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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
108/137

4話 消えた美術室

 

「俺のせいだーーーーーーっ!!」


 突然のじゅんぺいの叫び声。倒れたタケルの名前を叫ぶならまだしも、俺のせいとはどういった意味なのだろうか?


「タケルが倒れたのはあなたのせいじゃないでしょう、じゅんぺいくん!しっかりしてよ!!それよりタケルを何とかしないと……」


 花子はそう言ってタケルに走り寄り、仰向けに寝かせる。

 まずは呼吸を確認。そして心臓に耳を当てる。


「生きてるわ。でも……この汗は何なの?」


 花子は言った。タケルは、服がびしょびしょになるくらい大量の汗をかいていた。


「……俺のせいなんだ。きっと何か返すのを忘れてたんだ……。」


 じゅんぺいがうわ言のように言った。


「何を忘れてたって言うのよ!そんなことよりタケルの事でしょっ!!」


 花子が叫ぶ。


「……キシシ。もしかして俺ぁ忘れられてんのかぁ?」


 じゅんぺいも花子もタケルの事で頭がいっぱいになり忘れていた。

 ……花子の背後には、ホルマリン漬けの殺人鬼が立っていた。


「108体目、いただきまぁぁす!!」


 そう言ったホルマリン漬けの殺人鬼の腹がグァバッと開き、第二の口が現れる。肋骨の変化した節足動物の脚のようなものが、うごめきながら花子を取り込もうと襲いかかる!


