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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
124/137

20話 爺ちゃんの手帳

「くそっ!俺は選ばねーぞっ!!絶対に選ばねーっ!!」


 タケルはそう叫んだ後、口を一文字に固く結ぶ。


「あらあら、聞き分けのない子ね。でも、あなたが選ばなければ結界の綻びは更に広がり、修復不可能な穴へと成長してしまうわよ。そうなればこの世界は滅びる……。向こうの世界の都市伝説はそれ程に恐ろしいわ。あなたもその一端を垣間見たはずでしょう?」


「……そ、それでも俺は……。」


 タケルは思考を巡らせる。今の状況を打破するためにはどうすればいい?どうすれば……。

 その時、タケルの足に何かが触れる。


「!!」


「ん?何かあったのですか?」


 名前のない霊能師は、タケルの機微に気づく。


「なんでもねーよ!」


 タケルは間髪入れずに返す。しかしながら、タケルに何かは起こっていた。だからこそ、名前のない霊能師には何事もなかったように振る舞わなければいけない。タケルの足に触れたもの、それはツトムの手だった。彼は、か細い力でタケルの足首を掴み、タケルに何かを伝えようとしていた。こめかみを汗が伝う。

 名前のない霊能師はどう出る……か?


「……まぁ良いわ。」


 タケルは、ふう……と胸を撫で下ろす。

 しかしその安堵は、次の彼女の一言によって一瞬で打ち砕かれる。


「……フフ。なんて言うとでも、思ったかしら?御堂タケル。」


「!!」


 タケルは思う。ツトムは俺に助けを求めてるんだ。なんとしてでも助けなければ……と。

 名前のない霊能師が、ツトムに気づいた。


「おや、あなたの足下のお友達はまだ動けるのかしら?」


 そう言ってツトムに手のひらを向ける名前のない霊能師。

 それは、彼女が能力を使う合図だ。

 再び気を失わせるつもりか、もしくは……。


「やめろっ!」


 タケルは、身体中をねじ曲げられたツトムを想像していた。無意識にツトムの前に出ると、体を張ってツトムを守ろうと両手を広げた。

 ツトムの手がタケルの足首から剥がれる。


「……ち、違う。こ、これ……を……」


 ツトムがか細い声を上げる。が、タケルは気づかない。


「クククッ!例えあなたがそこに立ち塞がったとしても、能力の方向をねじ曲げればそのお友達に力を届かせる事など容易。あなたの行動は無意味です。」


 ニヤニヤと笑う名前のない霊能師。


「それでも、俺はツトムを守らなきゃいけねーんだっ!!」


 叫ぶタケル。

 その時。


「!!ん?なんなのです?」


 急に名前のない霊能師が自分の足下を気にする。

 タケルは彼女の視線の先……彼女の足首に目を向ける。すると、彼女の足首を誰かの手が掴んでいる。


「やめなさい。」


 名前のない霊能師は、足首を掴む手に自らの手のひらを向ける。


「うぎゃああああーーーっ!!」


 掴む者が悲鳴を上げる。

 タケルは、その声に聞き覚えがあった。それはクラスのリーダー、タケシの声だった。

 叫び、のたうち回るタケシ。彼の右手がウネウネとまるで魔女の森の木のようにねじ曲げられている。


「タ、タケシッ!!」


 急いでタケシに向かって駆け寄るタケル。


「待てっ!止まるんだタケル。うぅ……。」


 痛みに耐えながらタケシが叫ぶ。


「で、でも……。」


「お前……間違ってんぞ、タケル……。ツトムは守ってもらいたいなんて言ってねぇ!あいつの目……よく見ろっ!」


 タケシの言葉を聞いて、タケルはツトムの目を見る。


「!!」


