運転手さんと賢者マベル
「……はい…分かります…」
シスターの問いかけに、少し間が空いた後、手を上げて返事をしたのはバスの運転手さんだった。
その返事に、成功ですねと呟き、シスターはニコっと笑う。何が成功したんだ。
「あのう……」
運転手さんは、おずおずとしながら立ち上がり、シスターを見つめる。俺たち乗客はそれをじっと見る。
「私は、バス運転手、山田と申します。よろしくお願いしやす……あの、バスを運転していましたら、あの……ぐっ…く暗くなり、バスが揺れて、また眩しくなって……」
山田さん、緊張しているようだ。俺もすごく緊張しているので気持ちが分かる。バス運転手の責任感を持って質問する山田さんを心の中で応援する。
あと、山田さんの説明と俺が体験したことが同じだったのでやっぱりそうなんだと思った。
バスに乗っていたみんなに、同じことが起きていたんだろうか。
「そして、気づいたらここにいたのですが……も、もしかして、私は、こ……事故……を」
山田さんは顔面蒼白で今にも泣きそうな顔だ。
山田さん!頑張れ!と俺は心の中で応援する。
「えっと、ここは……あの?……あの世「ちがいます。」
シスターが言わせませんとばかりに被せ気味で返事をしてきた。
あの世ではない?俺も、もしかしたら……と思ったけれど違うらしい。いきなりバスから見知らぬところに居たんだ。臨死体験中と思ったのだ。
俺たち顔は暗い。顔から悲壮感と不安を感じ取ったのか、ふうと息を吐いてから膝を折り頭を下げてシスターは話し始めた。
「聖者様。はじめまして。私はマベルと申します。賢者でございます。私共の国を聖者様達に救っていただきたく、召喚儀式を行いました。ここの世界は、聖者様達の世界とは、別の世界でございます。ご安心ください。聖者様達に、私達は危害など一切加えません。また、元の世界に帰ることも、もちろんできます」
聖者って何だ?と思った。色々と引っかかるが、まずバス乗客に中に聖者がいたんだろうか?
それに巻き込まれたのか?
聖者じゃない俺はどうなるんだ?いや、俺が聖者だったり?ないよな。ははは。
山田さんが大事なところを、賢者のマベルさんに質問した。
「あの、聖者ってなんですか?」
マベルさんは顔を上げて、にこりと微笑んで返した。
「ここにいらっしゃる17名様、皆様のことでございます」
バス運転手の山田さん。50代。
勤続年数が長いベテラン運転手さんです。
少し気弱そう。