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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
都市伝説事典編
105/137

1話 再開

3ヶ月ぶりの新章です。

「……うぅ。」


 タケルの意識が目覚める。

 ……目の前が真っ暗だ。


 ここは何処だ?

 俺は……そうだ!一年前の肝試しの現場だった夜の学校から強制的に元の時間、元の世界に戻されて……。

 でも、真っ暗だぞ。ま、まさか、また死んじまったんじゃないだろうな!?


 再び赤坊主と名乗った少年の所に来てしまったんじゃないかと心配になるタケル。


「……ケル……」


 ん?何か聞こえたなぁ?


 タケルは耳をすます。


「……ケル……タ…………ケ……」


 その声に集中するとともに、タケルの五感がブワッと急激に戻ってくる。

 タケルはヘドロの底のように重いまぶたを少しづつ押し上げていった……。


「うぁっ!ま、眩しい……。」


 久しぶりに目に届いた太陽の光。


「うぉーっ!やっと起きたか!タケルっ!!」


 聞き覚えのある声がする。


「……こ、ここは何処だ?」


 タケルは続けて先程の声の主の名を呼ぶ。


「……じゅんぺい。」


 声の主は、狭山じゅんぺいだった。

 タケルは木陰に寝かされていた。

 が、真夏の陽光が葉っぱの隙間からタケルの顔をガンガンに照らしている。


「日が避けられてねー。何のための木陰だよ?」


 タケルは呟く。


「え?」


 じゅんぺいは聞き返す。


「何でもねーよ。」


 タケルは、じゅんぺいに気遣いを指摘しても仕方ないなと思い、それ以上は言わなかった。


「とりあえず、俺は元の時間の元の世界に戻って来たってわけだ。あの後、夜の学校がどうなったかは正直無っ茶苦茶気になるけど、今は名前のない霊能師が上手くやってくれたって信じる以外は何も出来ねー。」


 それより、見たことのある木だ。

 タケルは起き上がり辺りを見る。


「学校の中庭か……。って事は、わかってくれたんだな、じゅんぺい。」


 タケルは言った。


「ああ。俺の右手にあった赤マジックの落書き……だろ?」


 じゅんぺいは答える。


「ああ。」


 うなずくタケル。

 記憶を取り戻すため、幽体離脱で一年前の夜の学校へ行ったタケル。……色々あって、タケルが時間の渦に巻き込まれ、強制的にこちら側に戻されようとしていた時、ヤマトに借りた赤マジックでじゅんぺいの右腕に書いていたのは、この時のための指示だった。

 それは、現在の夜の学校でホルマリン漬けの殺人鬼を1人で引き止めてくれている花子を必ず助けるための指示。

 タケルが幽体離脱を行ったのは、珍法蓮の幽体離脱道場の地下カジノでの事。もちろん体はそこに置いたまま……だった。体に魂が戻ってから学校に向かったのでは、花子救出に間に合わないと考えたタケルは、偶然にも一年前の肝試しと現在の地下カジノの両方で行動を共にしていたじゅんぺいに、自分の体を学校まで運んでもらうよう指示を書いていたのだ。

 では何故それ程までに急ぐのか?

 それは、最悪の未来を見てしまったからに他ならない。

 あの時タケルは見た。花子が夜の学校でホルマリン漬けの殺人鬼に吸収され、消滅してしまうという未来を。

 それを止める為には、なるべく早く旧校舎3階へと向かい、破壊された女子トイレを復活させなければならない。


「……。」


 タケルはポケットの中のものを握る。それは鏡のキーホルダー。その中には旧校舎3階奥の女子トイレにあった花子の鏡を復活させるため、夜の学校で得たスペアの鏡の力が宿っている。花子の鏡を復活させることは、女子トイレ全体を復活させることになり、女子トイレが復活すれば、花子は、ホルマリン漬けの殺人鬼のいる夜の学校からこちら側の世界へと戻って来ることが出来るというわけだ。


「おい、タケル。急いでんじゃねーのか?旧校舎に行くんだろ?」


「おぉ、そうだった!」


 幽体離脱帰りのせいか、まだ頭がぼーっとしていたタケルだが、そうも言ってられない状況だ。

 じゅんぺいがポケットから鍵を取り出す。


「ほら、旧校舎入り口の鍵だぜ。桜田先生に言って借りといた。タケルが貸して欲しいって言ったら、何か理由があるんだなってすんなりと貸してくれたぜ。」


 桜田先生は、人体模型に取り憑いた吉川先生の霊の件でタケルに借りを作ったと思っている。そして、生徒と先生の関係以上に信頼もしている。普通、今にも崩れる危険のある旧校舎の鍵を生徒に貸し出すなんて事は絶対にしない。しかし、それでも鍵を貸したのは、そういう訳だった。


「サンキュー、じゅんぺい。でも、あの時、旧校舎に行くって書いたっけ……?」


 タケルはそう言って考える。

 確か“幽体離脱中の体を学校まで連れて行ってくれ”だったような……。


「ま、良いじゃねーか、細かい事はよっ!さぁ、急げっ!」


 じゅんぺいは鍵をタケルに持たせる。タケルはじゅんぺいから鍵を受け取ると、


「サンキュー、じゅんぺい。」


 と言って、1人で旧校舎へと向かう。


「待ってろ花子……」


 その時。


 ドッ!