 そこには強い意志がうかがえる。


「……タケル……。ぼ、僕が助ける……!」


 ツトムはか細いながらもハッキリとそう言った。そして、彼が古い手帳のようなものを握りしめている事にタケルは気付く。


「タケル、これを……。その子がさっき言ってた話には、間違いがある……。それがこの、手帳の……中に……。」


 ツトムは精一杯手を伸ばし、タケルに手帳を届けようとしている。


「ハッハッハ。何を言うかと思えば……。間違い?そんな訳ないでしょう。でもその手帳、目障りね。」


 名前のない霊能師はそう言って、再び手のひらをツトムに向ける。


「あなたも手帳もまとめてねじ曲げてしまおうかしら!!」


「や、やめろーっ!!」


 タケルは叫ぶ。慌ててツトムを救出に向かうが、間に合いそうもない。

 その時、


「!!」


 名前のない霊能師が、何かにつまづいたようにガクンと体勢を崩す。

 すると、ツトムの手前の床がグルンとねじ曲がる。


「……ふぅ。危なかったぜ……。へへ。」


 冷や汗まみれの顔で笑っているのはタケシだった。彼が、残った左手で名前のない霊能師の足首を再度掴み、ツトムをねじ曲げるはずだった力の方向をずらしたのだ。


「何をするっ!」


 怒りに任せてタケシを蹴り上げる名前のない霊能師。他の児童の上に転がったタケシに向けて手のひらの照準を合わせる。


「おまえも、向こうの手帳の少年も……そうか、一年前の子供達か?あの時夜の学校に迷い込み、負のエネルギーの耐性を得たか?はたまた長い間、御堂タケルの側にいた事で、なんらかの変化が体に現れたのか……?そう言えば、もう一人……あの影の薄い少年も一年前、一緒にいたような気がしないでもないわね。ま、いずれにしても、あなたたちは早めに魂にしてしまった方が良いみたいね。」


 名前のない霊能師から、力が放たれる。……そう思った瞬間。


「え?な、なんなのよ、これっ!?」


 彼女の素っ頓狂な声が響いた。

 名前のない霊能師は慌てている。突然目の前が真っ暗になったのだ。力を放つどころではない。

 慌てて両手で自分の顔を触ろうとする名前のない霊能師。すると。


 ボシャ


「ん?」


 聞いた事がある音。そして、触れた事のある感触……。


「「「「ハハハハハハハハ……」」」」


 タケル、ツトム、タケシが笑う。

 そして、もう一人の笑い声。


「ハハ。悪かったなぁ。影が薄くて!で、どうだい?紙袋を頭に被せられた感想は?」


 それは、ウスイカゲルの声。彼は、その能力で名前のない霊能師に気づかれる事なく彼女の頭に紙袋を被せたのだった。


「ナイスカゲル!タケル、今だ!手帳を!」


 タケシが叫ぶ。


「クソがっ!もう容赦せんぞっ!!がぁぁっ!!」


 頭の紙袋を破り捨てる名前のない霊能師。血管が浮き出るほど怒り心頭。

 しかし。


「……遅いぜ、名前のない霊能師。ほら、手帳は俺の手の中だ。」


 タケルは言った。そして、すでに手帳に目を通し始めている。


「え!?こ、これって、本当か??」


 驚くタケル。


「爺ちゃんが調べたんだ……。間違いない……。」


 ツトムが言った。


「何を言っている!!」


 名前のない霊能師は怒りの表情で両の手のひらを前に突き出す。

 そこに邪悪な力が溜まり、膨れあがっていくのがわかる。

 もしかすると、この夕暮小学校の敷地内にある全てのものを空間も含めてねじ曲げてしまえるのではないかと思えるほどの力が今、彼女の眼前に集約されつつある。


「もうお遊びは止めよっ!677+677。合わせて1354の魂を使えば、結界は更に強固なものになるわ!もちろんお前たちも含めた、今この場所にある全てをねじ曲げ、その魂を結界へと注ぎ込んでくれるわっ!」


