてるか?」


「ん?どういう事だ?」


 ジンタンは自信たっぷりな目でこう答える。


「慢心だなぁ、エディネア様。モクメだよ。アイツはあんたの「目」の一部を、すでに支配しているのさ。それに、モクメに近い場所にあるものほど支配力が強くなるらしいぜ。タケルは今、その黒反モクメと共に行動している。つまりはそういう事さ。」


「……」


 エディネアは何も答えず、両腕を下ろすと歪んだ空間も解除される。


「ふぅ。」


 と胸を撫で下ろすジンタンとほのか。


「なぁ、母ちゃんから聞いたんだけどよ……」


 ジンタンは再びエディネアに話しかける。


「俺の存在しないこの世界で、あんたはちゃんとタケルの父親やってたんだってな。学校の行事なんかにも参加してたみてーじゃねーか?」


「……」


 エディネアは答えない。


「まぁ、そうね。けど、私はずっと疑ってたけどね。」


 ほのかはボソッとつぶやいた。

 ジンタンは続ける。


「……あんたがタケルを連れ去ったのは許せねぇ!けどよ、あんたは俺の見ることの出来なかったタケルを見て来た。なぁ、タケルの父親、御堂虎之介だったお前に聞きたい。……あんたが見てきたタケルの事を教えてくれよ。」


 そして、ジンタンとほのかに向かってきびすを返す。


「ど、どこに行くつもりよっ!!」


 ほのかが恐怖に掠れる声で聞いた。


「時間の無駄だ。お前達はこの空間に置いて行く。ここはすでに真のアカシックレコードに吸収された後だ……。もはや世界ですらない。他のパラレルワールドと交わる事すらない空間だ。お前達は永遠にここに居ればいい……。」


エディネアは、冷たい声で言った。

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