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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
125/137

21話 御堂虎之介

 父ちゃんが狂信者かもしれない……。タケルはそう考え、動けなくなってしまう。


『不審な人物がいるのかいないのか!どっちなんだい御堂虎之介!』


 名前のない霊能師が、テレパシーでタケルの父親の回答を急かす。

 すると、


『あー、すいません霊能師さま。取り逃しちまいました。』


 タケルの父親の回答は、どことなくふざけているように聞こえる。

 そして……


 ダンッ


 と体育館入り口のガラス戸が勢いよく開いた。


「!!」


 入って来た人物を見て、タケルは驚いた。


「と、父ちゃん!」


 タケルが呼ぶ。


「おー、タケル。終業式には間に合ったか?……その様子じゃあ間に合わなかった……な。」


「そんな事より、父ちゃんは名前のない霊能師とどんな関係なんだよっ!まさか、教団の狂信者なんじゃあ……?」


 タケルは、恐る恐る切り出す。


「ハハハ。違う違う。彼女とは、ビジネスライクな関係さ。けど、まぁ俺の上司でもあり、国のトップである総理大臣は、教団の信者なんだけどな。」


 と、笑いながら話す虎之介。


「え?」


 状況が飲み込めないタケル。


「タケル、実は父ちゃん黙ってた事がある。」


 急に真面目な顔になる虎之介。


「え?な、何だよ?良いよ言わなくて!」


 何か怖い事を言われそうで、タケルは聞きたくない。


「実は父ちゃんな、総理大臣直属の命で夕暮町に出向して来たんだ。こう見えて、国家公務員なんだぜ!カッコいいだろ?」


 真面目な顔は一瞬だった。ヘラヘラと笑う虎之介。息子であるタケルにも、彼の言葉の意味も、本当か嘘かすらもわからない。


「そんな事は良い!早く不審人物を捕まえに行きなさいっ!!」


 と、名前のない霊能師が叫ぶ。

 すると虎之介は、


「あー、俺、抜けますよ。あんたの仲間みたいな関係。息子も見てますし。」


 あっけらかんと言い放つ。


「何を言っているのです!国の決定をそう簡単に反故にするとでも言うのですか?それもあなた一人の判断で。」


 名前のない霊能師は、虎之介を威圧するように言った。

 すると、虎之介の顔が急に真剣になる。タケルは、父親のその変化を怯えているのだと思った。しかし、虎之介の口から出たのは、タケルの想像とはかなり違った言葉だった。


「俺は初めっからあんたを信用しちゃいなかったよ。実はな、……木ノ下綾子さんとミクちゃんを夕暮町に招き入れたのって、俺なんだよな。あんたが相馬絵名を次の器にしようとしていたのは知っていたからよ。あんたにギャフンと言わせる切り札になるかもしれないと、あんたに気づかれないように、住民票に細工までしてな。けど、あんたに従えないと本気で思ったのは一年前!タケルが神隠しに遭ったあの日だっ!!よりにもよってあんたは俺の息子を犠牲にしようとしやがった!」


「……なるほど。あなたが私をそんな目で見ていた事は理解しました。けれど、神隠しは結界の綻びから起こる悲しい悲劇であると説明したはず。そして、その綻びを修復出来るのは、唯一私だけなのですよ?」


 名前のない霊能師は言った。


「?」


 タケルはその言葉を聞いて不思議に思う。そして、


「ちょっ!待てよ!!神隠しは結局お前の仕業だったじゃねーかっ!!お前が結界を修復するために都市伝説・死に顔アルバムを使って魂を集めさせていた!そうだよな!!名前のない霊能師っ!」


 タケルは、彼女に向かって叫ぶ。

 彼女は答える。


「フッ。私は知りませよ。死に顔アルバムと私は敵対していたのですからね。そして一年前、ついに決着がつき、死に顔アルバムは消滅しました。けれどそれは神隠しとは関係の無い話です。」