 今までにないほどの狂気を帯びた名前のない霊能師。しかし、タケルは彼女には目もくれず、彼女の中にいる仲間に向けて叫ぶ。


「相馬絵名っ!起きろっ!!」


「無駄よ!無駄無駄っ!彼女が起きるのは全てが終わった後なのですからねーっ!!」


 それでも叫び続けるタケル。


「おいっ!聞いてるか、絵名っ!!」


「無駄だと言ってるでしょう!!」


「うるせーっ!俺は絵名と話してんだっ!ちょっと黙ってろよ!!」


「なんだと!!」


 名前のない霊能師を更に怒らせるタケル。半径1キロくらいは消し飛ばせそうな力が彼女の前に渦巻いているのがわかる。


「……お、おい、タケル。あんまり挑発すんなよ……。」


 弱気な発言をしたのはカゲル。タケシもツトムも彼と同じような顔でタケルを見ている。

 しかし、タケルは真っ直ぐに相馬絵名だけを見つめているようだ。


「お前は孤独じゃねーし、孤独になる必要もなかったんだ!!良く聞けよ、相馬絵名っ!!」


 タケルがそう叫んだ時、名前のない霊能師の前にある力の塊が一瞬揺らいだ。


「おい、待て!御堂タケル!おまえ、今、何を言おうとしている?……まさか、知っている者などいるわけがない。いるわけがないのに……なぜだ?その手帳は何だ?いやいや、違う。御堂タケルは、私が思っているような事は言わない。言うわけがない……。何故なら、誰も知らないからだ!彼女が生まれる以前から練られた計画なんだぞ……。知られるわけがない……」


 名前のない霊能師が、早口でしゃべり続ける。明らかに動揺している。

 タケルは、今だと言わんばかりに叫んだ。


「相馬絵名!お前は父親を殺してなんかいねーぞっ!!お前の父親は死んでなかったんだっ!!」


 タケルの言葉を聞いた名前のない霊能師の体が、僅かに震えた。

 そして、タケルは本当に微だが、名前のない霊能師の中に相馬絵名を感じた。タケルは話を続ける。


「お前の父親は、あの時、体をねじ曲げられたが生きていた。そしてカシマレイコの教団は、父親の体を元に戻す事と今後の生活に必要な金を用意する事を条件に絵名、お前を引き取ったんだ。父親には、二度と相馬絵名に合わない事も約束させたらしい。お前を孤独にしたのは教団なんだよ、絵名っ!!」


「だ、黙っていたのは彼女のためさっ!あの父親から相馬絵名を保護したのは、あの男が最低な人間だったからだ!その後、父親はどうなったと思う?渡した金を全て酒とギャンブルに注ぎ込み、迷惑行為を繰り返した末、今も檻の中だよ!」


 名前のない霊能師は慌てた様子で弁明を試みる。


「ああ、わかってるよ。最低な父親だ。だけどよ、生きてる。……相馬絵名に殺人の罪を着せたのは紛れもなくお前と教団だっ!!絵名、お前は人殺しなんかじゃなかったんだっ!!絵名、お前はもう孤独になる必要なんかないっ!戻ってこいよ!絵名っ!!」


 タケルは必死で彼女の名前を呼ぶ。


「…………」


 黙り込む名前のない霊能師。

 しばし沈黙の時が流れ、その後……先に声を上げたのは名前のない霊能師だった。


「……ククク。」


「何がおかしいっ!」


 タケルは怒鳴る。が、心の中ではその声が絵名のものではない事に気づき、動揺している。


「……一瞬焦りはしましたが、なんとか持ちこたえたようですよ、御堂タケル。相馬絵名は私の奥底に隠れたまま。この体の支配権は、どうやらまだ私にあるようです。」


 しかし、それでも諦めないタケル。

 再びツトムの手帳に目を通す。

 名前のない霊能師は余裕の笑みを浮かべ、勝ち誇ったようにタケルに話しかける。


「……フフ。今、相馬絵名の心が流れて来たわ。どうやら彼女は教団を疑うことが出来ないみたいよ、御堂タケル。なぜなら、孤独な日々を送る彼女に、唯一優しい言葉をかけてくれたのが、先代の名前のない霊能師……。つまり彼女は、カシマレイコの事を母のようにしたっていた。あぁ、先代にカシマレイコを選んでおいて良かったわ。彼女を選んだ理由は教団を隠れ蓑として使うため。彼女は能力者としては無能だったわ……。けれど、ここでその選択が生きるとは……ね。」


