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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
129/137

25話 無

 そこにはただ、巨大な本が浮かんでいる。本は淡く輝いているように見え、2つの人影を浮かび上がらせる。

 それ以外はなにもない。

 無……。


「さぁ、次の世界へ向かうとしよう……。」


 虎之介だった。彼はそう言って手を差し出し、もう1つの人影の名前を呼んだ。


「タケル。」


「……。」


 そこにタケルはいた。真のアカシックレコードに吸収される事なく、御堂タケルはまだ生きていた。


「……さぁ、一緒に行こう、タケル。」


 虎之介は優しく言った。

 タケルにとって、虎之介は優しい父親だった。先程までの虎之介は嘘だったのではないかとタケルは考えた。

 しかし、周りの無こそが真実。これを行ったのは、紛れもなくタケルの父・御堂虎之介なのだ。

 そして、タケルは1つの疑問を口にする。


「……なぁ、父ちゃん。」


「なんだ?まだそう呼んでくれるのか?」


 優しく笑う虎之介。タケルは言い直す。


「……なぁ、あんたは一体何者なんだよ?」


 虎之介は少し言葉に迷うように遠くを見つめると、


「私は君達人類を導く者だ。」


 と言った。


「導く?」


 タケルは聞き返す。


「ああ、そうだ。私は……いや、私達は君達人類よりも更に上位に位置する生命体。私達は君達のような進化の可能性を持った人類を見つけ、私達のレベルまで引き上げる事が使命だ。」


 タケルは虎之介の話を聞いて、腹の底から怒りが込み上げる。


「何を言ってる!お前が行った事は世界の崩壊だぞ!人類を滅ぼしたのはお前じゃないか!!」


「……崩壊したのは1冊の世界だ。この世には、まだ数多のアカシックレコードが存在する。人類は滅びたわけではないよ。」


「それでもオレの世界だった!」


 タケルは叫ぶ。しかし、虎之介は落ち着いた様子で語りかける。


「いや。あれは本来、君のいるべき世界ではない。」


「え?」


「本来君がいるべき世界は別にあったんだ。そして、私はそこから君を連れ、この相馬絵名のアカシックレコード……都市伝説事典の世界へと渡った。だからこそ、都市伝説事典がその世界と共に真のアカシックレコードへと吸収されたにも関わらず、君は残った。それこそが君があの世界の住人ではない証拠だ。」


「じ、じゃあ、百歩譲ってオレの世界が別にあるってんなら、その世界はどこにあるんだよ!まさか、その世界もあの馬鹿デカい本に吸収されちまった後って言うんじゃあ……」


「いや。本来君のいるべき世界は、まだ真のアカシックレコードには記されていない。吸収する事が出来なかったんだ。」


「え?ど、どういう意味だよ!」


「……マトリョーシカの暴走だ。」


「マトリョーシカ……?それってもしかしてオレが関係してんのかよ?」


「ああ、その通りだ。タケルが本来存在していた世界で、お前はマトリョーシカを暴走させたんだ。暴走したマトリョーシカは巨大化し、恐れたアメリカ軍がお前に核を撃ち込んだ。」


「そ、そんな……!それじゃあ、その核で世界が……。」


 顔をまっ青にしてタケルは言った。


「……いいや。マトリョーシカは核すらも取り込み、更に膨れ上がった。地球を包み込むどころか、更に大きく……。隣接するパラレルワールドの壁さえも破壊し、次元すらも超えて……。」


「マ、マトリョーシカって、そんなに恐ろしい能力だったのかよ……。」


 タケルのこめかみに冷や汗が伝う。そんな能力を制御しようとしていた……出来ると思っていた自分が恐ろしい。


「……それから?オレはどうなったんだよ?オレがここにいるって事は、誰かが止めたって事なんだろ?まさか、父ちゃんが?」


 父ちゃんと呼ばれて、少し嬉しそうな表情を浮かべる虎之介。

 タケルはそれを見て、しまったという表情を浮かべ、目をそらす。

 虎之介が口を開く。


「残念ながら私は何もしていない。マトリョーシカは突然膨張を止めた。」


「なんだそれ?それで、世界は?」


「……まだ、タケルの中にある。」


「え?」


「……マトリョーシカによって膨れ上がったお前の魂が膨張を止めた後、その魂の外側に肉が生まれた。その肉は瞬く間に魂を包み、肉体を形成していったんだ。その中に世界を内包したままな。それが、今のお前だよ、タケル。」