「よくもまぁ、そんな嘘をつけるなぁっ!感心すら覚えらぁっ!!」


 タケルは名前のない霊能師に怒りをぶつける。


「……けどね、御堂タケル。今大事なのはそこじゃあない。私が……名前のない霊能師だけが結界を修復出来るという事実よ。もし結界が無くなれば、人類は滅ぶわよ。」


 名前のない霊能師は、勝ち誇ったように言った。

 その場にいる意識のある者全員が、その言葉を聞き、凍りつく。

 名前のない霊能師は、ターゲットを絞るように品定めをし、御堂虎之介に声をかける。


「……まぁ、あなたは御堂タケルの戯言を信じて私に刃向かうのでしょうね。けれど、あなた以外の大人は私の言葉と子供の戯言、どちらを信じるかしら?自分の命が失われるかもしれない時に、真実がさほど重要だとは、私には思えないのだけれど……ね。」


 そう言って笑う名前のない霊能師。


「……確かにそうかもなぁ。」


 虎之介が口を開く。


「……けど、名前のない霊能師はあんただけじゃない。あんたの中の相馬絵名を表に出す事が出来れば、俺の愛しい天才息子の案を実行に移す事が出来る。だろ?タケル!」


 虎之介はタケルに笑かける。


「父ちゃんっ!!」


 タケルは、虎之介が味方してくれたのが嬉しい。それが表情から滲み出ている。


「おい、お前、なぜその話を?体育館での話を盗み聞きしていた?……いや、お前がいたのは正門前。聞こえるわけがない……。」


 名前のない霊能師は、ふと湧いた疑問に囚われてしまう。そして、その疑問に虎之介はこう答えた。


「監視カメラだよ。けど、電子機器じゃあない。精密であればあるほど、あんたの出す電磁波……負のエネルギーか?……それで壊れちまうからな。」


「では、何だと言うの?その監視カメラの役割をしているものというのは?」


 名前のない霊能師は質問で返す。虎之介は答える。


「……夜の学校。あそこはあんたが支配する空間だ。……にもかかわらず、一年前のあの日。そこには、あんたが知らない都市伝説が存在したはず……。」


 そして虎之介が言い終えた時、彼の隣の空間がグニャリと波打つ。

 その波は、少しづつ人の姿へと変わっていく……。


「「「「!!」」」」


 タケルを始め、タケシ、ツトム、カゲルの4人が驚く。

 何もない空間から現れたのは、彼らのクラスメイト、黒反クロハモクメだった。


「俺は、彼の力を借りて、あんたを監視してたんだよ。彼は黒反クロハモクメ。またの名を都市伝説・5年3組黒板の目……だ!」


 虎之介は言った。


「それがどうした?」


 名前のない霊能師は余裕の表情で言った。


「あれ?霊能師さま、気付きませんでしかたかね?俺、さっき、監視……カメラって言いましたよね?」


 虎之介も余裕の表情で臨む。

 タケルの頭上には疑問符がうかんでいる。

 虎之介は、さらに付け加えてこう言った。


「彼の瞳に映った映像は、テレビ、YouTube等のあらゆるメディアを通って全国に流れちまってるんですよ。名前のない霊能師さま、ほら。」


 虎之介は、ポケットからスマホを取り出し、その大きめな画面を名前のない霊能師へと向ける。

 画面には、彼女が映っている。


「なっ!き、貴様っ!」


 名前のない霊能師がモクメを睨みつけると、奇しくも彼女の顔は画面に真っ正面を向いてしまう事になる。


「はっ!や、やめなさいっ!」


 動揺する名前のない霊能師。画面を見ないように顔を隠す。


「ちゃんと見るんです!自分の顔を!その体は誰のものでもない。君のものでしょう?」


 虎之介は言った。


「な、何を言ってんだよ?父ちゃん?」


 タケルは意味がわからず、つい口を開いてしまう。

 虎之介は、彼女にスマホの画面を突き付けながら話を続ける。


「……自分の体が名前のない霊能師に支配され、指一本すら動かすことも出来ない状況に置かれ……君は自分の体をもう自分の物ではないと思ってしまった。けれど良く見てくれ!ここに映るのは名前のない霊能師か?違うだろう!君自身だっ!君は名前のない霊能師なんかに支配されない!戻って来いっ!相馬絵名っ!!」