 しかし、タケルは彼女の話など興味がないように、手帳から目を離さず読みふけっている。

 そして、


「…………!!」


 タケルは手帳から、気になる情報を見つける。


「……もう無駄よ。諦めなさい。」


 名前のない霊能師は言う。タケルはその言葉には耳を貸さずに、再び名前のない霊能師の中の相馬絵名に話しかけた。


「絵名、俺の話を聞くんだ。この手帳には、お前の母親の事も書いてあるぞ。お前の母親は、確かにお前を置いて家を出た。でもな、それはお前の妹を守るため!お前を一人にするためじゃなかった!母親も、お前が父親から暴力を振るわれないってことを知ってたんだろ?だから、少しの間だけって無理矢理自分を納得させてたらしい。お前の母親は、お前に1冊の本を置いて行ったんだよな?それを読み終える前には必ず迎えに行くと心に誓っていたんだよ。しばらくして、お前の妹は無事生まれた。それからお前の母親は、ずっと……ずっとお前を探し続けていた。母親とお前と妹、家族3人で一緒に暮らせるようにってな。」


「それがどうした!そんな話、後からいくらだって作れるだろう?結局、母親は相馬絵名とは一緒に暮らせなかった。だからこそ彼女は、カシマレイコを母のように慕ったのよ!」


 名前のない霊能師は彼女の母親を否定する。

 すると、タケルは名前のない霊能師を見る。その中にいる相馬絵名を……ではない。名前のない霊能師そのものをキッと睨みつけてこう言った。


「それを仕向けたのもお前じゃないのか、名前のない霊能師っ!!こうも書かれているぜ!相馬絵名の捜索を妨害している者たちがいる。それはある宗教団体だってな。そうだ。カシマレイコの主宰する……お前たちの教団だよっ!お前たちは相馬絵名を保護するという名目で、実は外界から遮断していた。それは、次期名前のない霊能師の器を自分たちの思うように育てるためだった!!違うか?名前のない霊能師っ!!」


「……ほほう。その手帳にはそんな事まで書かれていると?でも、無駄よ。今の彼女……相馬絵名の中では、彼女の母親はカシマレイコ。お前がカシマレイコの裏切りを彼女に話せば話す程、彼女は孤独を増して行くのよ!」


「な、なにっ!」


「……私にはわかる。相馬絵名は今、私の奥深くで孤独に押しつぶされ泣いているわ。もし、そんな彼女から孤独を取り除き、表に引き戻せるとしたら……そうだねぇ。彼女の本当の母親をここに連れて来るくらいのサプライズがないとダメだろうね。ククク…。ま、でもそれは無理。この夕暮町の性質上ね。」


 名前のない霊能師はニヤニヤと笑う。


「……ホントにそうか?」


 タケルが言った。


「……え?」


 名前のない霊能師は、理解出来ないといった表情で聞き返した。タケルは答える。


「……相馬絵名の母親は離婚が成立し、今は旧姓を名乗っている。木ノ下綾子。それが彼女の名前だ。そして、娘……絵名の妹の名前は木ノ下ミクってんだぜ。」


「ミク……?聞いた事があったような……?」


 名前のない霊能師は考えている。


「Aマート。あの時、お前もいたんだよな?」


 タケルが言った。

 名前のない霊能師にとって人間の名前などいちいち覚える必要のない取るに足らないものだった。が、今は記憶の引き出しから無理にでも拾いあげなければいけないような胸騒ぎがする。


「ミク……。そうか。人形にされたあの母親が……。けれど、なぜ……?」


 名前のない霊能師が言った。


「ここに書いてんぜ。夕暮町は、ひとり親に優しい制度が充実している。それで引っ越す事に決めたってよ。」


 タケルが手帳を読む。


「それは子供の魂を集めるための誘い水。結界を補修するためのね。けど、なぜ?夕暮町の人間は全て管理していたはず……。移住者に相馬絵名の母親がいれば、私に連絡が来たはずよ!そして、連絡があれば、私が彼女を夕暮町に迎え入れるはずがないわ……。」