 タケルは、虎之介の話を理解しようと、脳内で噛み砕く。が、どうしても理解できない部分がある。


「え?え?ど、どういう意味だよ?マトリョーシカは良くわかんねーぐらい巨大化してたんだよな?なら、大きさがオカシイだろっ!オレが超巨大巨人じゃねーと説明がつかねーじゃねーかっ!」


「この世界には,最小単位が最大単位と同一な事なんてよくある話だ。大きさなんて気にする程の事じゃあない。大事なのは、タケルの中に世界が内包されているという事。そして私達の使命は、全ての世界を真のアカシックレコードに記す事だ。そのためには、お前の中から世界を取り出さなければならないんだ、タケル。だからこそ、お前は私と来なければならないんだよ。」


「な、なんなんだよ、それ……。真のアカシックレコードに記すって、それがなんになるってんだ!!」


「さっき、私達の目的は人類を導く事と言ったが、実はそれとは別にもう一つの目的があってな、」


「もう一つの目的だって?」


「ああ。実は、真のアカシックレコードとはマニュアルなんだよタケル。進化を効率化するためのマニュアル。そして、いまだ未完成だ。私達はあらゆる世界からあらゆる可能性を集め、記す事によって、進化マニュアルを完成に近づけようとしている。」


「……マニュアル作りだって?そ、そんな事で世界を無に変えてるってのかよ!」


「全ての生命を私達と同じ進化の頂点に引っ張り上げるためだ。マニュアルが完成すれば、それが実現する。」


「そんなん誰も頼んじゃいねーっ!オレは、たとえあの世界がアカシックレコードから生まれた世界でも、大好きだった!大好きな仲間や家族がいたんだ!それを吸収し、無に変えちまったなんて、オレは絶対に認めねーっ!」


「私がいるだろう?私達は家族だった。そうだろう?そして、次の世界でも家族をやろう。お前の中から世界を取り出す方法が見つかるまで。」


「……いやだっ!オレはもうお前を父ちゃんだなんて認めねーっ!!」


「ならどうする?次の世界へは行かず、無に取り残されるか?……安心しろ。次の世界へ行く時には記憶は書き換えてやる。今までも世界を移動する時はそうしてきたんだ。」


 虎之介がそう言った時、どこからか、第三者の声が聞こえた。


「それは勘弁して欲しいなぁ。タケルにはもうお前を父ちゃんなんて呼ばせたくねー。」


 それは、タケルにとって懐かしい声だった。


「誰だ!」


 虎之介は明らかに慌てた様子で声のした辺りを探す。

 しかし、誰もいない。

 再び声がする。


「おいおい、ここだ!」


 虎之介は目を凝らす。すると、そこには人間よりかなり小さなものがこちらを睨みつけていた。

 それは、小さな人体模型のフィギュアのようだった。

 タケルは叫ぶ。


「ジンタンッ!!」


「都市伝説だと……なぜだ?なぜ都市伝説がこの場に存在する?都市伝説事典の世界はもう真のアカシックレコードに吸収されたはずだ。」


 困惑する虎之介。ジンタンが答える。


「それはまぁ、そこにいるタケルがあの本に吸収されなかった理由と同じだ。ワシ……いや、俺はあの世界の住人じゃなかった。それだけだ。」


「なに?」


 虎之介は驚いている。

 ジンタンはタケルの方を向く。


「待たせたな、タケル。お前の精神世界に入った事で色々と思い出した事があってな。頭を整理すんのに少し時間がかかっちまった。」


 ジンタンは言った。


「あ、ああ。来てくれて嬉しいよジンタン。けど、思い出した事って……?」


 タケルはじんわり涙目になりながらジンタンに質問した。ジンタンは答える。


「ああ……。昨晩、俺はお前の精神世界の中で……タケル、お前の記憶を見た。そこにあった記憶は、真のアカシックレコードに吸収されちまったあの世界での記憶。それだけじゃあなかった。お前の中には、そこにいる御堂虎之介って名乗る野郎が書き換えたというもう一つの世界での記憶も存在していたんだ。そして……。」