 虎之介は、名前のない霊能師に話しかけていたのではなかった。虎之介は、彼女の奥深くに閉じこもる相馬絵名に話しかけていたのだ。


「や、やめろっ!!」


 名前のない霊能師が叫ぶ。


「やめないぞ!あんたは相馬絵名に不安と恐怖を与える事で彼女を支配しようとした!そして、最後の仕上げが彼女の絶望。そのためにお前は夕暮小学校の全児童を人質に取ったんだ。けれど、あんたの考えた仕上げの前に、もし相馬絵名が自分自身を取り戻せば、お前はもう彼女を取り込む事は出来なくなる!そうだろ?名前のない霊能師っ!!」


 虎之介は強く言った。


「……くぅ。け、けれど、お前が何を言おうと絵名が殻に閉じこもったままではその努力も無意味!」


 名前のない霊能師は強気に言うが、言葉の端々に焦りが見える。


「……大丈夫だ。抜かりないよ。さぁ、今です、お母さんっ!」


 虎之介は、優しい声で言った。


「何が今だ……、ん?」


 名前のない霊能師がそう言いかけた時、誰かが彼女の手を掴んだ。そして、強い力で引き寄せる。


「だ、誰だ?な、何をする……?」


 突然の事に驚く名前のない霊能師。

 次の瞬間、彼女の体は暖かいものに包まれる。


「……絵名、もう離さないわ。絶対に……。」


 そう言ったのは、木ノ下綾子。絵名の母親だった。彼女は、娘を力いっぱい抱きしめていた。

 そして……。


「ママ……。」


 それは、名前のない霊能師に乗っ取られたはずの相馬絵名の口から出た言葉だった。


「ママ、ママ、ママ、ママ、ママ、ママッ!」


「ごめん。ごめんね、絵名……。」


 長い空白を埋めるように抱き合う二人。


『く、くぅ……。指一本はおろか、声帯を微かに震わすことすら出来ないとは……。』


 悔しさを滲ませたテレパシー。名前のない霊能師の思念だった。


「……本当の母親の力だ。彼女が、相馬絵名を目覚めさせた。」


 虎之介は名前のない霊能師に聞こえるように言った。

 その言葉を聞き、タケルは妙に納得した顔でこう呟く。


「母ちゃんの力は偉大だぜ。俺も夜更かしして起きれない朝だって、母ちゃんに怒鳴られたら直ぐに起きあがっちまうもんな。」


「「「「それは違うだろ?」」」」


 タケシ、ツトム、カゲルに加えて、虎之介も同時にタケルにツッコむ。


「フフッ。」


 それを聞いて相馬絵名が笑顔を見せる。

 名前のない霊能師は、完全に相馬絵名の支配権を失ったのだ……

 ……

 ……

 ……そのはずだった。


「きゃああああっ!!」


 突然の悲鳴。


「えっ?マ、ママ!どうしたの?ママーッ!!」


 絵名が叫ぶ。

 彼女を包む綾子の両腕が力を失い、彼女は床に崩れ落ちる。


「!!」


 それをなすすべなく見ていたタケルは、ふと綾子の背中辺りの空間が歪んでいる事に気づく。

 そして、その歪んだ空間は綾子の背中に食い込み、そこから綾子の体も歪み始める……。

 歪み……いや、ねじれと言うべきか……?


『ク、クククッ。』


 名前のない霊能師の笑い声。


「おい、アレはなんだタケル!?」


 虎之介も慌てている。


『どうやら先程の力がまだ空間に残留していたみたいね。』


 名前のない霊能師の声が頭に響く。

 タケルは思い出す。

 カゲルに紙袋を被せられ、怒り狂った名前のない霊能師が、その怒りに任せて溜めに溜め、増大したそれで辺り一帯をねじ曲げてやると豪語していた事を。


「あれがまだ残留していただって!?お前自身だって忘れてたんだ!使わずに消えちまったんじゃなかったのかよっ!!」


 タケルは叫ぶ。


『クフフッ。残念ねぇ、御堂タケル。これこそ奇跡だわ。さぁ、相馬絵名。ママの死で絶望を味わいなさい!!ハハハハハハ……』


 名前のない霊能師の高笑いが、その場にいた全員の頭の中に鳴り響いた……。


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