 タケルはフラつき、何もない所で蹴つまずいてしまう。


「うわぁっ!」


 前のめりに倒れゆくタケル。


「ぅおっと危ねーっ!!」


 急いで肩を貸すじゅんぺい。


「その状態じゃ、一人は無理そうだな。俺も一緒に行くぜ、タケル。」


「え?」


「行くんだろ?旧校舎3階!」


「いや、でも……。」


 タケルは二の足を踏む。

 じゅんぺいを危険に巻き込む事になるかもしれない。

 そんなどっちつかずのタケルに、じゅんぺいは痺れを切らして叫ぶ。


「もがーっ!急がなくて良いなら1人で行けよっ!今のお前はカメよりノロいぜ!でも急ぐってんならよ、つべこべ言わずに俺の肩を借りりゃー良いんだよっ!」


 急がなきゃ花子を救えない。

 それだけはわかっている。

 タケルは少しの沈黙の後、


「……頼む。」


 と、渋々答える。


「よし!じゅんぺいタクシー賃走入りますっ!!」


 じゅんぺいは笑顔で冗談を言った。


「……っ!言えねーけど、こっちにはいろんな事情があるんだっての!なのにしょーもない冗談なんか……」


 タケルはじゅんぺいの笑顔に悪態をつく。

 が、


「……ん?待てよ。それがじゅんぺいだよな。」


「そう!しょうもない冗談を言うのが俺だ!ハハッ。」


「何を自慢してんだ?」


 タケルは呆れた顔でじゅんぺいを見る。じゅんぺいもこっちを見ていた。


「……だからよ、タケル。お前はお前らしくだ。じゃなきゃ出来る事も出来ねーぜ。」


 それは、じゅんぺいの優しさだった。


「……だな。ハハッ。」


 タケルは、その優しさを噛みしめつつ、じゅんぺいタクシーに乗車した。





「く……」


 苦悶の表情で膝を折る花子。


「なんだ?もう終わりか?」


 長い髪の下でニヤニヤと笑いを浮かべ、花子を挑発するホルマリン漬けの殺人鬼。


「……。」


 しかし、花子はもうその挑発を受ける体力も残っていない。


「……しかたないなぁ。そろそろここらで、記念すべき108体目の都市伝説を吸収してやるとするかぁ。キシシ。」


 ホルマリン漬けの殺人鬼は、今までにないほどサディスティックな表情を花子に向けた。


『……ま、まだなの、タケル。もう私の力じゃ持ち堪えられそうもないわ……。早く……早く助けてっ!タケルッ!!」


 花子は心の中で叫んでいた。

 ここは、先程までタケルがいた一年前の夜の学校ではなく、タケルの生きる今、現在の夜の学校。旧校舎3階奥の女子トイレ。

 元の世界の女子トイレが吉川先生に破壊され、2つの世界は今、繋がりがかなり希薄な状態にあった。花子の能力であっても、お互いの世界の行き来はもちろん、鏡を通じての会話も出来ない。

 今、彼女を救えるのは、旧校舎3階奥の女子トイレ復活の鍵……鏡のキーホルダーを文字通り……握る御堂タケルただ一人……。

 果たして、タケルは間に合うのだろうか……?





「そこを右っ!真っ直ぐ行った所の階段を上がって!!」


 タケルのナビが旧校舎内に響く。

 既にじゅんぺいの肩を借りるどころではなく、彼におぶさり、じゅんぺいタクシーに完全乗車状態のタケル。


「ひ、人づかいが荒いね、お客さん……ハァハァ……。」


 じゅんぺいの息遣いも荒い。


「ほらっ!休んでる場合じゃねー!花子の命がかかってんだからよっ!!」


「さっきから花子、花子って、一体誰なんだよーーーー!!」


「良いから走れーーーーっ!!」


 さすがのじゅんぺいも、3階までタケルをおんぶしたまま走らされるとは考えていなかったようだ。


「ついてねーーーーーーーーーっ!!」


 じゅんぺいの本気の叫びが、旧校舎内にしばらくこだましていた。




「キシシ……。」


 ニヤニヤと笑いながら、上ジャージのフロントジッパーを下ろしていくホルマリン漬けの殺人鬼。


「……変態。」


 花子は軽蔑の眼差しを向ける。


「おいおい、俺にそんな趣味はねぇよぉ。ほら、良く見てろ女都市伝説。」


 ジャージの下から現れたのは、ヒョロっとした細く青白い上半身。

 その上半身の中心線と重なるように、ツゥーと赤い筋が入っていく。


「え?な、次は何よ……?」


 花子は全てにおいて既に限界突破寸前。不安が表情にモロに現れる。


「キシシ……。」


 その独特な笑い声を合図に、ホルマリン漬けの殺人鬼の上半身が、縦にグバァッと開く。


「!!」


 その中では、節足動物の足のように、肋骨のようなものがガサガサと蠢いていた……。

 まさに、ダンゴムシを裏返した時のような状態だ。

 花子はあまりのおぞましさに気を失いそうになる。


「別にこんな事しなくても吸収出来るんだけどさぁ……。でも、どう?こっちのほうがより恐ろしくてそそるだろう?キシシシシシ……!!!!」


 ホルマリン漬けの殺人鬼の笑い声が響き渡る。


「ああ……。タケル。あなたが間に合わないなら、私……自害した方がマシだわ……。」


 本気で死を考える花子。


「自害なんて出来ねぇだろ?都市伝説なんだからよぅ。だから……」


 そう言って花子に襲いかかるホルマリン漬けの殺人鬼。


「死にたいなら、俺に吸収されるしかねぇんだよぉぉォォ……!!!!」


 ヘビに睨まれたカエルのように1ミリも動けない花子。

 ホルマリン漬けの殺人鬼の蠢く肋骨が、今、まさに花子の腕に、足に、胸に、その頬に……触れようとしていた。


『助けてっ!タケルッ!!』


 固く瞼を閉じ、繋がらないテレパシーをタケルに送る。

 その時。


「……こ……」


 誰かの声が聞こえた。

 花子の視界が、瞼の中であるにも関わらず、強い光を受けたように急に真っ白に変わった……。


「花子ーーーーーーーーーーっ!!」



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