 納得出来ないといった表情で、彼女は言った。


「んな事知らねーよっ!教団も一枚岩じゃねーだけだろう?」


 タケルは悪態をつく。


「……けれど、今知れたのは好都合だわ。」


 名前のない霊能師がそこまで言った直後、タケルの頭の中に彼女の声が響く。


『夕暮町にいる信者達に次ぐ!直ちに木ノ下綾子を見つけ出し……殺しなさいっ!!』


 それは名前のない霊能師の心の声。つまり、彼女はテレパシーを使い信者達に殺人指令を出したのだ。


「うわっ!何だ、今の?」


 タケシが言った。


「おばさんみたいな声が頭ん中に響いたよな?」


 次はカゲル。


「……僕にも聞こえた。」


 最後にツトムが言った。彼らは、それがテレパシーで、目の前の少女から発せられたものだとは気づいていないようだ。


「ああ、出力を間違えたかしら。人間には聞こえないようにしたはずだったのですけれど…ね。」


 名前のない霊能師が言って、ニヤリと笑う。


「!!」


 タケルは何かに気づいて叫ぶ。


「おい、お前っ!ワザとだなっ!ワザと絵名とミクちゃんの母親に聞こえるようにっ!!」


「さぁね。けれど、どんな気持ちかしらね。自らの殺害司令を聞いてしまった人というのは……。しかも、狂信者が誰なのかわからない。もしかしたら隣人がそうかもしれない。疑心暗鬼になるわよねぇ?ククククッ。」


 笑う名前のない霊能師。


「くそうっ!」


 タケルは焦る。もし母親が殺されてしまっては、絵名が戻る可能性は消えてしまう。今すぐ助けにいかなければいけない。でも、ここにクラスメイトを置いて行くことは出来ない……。


「一体どうすればいいんだーっ!!」


 頭を抱えるタケル。

 笑う名前のない霊能師。

 その時、


「タケルッ!」


 名前を呼ぶ声が思考の袋小路に迷い込んだタケルを引き戻した。それは、タケシの声だった。


「行けよ、タケル!よくわかんねーけど、誰かを助けに行かなきゃならねーんだろ?」


「でも……。」


 ためらうタケル。

 すると、ツトムが叫ぶ。


「行ってタケル!」


 続いてカゲルも、


「ここは俺たち3人に任せて、お前は行くんだっ!!」


 と叫んだ。3人とも真っ直ぐな目をしている。強い意志を感じる。


「お前ら……。ありがとう。」


 タケルは3人に感謝する。そして、


「なぁ、絵名!聞こえるか?お前の母ちゃんはすぐ側にいるんだぜっ!そして居場所は、この中では多分、俺しか知らねーっ!俺は今から、お前の母ちゃんを助けてここに連れて来てやるっ!だからお前は、諦める事を止めろっ!その殻の中から出て、俺を……学校の仲間たちを……そして世界を助けてくれっ!!」


 タケルはそう言うと、後ろ髪を引かれる思いで体育館の入り口の方へ一歩踏み出した。


「何?すぐ側にいる?」


 名前のない霊能師は、その言葉に反応する。そして、再びテレパシーを使い、誰かに話しかける。


『……小学校です。小学校付近を探しなさい!20代後半の女がいるはずです!』


 タケルには、それが聞こえる。が、タケシ、ツトム、カゲルには聞こえていないようだ。


『不審な人物は見当たりません。』

『こちらも……。』

『こちらもです!』


 10名以上のテレパシーによる返答が聞こえる。

 名前のない霊能師が再びテレパシーを送る。


『正門前!あなたは見かけませんでしたか?御堂……虎之介?』


「!!」


 あまりの驚きに立ち止まるタケル。


「え?父……ちゃん?ま、まさか、父ちゃんが狂信者??」


 タケルの頭の中は真っ白になる。

 体育館の入り口は、もう目と鼻の先だった……。





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