 ジンタンは一度間を開け、ゴクリと唾を呑むと再び口を開く。


「……その記憶の中には、俺がいた。」


「えっ!?」


 驚くタケル。ジンタンは話を続ける。


「……それを見た時、俺は全てを思い出したよ。魂だけの存在になってまでも、パラレルワールドの壁を越え、あらゆる世界を渡り歩いた日々を……。その途方もなく長い旅の間に忘れちまってた本当の旅の理由を……。」


「旅だと?パラレルワールドの壁を越えただと?そんな力、まだ人類には無かったはずだ!」


 虎之介は言った。


「お前の知っている世界ではな。……だが、真のアカシックレコードに記されていない世界ではどうだと思う?」


 ジンタンはニヤリと笑った。


「え?」


 タケルは驚く。


「ま,まさか!」


 虎之介も叫んだ。


「ああ。そのまさかだよ!俺はタケルの中にある世界から来たんだ!」


 ジンタンは言った。さらに続けて、


「お前……御堂虎之介と名乗ってるようだが、あの時、あの世界で、お前は俺の肉体を奪い、タケルを奪い去った!!魂になった俺は、タケルと俺の肉体を、お前から奪い返す為にあらゆる世界を探し回った!しかし、手掛かりさえも見つからず、年月だけが過ぎていき、俺は旅の理由どころか記憶すらも失っちまっていたんだっ!!」


 と叫ぶ。


「むっ!まさか、と言う事は、貴様は……!!」


 虎之介は何かに気付いたようだった。


「え?え?」


 タケルは展開について行けず、視線はキョロキョロとジンタンと虎之介の間を行ったり来たりしている。

 ジンタンは、虎之介に向かってこう叫んだ。


「俺の正体はタケルの本当の父親、御堂タツマだっ!!この姿は魂だけになった俺が、こっちの世界で都市伝説・動く人体模型と融合した姿なんだよっ!!」


「えーーーーっ!!」


 タケルは驚く。


「ジジ、ジンタンが父ちゃんで、父ちゃんが……父ちゃんの体を奪った?そ、それに虎之介?タツマ?何がなんだか訳がわかんねーよっ!!」


 慌てるタケル。


「……そんな事が起こっていたとは。だが、おかしいぞ?都市伝説になったのなら、なぜ真のアカシックレコードに吸収されていない?」


 虎之介は独り言のように呟いた。ジンタンは口を開く。


「まぁ詳しくはわからねーが、俺が融合したのは厳密に言えば、動く人体模型の胃だ。相馬絵名の都市伝説事典では、人体模型の胃は何者かに盗まれ、存在しない物となっていた。だからこそ、俺は世界の崩壊に巻き込まれながらも真のアカシックレコードへの吸収から免れる事が出来たのかもな。」


「……。」


 納得出来ないという表情の虎之介。言葉を続けるジンタン。


「ちなみに、人体模型から胃を盗んだ犯人は、何を隠そう、そこにいるタケルだ。タケルはあの世界の住人じゃない。だから、タケルの行動があの世界のことわりを少し変化させちまったのかもな。」


「ちょちょっ!ま、待ってくれっ!確かに俺はもう父ちゃん……いや、そこにいる御堂虎之介の事は信用出来ねーっ!けどよ、ジンタンが父ちゃんだって?しかも御堂タツマだっけ?俺、そんな名前聞いた事ねーしっ!」


 タケルが話に割って入る。


「あーっ!めんどくせーな!じゃあ、母ちゃんに聞けよ!」


 ジンタンはそう言うと、後ろを振り向く。

 すると、ジンタンの後ろで何かが動く。

 それは人の姿をしていた。


「タケル、今話していた事は真実よ。彼は御堂タツマ。その魂はあんたがジンタンって呼ぶ小さな器に入っているけれど、間違いないわ。彼が、あんたの本当の父ちゃんよ。」


 その声をタケルはよく知っていた。

 ジンタンの後ろから出てきたのは、タケルの母ちゃんだった。

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