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 花子の悲鳴。


「花子さんっ!!」


 じゅんぺいは急いで駆けつけようとするが間に合うわけもない。何より心が追いついていない。

 走りながらも、『今のが花子さんの断末魔になってしまうのか?』と、すでに最悪の結果を考えてしまっている。

 しかし次の瞬間、じゅんぺいは新たな悲鳴によって現実に引き戻されることとなる。


「イダダダダダダダ……………ッ!!」


 それは、ホルマリン漬けの殺人鬼の口から発せられた。


「「え?」」


 じゅんぺいと花子は、同時に悲鳴の元……ホルマリン漬けの殺人鬼を見る。

 すると、その手首には何かがぶら下がっている。

 その何かはぶら下がりながらクルクルと回り、ホルマリン漬けの殺人鬼の手首に、ワニが使うという恐ろしい殺人技・デスロールを決める。

 ブチッという肉の千切れる音。


「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」


 ホルマリン漬けの殺人鬼の悲鳴。

 宙返りの後、その場に降り立った手首をくわえた何かは、直ぐにプッと手首をタイルに吐き捨てると、


「キューーン。」


 と鳴いた。


「お前は!」

「あ、あんた……!?」


 じゅんぺいと花子は驚く。

 そして、2人は同時に名前を呼んだ。


「「13階段っ!?」」



 それは、夏のタヌキのようなシュッとした姿にキツネのように立派な長い尻尾を持つ生き物。夕暮小学校七不思議の一つ13階段だった。


「なぜ新校舎にいるはずのあんたがここに?」


 花子は疑問を投げかける。が、13階段は花子に見向きもせずにじゅんぺいのほうを向く。

 じゅんぺいが13階段に何か目配せをすると、13階段はホルマリン漬けの殺人鬼のほうに向き直り、グルル……と喉を鳴らして威嚇した。

 ホルマリン漬けの殺人鬼は、噛み千切られた腕を押さえ、ギャァギャァとのたうち回っている。


「……花子さん、どうやら助かりそうだぜ。13階段が来た。消えた美術室の扉を開く!!」


 じゅんぺいが言った。


「え?どういう事?」


 花子には理解出来ない。


「消えた美術室っていう、この学校の古い都市伝説、聞いたことないか花子さん?」


「え、えーと確か、昔の夕暮小学校七不思議にあったのよね?それまであったはずの美術室がある日忽然と消えたっていう……。」


 それは、花子も噂でしか聞いたことのない昔の都市伝説だった。


「そう。そして、消えた美術室は、俺と13階段が作った都市伝説なんだ!」


「え!?じゅんぺいくん、あなたまだ小学校6年生でしょ?そんな昔に生きてるわけ……」


「つべこべ言わずに行くぞ!消えた美術室にっ!!」


 じゅんぺいはそう言うと、


「13階段っ!!」


 と、彼を呼び寄せる。


「くーん。」


 とじゅんぺいに首を垂れる13階段。じゅんぺいはその額に手を触れる。


「……何をするつもりかわからねぇが、何もさせねぇよぅ!」


 さっきまで痛がり、タイルの床をのたうち回っていたホルマリン漬けの殺人鬼が、自分の手首を拾い、こちらにズリズリと歩みよって来る。


「痛ぇ…痛ぇ……。けど、お前たちのエネルギーで手首をくっつければ良いだけの事だぁ!」


 恨みのこもったホルマリン漬けの殺人鬼の声。


「開くぞ花子さんっ!!」


 叫ぶじゅんぺいに、


「え?え?」


 と訳がわからず慌てる花子。

 花子は、恐ろしい形相で確実に近づくホルマリン漬けの殺人鬼とじゅんぺいの顔を交互に見ている。


「良いから早くっ!」


 そう言って花子の手を引っ張るじゅんぺい。

 その強引さに花子は、


「きゃっ!」


 と小さな悲鳴を上げた。


 次の瞬間、花子の見る景色が変わった。



「え?」


 そこは女子トイレではなく、教室だった。

 机はなく、椅子だけが教室の後ろ側に積み上げられている。壁には絵が飾られ、窓際や壁際の棚の上には彫刻や像が並んでいる。

 さらに、教室の端には、描きかけや、まだ真っ白なキャンパスがたてかけられていた。


「おい、これっ!!」


 じゅんぺいの声がして、何かが投げられる。それは、フワッと宙を舞って花子の元へと辿りつく。

 無意識に手を伸ばし、それを掴んだ花子。

 よく見ると、それは、所々に絵具の染み付いたタオルだった。


「それでタケルの汗を拭いてやってくれよ。ま、あんまり綺麗なタオルじゃねーけど、風邪ひくよりマシだろ?」


 じゅんぺいはそう言いながら、教室の端でゴソゴソと何かしている。

 花子は仕方なくあまり綺麗ではないタオルでタケルの額の汗をぬぐう。


「で、じゅんぺいくん、ここはどこなの?」


 花子は質問する。


「だから、ここがさっき言った……消えた美術室だって。」


 じゅんぺいは、ゴソゴソをやめずに答える。

 花子は次の質問をする。


「……消えた美術室?……で、あなたは何を探してるの?」


「ちょっと黙っててくれよ!時間がねーんだからっ!!」


 じゅんぺいが叫ぶ。彼の逆ギレに、花子は更にキレて返す。


「何言ってんのよ!全く意味が分からないわっ!!私に分かる様に説明しなさいよっ!じゅんぺいっ!!」


「……しゃーねーなぁ。時間がねーんだから手短に言うぞ。」


 じゅんぺいは仕方なく、しかしゴソゴソをやめずに話し始めた。


「まず、俺は長い間この夕暮小学校に住み着いてる都市伝説だ。」


「えーーっ!!」


 驚く花子。


「驚くのは後で良いんだよ。そしてここ、消えた美術室は、昔、13階段が反転させて腹ん中に仕舞い込んだ美術室。それが消えた美術室の原因だ。以来、ここは俺の宝物入れとして使ってるんだ。」


「宝物?……って、もしかして今……探してるの?宝物を?」


「ああ。」


 さっきからのゴソゴソは、どうやら宝物を探していたようだ。


「でも、どうして今、宝物を?もしかしてタケルと関係があるの?」


「そうだよっ!俺は記憶を絵に閉じ込める事ができるんだ。そして以前、俺はその能力でタケルから記憶を奪った。色々あって説明出来ねーが、タケルにはさっき全部の記憶を返した。……はずだったんだ。でもよ、今のタケルの症状は、記憶が思い出せずに脳に負荷が掛かり続けてる状態に似てる。もしそうならタケルの脳はもうすぐ耐え切れずに壊れちまうんだ。考えられるのは、俺が記憶を返し忘れてたって事だけだ。もしそうなら、この美術室の中に残ってるはずなんだよ。タケルの記憶を塗り込めた絵がさ。だから、早く見つけてタケルに返さねーといけねーんだ!」


 じゅんぺいは焦りながら言った。


「……そうだったのね。何か私にできる事は?」


 花子はじゅんぺい聞いた。


「……いや、大丈夫だ。花子さんはタケルの汗でもぬぐっててくれよ。」


 じゅんぺいはそう言って手を止め、花子に笑いかける。そしてすぐゴソゴソと再び宝探しに戻った。

 その時。


「ふふふ……。」


 不意に起こる笑い声。じゅんぺいの声でも、花子の声でも、ましてやヤマトの声でもない。


「!!」


 花子は驚く。突然、じゅんぺいの背後に何者かが現れたのだ。


「じゅんぺいくん、後ろっ!」


 花子が叫ぶと同時に、何者かも口を開く。


「あなたが探しているのは、多分コレね、狭山じゅんぺいさん。」


 落ち着いた女性の声だった。


「えっ!?」


 慌てて振り向くじゅんぺい。

 そこには、画用紙を持った女性が立っていた。優しそうな40代後半くらいの女性だった。手にした画用紙は半分に折り畳まれ、描かれた方が内側になっているのかこちらには白い部分しか見えない。

 女性が再び口を開く。


「……都市伝説・6人目と呼んだ方が良かったかしら?」


「あ、あなたは……!!」


 じゅんぺいの表情が凍りつく。そして、その名前が彼の口をつく。


「名前のない霊能師……様……。」


「な、何ですって!この女性があの、名前のない霊能師!!?」


 驚きの隠せない表情で花子は言った。さらに、


「でも、今、じゅんぺいくん、……様……って。一体どういう?」


 2人の関係が気になる花子。すると、それを察知したように、


「あら、知らなかった?」


 名前のない霊能師が、花子の方を向いて口を開く。


「彼は、私の6人目の弟子なのよ。」


 そう言うと、彼女はニヤリと不気味に笑ったのだった……。


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